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462: 背伸びして、初めて飲んだピーチフィズ色

森の奥深く
貴方が知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

………
ザワザワとガヤガヤを合わせたような
賑やかな海辺のパーティ会場。
慣れないヒールとサマードレスで、
はぐれてしまった友人を目線で探す私。

足元はグラグラとまではいかないが,
いかにも履き慣れていない様子が丸出しだし、
サマードレスも,思い切って大胆に
背中が出ているのを選んだせいか,
太陽に焼けてジリジリするし,
スースーもするし、落ち着かないこと
この上ない。

「はぁ,慣れないことをしなければよかった…」

と、やっとこさ会場の隅まで移動して,
私はため息をこぼした。

昨夜の,友人とのウキウキとしていた気分は
遠くの彼方へと吹き飛んでしまっている。
「せめてもう少しヒールの低い靴か,
スースーしないドレスにしておけばよかった」

周りを見渡すと,色とりどりのドレスや
すらっとした夏の装いの男女が,キラキラと輝き
楽しげにおしゃべりやダンスを楽しんでいる。

「みんな思いっきり夏を楽しんでる。
私だけ乗り遅れちゃった…」

と,グチともつかない独り言を言っていると,
これまたヨロヨロと人混みから男性が
抜けたしてきた。
「フゥ……」
壁際の私のことなど気がついていないように
男性は壁際にたどり着くとため息をこぼした。

「せめてもう少し履き慣れた靴か,
見慣れた色の服を選んだらよかった…」
「みんな思いっきり夏を楽しんじゃってるよな。
僕だけ残っちゃった感じだよ…」と,
さっきまで私が吐いていたのと同じようなグチを
彼がこぼしたのだ。

“プッ”
思わず小さな笑い声をこぼしてしまった。

さっと彼の頬に赤みが刺した。
いま、隣に人がいるのに気がついて
恥ずかしくなってしまったようだ。

「ごめんなさい。私も同じことを言って
夏を恨んでいたところだったから」
「へ,へぇ。それは大変だ。」

「初めまして。私,翠(みどり)です」
「僕は浅葱(あさぎ),よろしく」

お互い“賑やかすぎる場所に気後れするもの同士”
という共通点があったからか,
友人と来たがはぐれたこと,
支度に張り切ったが失敗だったこと,
案外近い出身地だと言うこと,などなど,
私の方から,恥ずかしいけれども話し始めたら,
彼も同じだよ!と相槌を打ってくれたので,
どんどん打ち解けられた。

暫くすると
友人が私を見つけて寄ってきてくれた。
「ごっめーん!うっかりハグレちゃった!
でも,素敵な人と出会っていたのね⁈」と
ニヤニヤしていう。
「ちっ!違うよ!ば,バカっ!
恥ずかしいじゃない」
「はいはい。そうですかぁ〜」ニヤニヤニヤ。

「2人ともいい雰囲気だし,あちらに
カクテルがあったから座って喉を潤したら?
…っということで,私はあちらへ行ってくるね〜
飲みすぎないようにね!じゃ,ね!」

「「あっ。えっと…」」
ひらひらと手を振って人の輪に戻る友人を
見送った私たちの間に沈黙が訪れる。

「の,飲み物をとりに行って,少し座ろっか…?」「う,うん。そうだね。」
上擦った声で声を掛け合い,移動した。

カクテルはキラキラと素敵な色で作られていて
とっても素敵に見えた。
でも,どれを選んだらいいのか分からない私に
バーカウンターの男性が
「ピーチ味が甘くて美味しいよ!」と
ウインクをしながらお勧めをしてくれた。

「彼は〜,爽やかになるモヒートにしておきな!(彼女とのキッスに備えてな!小声)」
これまた特大のウインク。

真っ赤な顔の彼と,ドギマギしている私とで
カウンターの人には,
さぞかしウブな2人に見えたのだろう。
豪快に笑ってテーブルのある場所を教えてくれ,
手を振って送り出してくれた。

お酒はほとんど飲んだことがない私。
だけれども,少しだけ背伸びをして飲む
ピーチフィズはとっても美味しくて,
なぜかドキドキしている私の心臓を
もっとドキドキとさせる。

少しづつ飲み進める私。
この夏が,とっても楽しくて忘れられない
宝物の時間になる予感がする。
太陽の光でキラキラ光るグラスを見つめ,
思い切って彼に言ってみたい…

「あの,いつでもいいの、
貴方にもう一度会いたいんだけ…「喜んで!」
食い気味に返事が返ってきた。

キラリと一際強く輝いたグラスは
私を応援するかのように見えた。
「頑張れ私!夏を楽しむのよ!」
私はお腹に力を入れて,彼を見つめながら
『夏のやってみたい事リスト』を話し出した…

そんなキラキラした色が,色屋の棚にある。
幸せのお裾分け色なのでしょうか?
数滴,ピーチフィズに垂らして
私たちも頂きたいですね。
忘れられなかった思い出が湧き上がってきたり,
勇気をもらえたりするかもしれませんもの…


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