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「デザイン経営」という言葉の危うさ、中小企業はまず「経営」に目を向けよ

昨日の「私のデザイン経営 強くて愛されるブランドをつくる人々」のゲストは、中川政七商店の中川さんでした。

この番組、僕は、なんと第一回に出演させて頂いたんですね。環境大善の窪之内社長が、今後の事業展開について色々考えてた時に、僕のブログを読んだことが、「ブランディング」に取り組む切っ掛けになったということで声をかけて頂いたんですが、実は、そのブログで取り上げていたのは、中川さんの書籍でした。

当時、木村石鹸もブランディングに取り掛かろうとぼんやり考えてたんですが、その時、まず、勉強として幹部メンバーで、中川さんの本の読書会をやったんです。

ブランドやブランディングの本で、ここまで実践的で、且つ、具体的で、しかも僕らみたいな中小零細企業のスケールにフィットする内容のものはないんじゃないかと思います。

僕は、当時、まだ中川さんとは面識がなかったけど、上記2冊にはすごく感化されたし、ブランディングに取り組もうという意欲や勇気を与えてもらいました。その意味では中川さんはある意味、僕にとっても窪之内社長にとっても恩人だったりするわけです。

今の木村石鹸が決して安定してるわけでもないし、安泰でもないですが、でも、あの時、ブランディングに取り組んでなかったら、今頃、状況はもっと厳しかったんだろうなと思います。なので、僕としては、僕らみたいな中小(零細)企業にとって「ブランディング」は物凄く重要だし、その効果みたいなものも実感してるので、迷ってる人がいたら、取り組んだほうが良いですよ、とは言ってたりします。

このトークイベントの中で、「デザイン経営」についてどう思われますか?というクリエイティブディレクター鎌田さんの問いかけに対して中川さんは、

デザイン経営という言葉は中小(零細)企業にとっては危険な言葉だと思う

というようなことを仰ってたのが印象的でした。

第一回の時に、僕が同じ質問をされた時、僕は「経営がデザインみたいなもんじゃないか」というようなことを述べました。

何か商品やロゴみたいな分かりやすいアウトプットでイメージを作ることがデザインなのではなく、ビジネスの仕組みや顧客との関係、社内への伝え方、これら全てが「デザイン」の領域であり、デザイン的な思考が求められてるんではないか。なので、「デザイン経営」という言葉が、あたかも新しい経営手法や経営の在り方のように語られてはいるけれど、感覚的には、経営にはそもそもデザイン的な思考やプロセスが必要だったり、組み込まれてるんじゃないか。そんな感じのことを述べたと思います。今でもそんな風には考えています。

一方、中川さんは、「デザイン経営」という言葉の前に、そもそも、中小(零細)企業は「経営」が出来てない、と指摘されていて、流石だなぁと感心してしまいました。

算数で言えば、九九も出来てないのに、いきなり微分積分をやるみたいな話ではないか。まず九九ちゃんとやらないと。
デザイン経営という言葉は難しすぎるので、あくまでも「経営」の中の1つの手法や技法としてデザインがある、という位置づけぐらいで考えたほうが良いのではないか。

地方の中小のコンサルティングについての話の中でも、中川さんは、そもそも中小企業は、「経営」が出来てないところが殆どなので、きちんと最低限の「経営」をするように指導すれば絶対に良くなるんだ、と仰っていました。

自社(自身)の立ち位置を「経営者の家庭教師」と称されていたのは、「デザイン経営」や、「ブランディング」だ、という前に、まず経営者が、ちゃんと経営する、というところに立脚しないいけない、という決意であり、指摘なんだろうなぁと。

この話を聞いて、確かにそうだなぁと。そして、自分もブランディングや組織改革みたいな話を方々でさせてもらうようになったけど、自身がやったことを冷静に振り返ると、かなり無責任な話ばかりしてたなぁと少し気まずく感じたんですね。

どうしても、商品とかクリエイティブとか、目で見て分かりやすい要素が注目されるし、その辺の話の方が受けそうなので、ついついそういう話ばかりしてしまうのだけど、その前にやらないといけないことがあって、そっちの意識も上げていかないと本来はダメなんじゃないかと。中川さんの指摘で気付かされました。

僕が木村石鹸に戻ったのは2013年で、自社ブランドの商品を起ち上げたのは2015年です。2013年に戻って、まず、何をしたのかというと、色んなことを平行で進めたわけですが、その中でも、やはり会社としての経営の最低限の環境を整備していく、ということはかなり力を入れました。

戻ってきて、最初驚いたのは、目標や予算、計画などが全くなく、社員のほとんどが売上以外の数値を把握してないし、追いかけてもいない、ということでした。月次の決算書を見てるのは、親父ぐらいですが、その決算書も、棚卸が反映されてないので実態は良く分からないわけです。

過去10年ぐらいの大きなトレンドで、P/Lを追いかけてみると、売上高総利益率がどんどん悪化してる。販管費は変わってないけど、粗利率が悪化してるので、結果的に営業利益を食いつぶしていっている。そういうトレンドは分かったものの、なぜ粗利率が低下してるのかは誰も良く分からない。当然ながら、粗利率の悪化に対しての何らかの対策があるわけでもない。

