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162: ミツバチが集めた甘い結晶,魅惑のはちみつ色

森の奥深く
貴方が知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

店の棚の前に,とろける笑顔の男性がいる。
その横顔を見つつ,色屋は声をかけた。
「いい思い出がおありのようですね」

男性はハッと気がついた顔をし,
色屋に返事をした。
「ええ。 お恥ずかしいのですが,
私は甘いものに目がなくて…

噂のパンケーキ屋に来た。
男1人というものは,
このように可愛らしいテイストの店では
大層浮くのは分かっているのだが,
今回は本当に辛い…
じっくり堪能したい気持ちと,
早々に立ち去りたい気持ちとで
肝心のパンケーキの味が半減している気持がする。

とはいえ、ふわっと焼かれた生地は
ほんのりと甘く,重ねられた高さといい,
置かれたバター,そっと添えられている
真っ赤なベリーのジャム,極め付けは
とろりと掛けられているハチミツ!
多すぎず,少なすぎずと言う,いつかどこかの
雑誌や店の紹介で見たような
一度は食べてみたいと思わせるとろけ具合!

僕は,様々な感想を胸に抱き,
目の前に置かれたパンケーキに
しばらく釘付けになっていた。

”さぁ,熱いうちにいただこう。“

サクっと入るナイフ。
ジュワッと滲み出るバターや蜂蜜のハーモニー
おひとり様が辛い?
そんなこと言って避けてる場合じゃない!
後は夢中になって食べたのだった。

はぁ,美味しかった。
そんな感想をいつだったか呟くと,
隣の席の彼女が「今度は何を食べて来たの?」
僕が,甘いものに目がないことを知っているので
目をきらきらさせて尋ねて来た。
「パンケーキをね…」
「知ってる!あそこの店でしょ?
あの店のパンケーキすごく美味しいのよね〜。
パンケーキの高さといい,バター,ジャム,
ハチミツの量がちょうどいいんだよね〜!」
で,いつもちょっと混んでて待つの,
だから行くの躊躇するんだよね〜」
「僕も恥ずかしながら並んだよ」
「だよね〜」

「……今度」「……今度」声が重なった。
「「一緒に行かない?」」

かぁっと顔が熱くなる。
声が重なったのも恥ずかしいが,
(少々期待を込めて,しかし)
何の気なしに誘うと言う行為も,
恥ずかしかったからだ。

見ると彼女も耳が赤く,目が泳いでる。
お互いが繋がった瞬間だった。

そこから,彼女と甘いものを食べに行ったり、
外に行って,思い切り体を動かした後に
バーナーで湯を沸かし,コーヒーはもちろん
トロリとハチミツを湯に溶かし,レモンを添えて
ふぅふぅ冷ましつつ飲んで,お互いが持ち寄った
甘味を食べたりして,数年を共に過ごした。

「だから新居には,何処かにこのハチミツ色の
何かを置きたくて。 探している動機が
照れ臭くて恥ずかしいんですけれど」

頬を緩ませ思い出を話す男性の顔を
にこやかに見つめ,瓶を手に取る色屋。

「甘いお話を聞かせていただきました。
ハチミツの結晶色はこちらですね。
とろりと甘い幸せを重ねていってくださいね」
「ありがとうございます。
こちらの色ならカーテンでもいいし,
テーブルや床,クッションなどの色にも
溶け込んで馴染みますよね」
あんなに甘い惚気話しを聞かせた後に
結構,現実的な用途を話して帰る男性。

キッチリと作られた,彼らの巣が完成する日は
近そうです。  甘い誘惑だけでは、
均整の取れた美しい巣は完成しませんからね。

またのお越しをお待ちしております。
カランコロン…




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