コロナ禍が飲食業界にもたらしたポジティブ要素

 ようやく福岡は緊急事態宣言が解除され、飲食店も条件付きではあるが営業できるようになった。この期間に飲食店が受けた打撃についてはメディアやSNSでも散々言われているのでここで改めて書きはしないが、解除になったとはいえ、依然リモートワークの会社も多いし、人がすぐ以前のように外食するわけではないので、営業はできるものの、売り上げは通常の状態にはほど遠い。また、宴会もまだまだやらないだろうから、大人数での飲食も当分戻ってはこないだろう。そもそも席数を減らしているところがほとんどなので、一見空席がないようにみえても、実際の売り上げが以前よりかなり少ないのは言うまでもない。
 飲食業界にこれまで誰も経験したことがないような打撃を与えたコロナ禍だが、少しはポジティブなこともあったのではないだろうか。それがテイクアウトやデリバリーだ。今、現在もまだお客さんが少ないこともあり、店内の営業とテイクアウトやデリバリーを併用しているところが多い。そもそもこのテイクアウト等は休業により売り上げがゼロになるので、せめて少しでも売り上げをあげようと各店が始めたのだが、実はテイクアウトと飲食店営業というのは似て非なるものであり、食材管理、オペレーション、パッケージや盛り込み、食中毒への配慮など、飲食店の人たちも初めてやることが多かった。また、テイクアウトやデリバリーという、店以外で食べるものの販売についてはいろいろと制約や申請しないといけないものもある。元々飲食業界は多くの利益をあげるのが難しい業態であり、不景気などから店内での飲食以外の売り上げをあげることを模索しようとしているところは多かった。しかし、日常の忙しさにより、わかってはいてもそれらに手を付けないままズルズルと日にちだけが経っていっていたという店も少なくないだろう。それが今回のことで、時間もでき、実際にそれらにチャレンジせざるをえない状況になったのだ。皆が休業しなければならなくなり、一挙にテイクアウトを始める店が増えたが、端から見ていても苦労している店が多く、体力的、精神的に疲弊しているのがみてとれた。しかしそんななか、やりながら改善していったり、一度やめて仕切り直したりして、テイクアウトのノウハウを徐々に身につけていったのだ。
 これから、前のように飲食店として営業していけるようになると多くの店はテイクアウトやデリバリーをやめて、前と同じ営業をするかもしれない。しかしそんななかでも以前の営業をしつつ、一部テイクアウトやデリバリーを残すところがけっこう出てくると思う。たとえば今まで特にやってなかったけれど、事前予約があれば前菜の盛り合わせをファミリー仕様で作ってテイクアウトできるようにするとかだ。そうそう、今年はクリスマス用のオードブルやおせちをやるところもいつもより増えるに違いない。これらのことにより、今まで人気店と知っていて行ってみたかったけれど、高齢だったり、小さい子供がいたりなどさまざまな理由でなかなか外食しづらかった人たちも、若干冷えたりはするかもしれないが、お店の味を家庭で味わうことができるのだ。
 たとえば今回のことでパスタソースを商品化した店も多い。これも今回店としては初めてやってみて、いろいろな試行錯誤の結果、きちんと家庭でおいしくできる商品として完成させることができている。こういうのは、今後もレストランの店内飲食以外のビジネスとして成り立っていくだろう。今は真空パックも店で簡単にできるし、ネット通販も既成のプラットフォームがたくさんあるし、ウーバーなど配達サービスもあるのでなおさらだ。もちろん販売する商品によって、仕出しの営業許可が必要だったり、別途許可が必要な商品があったりする。今回の自粛期間はそれを守ってない店もおそらくあったと思われるが、事態が事態だし、行政や保健所もコロナ自体のことでそれどころではなかったと思うが、今後やる場合はきちんとルールを守ってやらねばならない。
 こんなふうに、飲食店が新たな売り上げをあげるチャレンジができたこと、そして家庭でもお店の味を味わえる機会が創出されたことは、コロナ禍という試練があったからこそだろう。

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