僕が見るに、誰も何も「経営」されてない状態が、そこにあったんですね。

そこで最初に取り組んだのは、まず、現状の数値をもっとクリアにしていくことでした。商品ごと、得意先ごとの粗利をきちんと把握する。固定費と変動費(今はMQ会計の考えを導入してるので変動費/固定費とは少し違うけど)を分けて、損益分岐点を把握する。現状がある程度わかれば、そこから目標や予算を立てる。目標や予算に対して施策を考えて実行する。計画と実績を毎月振り返る、乖離をチェックする。その乖離の原因を分析して、また対策を講じる。

言ってみれば、ものすごく当たり前のことです。所謂、PDCAです。でも、中川さんが指摘されるように、中小零細企業というのは、このレベルも出来てないわけです。過去の遺産や資産で、ある意味「どんぶり」経営で、なんとかなってきてたんです。そこをまず「普通」のレベルに持っていく。これは確かに「デザイン経営」云々の話ではなく、それこそ九九レベルの基礎です。

ちなみに、当時やったこととしては、業務用分野の商品については、一斉に値上げを実施しました。20年間同じ価格で販売している状況でしたが、商品ごとの粗利を見ると、原料費はどんどん上がってるので、ものすごく薄利状態だったんですね。

現場からは一部、値上げすると顧客が離反する、競合に取られる、という懸念もあったのですが、ある程度の離反も仕方なしということで実施しました。

ある営業マンは、得意先から「こんな時期に値上げするなんで信じられない。お前のところはもう二度と使わない。お前んとこみたいな会社は絶対にダメになる」と罵声を浴びせられたりもしたそうです。実際、取引がなくなったり、競合に乗り換えらたりしたケースもあったのですが、心配したほどの大きな損失は出ませんでした。

あと、これも今となってはですが、当時、80社ぐらいのお客さんは、毎月「集金」をしてたんです。小規模な事業者さんが多かったんですが、昔からの名残で月末になるとうちの営業2名が集金に走り回るわけです。一カ月のうち3~5日ぐらいは集金業務なんですね。

集金してる80社のトータルの売上は、業務用分野の中での20%ぐらいの比率だったと記憶してます。これを振込に変えてもらうことにしました。

集金の時に、顔を出すという営業的側面もあり、それがあるから継続購入してもらってたりもするので、集金を無くしたら、他社に切り替えられる、というような心配の声も上がりました。

一部のベテラン社員からは、集金に行く、みたいなことも、昔からの関係を大事にする木村石鹸らしさなんじゃないか、それを若い息子が戻ってきて振込に切り替えるってやると、僕への反発も出るし、それは「木村石鹸は変わった、悪い方に変わってる」というように思われてしまうんじゃないかという懸念の声もありました。

ただ、これもどう考えても、この80社に力を入れても、成長は難しいんですね。決してそれらの得意先さんを下に見たり、重視しないというわけではないのですが今の状況や売上や利益なんか総合的に判断して、振込に切り替えて、他社に切り替えられるなら、それはそれで仕方ない、集金業務に使ってた時間を、新規客獲得の方に使えば良い。そんな風に考えて断行しました。結果的には確かに数社取引がなくなったところも出ましたが、こちらも大半は移行に快く協力して頂けるところが多かったんです。

値上げしたことで収益性が改善しました。集金業務の時間から解放された営業は、より市場が大きく、お客さんも大きい関東圏への出張、営業の方に時間を割けるようになりました。これによって思惑通り、新規も増えたんですね。右肩下がりだった業務用分野も売上を伸ばしていけるようになったわけです。

こんな話は講演や取材でも、ほとんどしません。地味すぎて面白味もないし、多くの人が聞きたいのはブランド開発や組織改革の話だからです。

でも...

ものすごく細かく、泥臭いところですが、確かに「デザイン」だ「ブランディング」だという前に、こういう当たり前のこととか、すぐに手を付けることが出来て、出血を止めれるとか、売上を伸ばせられるとか、そういうものは、長く続いてる中小零細企業には沢山あるんだろうなと思うわけです。

昨今はあまりにも「デザイン経営」という言葉が魔法のように語られ、広がってます。「デザイン経営」を取り入れてる企業の収益性が高い、成長率が高い、みたいなデータも発表されてたりで、ますます、デザイン経営への期待感が上がってる感じはします。

実際、経営にデザインを組み込まれる、デザイン的な手法や考え方を経営に適応するということは、すごく効果があると僕は思ってますし、また、その延長というか拡張というか「ブランディング」みたいなことも、中小零細であればあるほど、その重要性は高いと信じてます。

でも、同時に、「当たり前のこと」がきちんと出来てるかどうかに目を向けることも忘れてはいけないなと思うわけです。それは、今現在の自分にも、きちと問いかけないといけないことだなと感じました。知らぬ間に、九九もできてないのに、微分積分とか難しいことばかり考えてないかと。

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