( 引用 )川上未映子 「ウィステリアと三人の女たち」
春になると、老女と外国人教師は授業のあいまによく縁側にふたりで並んで、藤の木を見上げた。Wisteria、外国人教師はふと藤の花房と自身のあいだの空白に呼びかけるように呟くことがあった。そしてある日、おなじようにふたりで藤の花を眺めているときに、きみのことをウィステリアと呼んでもいいかと老女に尋ねる。
「いいけれど、どうしてウィステリアなの」
「わからない」外国人教師は微笑んで言った。
「ただ、きみの本当の名前はウィステリアなんじゃないかと思ったんだ」
「本当の名前?」
「う