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虚無のスポット : 独り言




ある人と話していたら、
「一人でいると、時々、あー死にたいなって、思うんです。
あ、そんなに重たい感じじゃないんですよ。ふつーに、あー死にたいなって思うんです。」
と言う。

「え?でも、言葉としては結構重いですよね?」

「そうなんですよ。だから、友達とかいる時は、心配されるから言いません。
もっと軽い感じで、あー死にたいなって思うんです。」

「……。
あの。私、死にたいなって思わないから分からないけど、一人の時間が多いから考えちゃうんじゃないですか?
働いた方がいいのかも?」
と、アホな事を言った。
死にたいと言うパワーワードをとても軽い感じに言うから、脳みそが誤作動したのか、確信に迫りたくないから、逃げたと言うべきか。

「働きたくないー。」

「ですよね。」
いつも彼女とは、如何に家にいて過ごせるか、あわよくば働かずに過ごせるかを話していた。


そんな会話をした夕方。
髪の色が抜けて来たので美容室に行った。
担当の美容師さんは決まっていなくて、自分の時間に合う時間に予約をしていた。
髪を前回と同じ色で染めるだけだから、大丈夫だろうと思っていた。
私の髪色はアッシュのミルクティー色。
かなり明るい色と言うか、白髪と言うか金髪と言うか。
新人らしき美容師は、
「前回と同じ色でお願いします。」
と言うと、
「あ、はいはい。
だけど、これだと色が入りませんよ。
今だって明るいのに。これくらいでいいですか?」
と言う。
「え?前回と同じ色でいいんです。」
「はい。ミルクティー色ですよね。はい、分かりました。」
と、理解したのかしないのか分からない反応のまま、カラーリングを始めた。

「髪を流します。」
と言われ、シャンプーが始まると、髪の表面だけを永遠に洗っており、地肌が洗われる感覚がない。
「洗い足りないところはないですか?」
と言うので、
「後ろ側。」
と言ってみたが、髪ばがりを洗い地肌が全く洗われない。
だから、生え際に付いたカラー材をタオルでゴシゴシ拭いていた。
地肌を洗わないからそうなるよね。

「流して行きますね。」
今度は、ひたすらシャワーで流すだけ。
確かに流してるけど。

「流し足りない所はありますか?」

もう、何を言っても無理そうなので、

「はい。」
と、返事をした。

「では、トリートメントして行きます。」

家に帰って洗い直しするのに、トリートメント料金が追加されている。

元の席に戻り、鏡を見るとびっくり。
髪は、真っ黒に染められていた。

髪を乾かすのも、やっぱり表面だけだから、えらく時間がかかった。
ドライヤーを取り上げて自分で乾かしたい衝動を必死で抑えた。
乾かし終わると、

「これでいいですか?」
と言う。

良いわけがない。

「ミルクティー色と言いましたよね?」

「え? 退色したら明るくなりますから。」

「ミルクティー色ではないですよね。」

「青を入れておきました。」

ミルクティー色にしたいのに、『青』はどんな関係がある訳???

本当はブチ切れたかったし、料金も払いたくなかったけれど、ブチ切れもせず、料金をちゃんと払って帰って来た。
お客の希望を無視しても、お金って取っていいのか?
お金を払うって、売ったモノの価値に対してじゃないのか?


家に帰り、洗面所の鏡を覗くと、髪は黒々としており、よく見ると、青くまだらだった。

しかも、頭皮にはカラー材が茶色く残っていた。

鏡を覗くほどショックで、
自分でシャンプーし直してみたけれど、黒々とした髪がショックで。

そう、
その時、
「死にたい」
その言葉が浮かんだ。

髪の色ひとつで?

そう。
髪の色ひとつで。

死にたいくらい、ショックなのだ。

彼女の
「あー死にたいな。」
は、こんな感じなんだろうか?と、彼女の言葉を思い出した。
どうしようもない、消失と諦めきれなさと。
多分、同じ「死にたい」でも、その形や色は全く異質なものだろう。
だけど、本当に簡単に「死にたいな」って感じはやって来るものらしい。

美容師の気持ち悪さと、変えることの出来ない髪色が、とても不快で、夕飯を摂る気にもなれず、外の豪雨が気にならない程ショックだった。
とても自分の気持ちを立て直せそうにない。

こう言う時は、寝るに限る。

豪雨の音など全く気にも留めず爆睡したら、雨はあがって真っ白な朝だった。
小鳥があちこちで鳴いている。
眠るってすごい。
「死にたい」くらいのショックは、微かな匂い程度に薄まっていた。
実は、眠るのにも体力がいる。
眠って回復出来る体力が私にはあるのだ。
その事を、自分で自覚しているところが私の強さだと思う。
色んな事を乗り越えて来て、食べる事、寝る事が出来れば何とか乗り越えられると知っただけなんだけど。
何も考えず寝るのは、どんな薬よりも効く。


また、洗面所の鏡で髪色を確認した。
真っ黒な髪が似合わない。
まるで自分じゃない気がする。
だけど、誰が私の髪色を気にするだろう?
しかも、金髪よりはるかに黒髪は普通の色だ。他人からすれば、黒髪の方が普通なのだ。
もしかしたら、神様が黒髪にさせたかったのかもしれない。
…なんて、思えたりもした。
どうしても黒髪が嫌なら、ベリーショートにしても良いしね。







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