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恋 : 独り言



「せんせぇのこと好きなの。
 だからずっと一緒にいたい。」

と、
散歩しながら、恋独特の気配を漂わせながら私に言った。



こんな言葉を聞いたら、誰もが嬉しいと感じるんだろうか?


傷付けないためにはなんて答えればいいのか、頭の中が1000倍速で動いて行った。

だって、
私は、
彼のおばあちゃんと同じくらいの年だから…。
おばあちゃんの年って、結構長い長い時間を生きている。もう、1000年くらい生きている気がしている。
『恋』とか、まるで映画を見るようなかけ離れたところでしか感じない。
はて?
私は恋なんてした事があったのだろうか?…それさえ怪しい。
少し年上の同僚には恋人がいて、
「今日は○○さんに会うんだ。」
と、言う時も、
「そうなんだ。」
としか思わない。
欲しいものが違うんだ。
そう言うモノが欲しいと思っていなくて、フリーレンに憧れる私は、花畑を出す魔法と、飛べる魔法がマジで欲しいと思っている。
それが手に入るなら、瞑想し続けてもいい。



彼はこの頃、
「帰りたくない」
を連発していた。
ただ帰りたくないとも言えるのだけど、まるで恋人同士が
「帰りたくないの」
と、言っている雰囲気があって、
「私らカップルか?」
と、いつも心の中でツッコミを入れていた。
あながち検討違いでもなかったらしい。

「そうなんだ。
 全然知らなかったよ。」
と、まるでトンチンカンな、誤魔化したとも言い切れない訳の分からない返事をしてしまった。
彼は急に歩みを早め一人先を行く。
小さな背中。

追いつくと彼はいつもの笑顔の可愛い彼だった。
下らない事を言い合いながら、散歩も終わりに近づくと
「あー、楽しかった。」
と、家に一人で走り出し帰って行った。
いつもの、
「帰りたくない」
は、なかった。
本当に楽しかったのか?
でも、そう言うならそれを信じよう。



私は『恋』を望まなかった訳ではなかったようだ。
私にとっての恋は、『時間の共有』
正しく彼が言った
「好きだからずっと一緒にいたい」
ただそれだけだった。魂と魂が隣にあって時間を共有すること。
だけど、現実は、体だのお金だのステイタスだのと色んな付属品がぶら下がっていて、そんな付属品がぶら下がった人しか現れなくて、私は恋に興醒めしたんだ。

彼は、この現実社会とは少し違った世界で生きていて、故に生きるのが大変だ。
私には、歪んでいるのは社会の方で、彼の野生と言うか、感覚で生きている感じを大切にして欲しいと思う。
だけど、その感覚を持っていたら、この社会で生きていくのは難しい。
人は人になるように洗脳されて生きている。
規格外の人間はこの社会には不要。
野菜や果物が規格外になるのと同じ。
洗脳が上手く行かなかった私や彼は、社会からちょっとズレていて、私はちゃんと社会用の仮面を被り、彼も仮面を作成している。
彼の仮面は能面みたいで、仮面を見た時悲しいと感じてしまった。
そんな仮面を外せる相手が私だったのだろう。

…そんな事を感じられたのも、本当はちゃんと、魂と魂で時間を共有出来ていたからかもしれない。
そう思うと、小さな彼と私は、『恋』をしたのかもしれない。
いや。
恋と言うものを知るのに、私が半世紀かかったってこと。
彼と出会わなければ、私も常識と言う仮面を外す事が出来なかったんだろう。
日常の上っ面な魂の抜けた会話。
その気持ち悪さ。
彼と私の共有した時間に、上っ面の会話なんかなかった。

「子供に嘘なんかついても無駄なんだよ。子供は大人の嘘を見破るんだから。」
と、彼が言った時、つい笑ってしまった。
「そうでなくちゃね」
と、思ったから。

仮面を外せたのは、お互いに…だったんだ。






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