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夏の空


次々に表情を変える夏の空が好きです。

晴れていた空が突然曇って地上に雲が降りて行く様な空。
雲が降りた場所には雨が降って、
それを眺める私の頭上には青空が残っています。
でも、もう少ししたら、私の頭上にも雲が広がって雨が降ります。

パラパラと言う音を聴いて、
「ほら来た。」
と、呟きます。
その時の状況で、もうちょっと待って…と、思うこともあるし、
やって来た雨が強くなるのを眺めることもあります。

今日は、
あまりの暑さに、絵の梱包がすごく億劫で、
ようやく腰を上げ梱包を始めると滝の様な汗が流れ、
思うように進みませんでした。
梱包がようやく終わり、
車に絵を運ぼうとすると雷鳴が遠くから響きました。
雨の中、大きな絵を運ぶのは厄介。
さっさと事を運べない自分を責めそうになりましたが、
それよりも、
「今日搬入する必要がある?」
と言う考えが浮かんで来ました。
何で今日搬入したいのか自分でも分かっていません。
仕事を定時で切り上げれば、平日に搬入出来るのだし…。
本当は、大学が開いている平日に搬入しなくては行けないのに。
今日搬入したいのは、
職場に絵を持って行くのが嫌だからなのだろうと思います。
悩んだけれど結局は、
雷鳴を聴きながら急いで絵を車に運び、
車に運び終わると、雨がフロントガラスに落ち出しました。
何で今日搬入したいのかをあれこれ考えながら、
バイパスに乗って大学に向かうと
道路が思いの外渋滞しながらもスムーズに流れています。
大学のある場所の方が先に雨が降ったようで、
あちこちに水溜りが出来て道路が濡れていました。
芸術棟の玄関に車を乗り入れ、車のドアを開けると、
湿度100%かと思うようなねっとりとした空気がまとわりつきます。
土砂降りの雨がサンダルの足元を容赦なく濡らしました。
玄関はもちろん施錠されていて、
正門の守衛さんに明けてもらわなくてはなりません。
傘を差し正門のまで行って事情を説明すると、
大学の中を通って芸術棟まで行くように言われ、
守衛さんの後ろについて、久しぶりに大学の構内を歩きました。
芸術棟に続く渡り廊下は全面ガラス張りで、
見上げると頭上には青空が広がっています。
それなのにまだガラスには雨がぶつかって
雨に濡れずに雨の中を歩いている様で不思議な感覚になります。
大学に通っている時、この渡り廊下が好きでした。
ガラス張りの中と外の空気の塊の違い。
繋がっている様で分断されたその違和感が面白かったのです。
芸術棟に着き、玄関を開けてもらう頃には雨はすっかり上がっていて、
絵は濡れる事なく搬入完了。
こんなに雨の切間にピッタリ運び込めたのに驚きです。
私は強運の持ち主に違いない…ちゃっかりそんな風に思います。
さっきの空模様が嘘の様に青空で入道雲は遠くに見えました。
「このままどこか遠くに行きたいな。」
ふとそんな考えが湧いて来ました。
どこでも良い。
どこか遠くへ…。
正面玄関に戻り、守衛さんにお礼を言って車に乗り込んだけれど、
近くのカフェに行っただけでした。
どこか遠くへ行った妄想だけで楽しいのです。
カフェで読書をしようと思ったのですが、
クーラーが効き過ぎて長居するには寒過ぎました。
ちょうど良い場所とは中々ないものなのでしょう。
夕飯の買い物をして家に戻ると、
西に傾いた太陽が積み雲たちを強く照らし出していました。

家に着いて教授に休日なのに搬入して、
守衛さんにお世話になった事をLINEで伝えると、
展覧会のDM沢山配って…と、返事が来ました。
教授と私たちにとって展覧会はお祭りなのです。
絵で繋がる祭典…と言うか。
流行り病の前は、暑気払いとか新年会とか色んな理由で集まったのですが、
今は展覧会だけが唯一の集合場所になりました。
環境で人は変わっていく…。
そう、静かに受け入れるのは私にとって何故か自然な事なのです。
静かに空気の様に、流れて行くのが常なのです。

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