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ブランディングとレスポンス広告の狭間で ~新しいブランドの立ち上げ方

多分、普通の人ならもっと簡潔に、わかりやすく書けるのだろうけど、僕の場合は、誰かに伝えるということよりも、書くことで自分の思考を整理するみたいなニュアンスがあったりして、書きながら考えている。なので、えらく冗長だし、別に何か結論やノウハウが示されるわけでもない。

レスポンス広告の典型的パターン

レスポンス広告のパターンで、広告→LP(ハードルの低いオプトイン)→顧客化というパターンがある。このパターンは何度もテストが繰り返され、ある種の成功法則みたいなものが出来ている。だからか、「きちんと」やってるところであればあるほどレスポンス広告は物凄く似たものになってたりする。広告の表現や、LPの構成やクリエイティブ、フォローアップの仕組みなど、「きちんと」やればやるほど、似たようなものになっていく。

ちなみに、レスポンス広告というのは、何らかのレスポンスを目的とした広告であり、その広告の制作物や、キャンペーン等の施策全てを内包する概念としてこの文章内では使っている。何らかの申し込みや、会員登録、モノやサービスの購入、SNSへの投稿、シェア、来店等、ユーザー行動を「レスポンス」とし、そのレスポンスを誘発させる広告をここでは「レスポンス広告」と位置付けている。

そもそも、レスポンスを期待しない広告があるのか、と問われると微妙だけど。例えば、直接の分かりやすいレスポンスではなく、パーセプションの変容を促すようなものとか? それも広い意味では「レスポンス」なのかもしれないけど、ひとまず、ここではそういうものを除いて、もっと分かりやすく、単純なユーザーの行動を誘発するものを「レスポンス広告」と呼ぶことにしておく。

レスポンス広告は様々なジャンルに使われているけど、健康食品、サプリメント、化粧品類、野菜、食品など、定期購入に繋げていける商材は、新規獲得はレスポンス広告を使って獲得。その後、その客を育成、継続化させるというのがある種のセオリーになっている。
新規客獲得コストは高くつくが定期購入に繋げれば1年、2年のタームで考えればペイする。定期契約の蓄積は、事業を安定化させてくれる。

ブランディング(広告)だけではなかなかモノは売れない?

さて、例えば、化粧品ブランドを立ち上げるとする。洗練されたオシャレでキュートな世界観で統一されたアイテム達ができた。今だと、D2Cではないにせよ、ネット直販でスタートするブランドも少なくはないだろう。ネットである程度売れたら店舗へも広げる、みたいな戦略を取ってるところもある。

さて、ネット直販の場合、洗練された世界観、クリエイティビティだけで、モノを売るのは凄く難しい。化粧品ブランドなどは、やはり定期購入を増やしていきたい。が、世界観だけで定期購入にまで至らせるのは至難の業だ。

もちろんクリエイティブの力、デザインの良さだけで売れるものもある。
ただ、化粧品ブランドとなると、薬機法もあり言えることはかなり制限されている。

また、化粧品はパッケージや容器が命みたいな説もあるので、新しく立ち上がるブランドでダサいものなんてほぼない。どこもトンマナは違うし、狙う層違いでのクリエイティブの差はあれど、殆どは「おしゃれ」だ。そもそも、最低限のクリエイティブがなければ箸にも棒にもかからない世界とも言える。

そして、無数のブランドが既に存在している。大手から小規模まで、かなりニッチな領域まで、だいたい何かしらのブランドは既に存在している。

当然、最初は知名度もないし、何もしなければまず売れない。なので、色んなプロモーションを仕掛ける。広告もやるだろう。有名なタレントを使ったり、大々的にマス広告などで知名度を獲得したり、SNSで商品ばら撒いたり、やり方は色々ある。

さて、この時、ブランドの世界観やクリエイティブに広告やプロモーションを合わせて展開するとする。せっかくかっこいい、洗練された世界観を作ってるのだ。広告だってその世界観を崩してはいけない。統一感なければブランディングにもならない、と。ブランドの担当はそんな風に考える(かもしれない)。まず、ブランドの世界観を知ってもらうために認知拡大を目的としたキャンペーンを展開するかもしれない。

こういう考えに基づいて作られたり展開されたりする広告を「ブランディング広告」なんて言葉で括って、「レスポンス広告」側の人間は「なんのレスポンスも生まない意味のない広告」と揶揄する人もいる。(本当の意味での「ブランディング」や「ブランディング広告」とは全く違うが、そういう言葉で括って貶める)

確かに、実際、何かモノを売る、買ってもらうことに繋げていく想定の広告やプロモーションは、ブランドの世界観を守ったおしゃれで洗練されたクリエイティブでは機能しないケースが多いのは事実だ。

ブランディング(広告)とレスポンス広告を使い分け

ブランド自体は統一された完成された世界観、イメージ、クリエイティブで固めながら、「売る」目的の活動は、そういう世界とは違い、泥臭く、クリエイティブとは程遠いような、所謂「レスポンス広告」の技法が必要だと言われたりする。

よくユニクロの喩えなどが挙げられる。ユニクロの場合も、マス広告、店舗、店舗のディスプレイなどは、ものすごく洗練されたオシャレな世界が提示されている。一方で、店舗への集客を目的とする近隣に撒かれるチラシは、もうスーパーの特売知らせるチラシかというようなベタベタな表現になってる。洗練されたオシャレなクリエイティブとは程遠い。ブランディング領域の表現では、店舗への集客という明確なアクションを生み出せないからだろうか。

ユニクロは、レスポンス施策(広告)とブランディング(広告)を分けて考えていて、使い分けてる、というわけだ。

ブランドの本体サイトやECサイトは、ブランドの世界観に統一された洗練されたクリエイティブにしておく。でも、こういうサイトでは、どれだけ広告やプロモーションで集客したとしてもなかなか機能しない。つまり売れない。こんなことはよくある。(ユニクロのことではない。ユニクロぐらいの認知度とブランド力を持てば、ECサイトには、「買う目的」の人が訪れるので、べたべたに売り込みしなくても、使い勝手を上げたり、購入ハードルを下げるための措置をとれば、普通に売れる)

そこで、こういうブランドの世界と完全に切り分けて、冒頭で説明したような「レスポンス広告」の登場となる。レスポンスだけを目的として、広告表現、LP表現はすべて、ブランドの世界観とは別の、レスポンスだけを目標としたクリエイティブを用意する。ブランドの個性なんてものは、レスポンス広告の世界では不要だ。ただただ、レスポンスを上げるのに最も効率/効果の高い表現や手法が用いられる。

こんな風に完全に目的で切り分けて広告を使うことで、広告の効果を高めることが出来る。

レスポンスを生む広告だけでは「足りない」理由

「レスポンス広告」で成果が上がるなら、「レスポンス広告」やその手の施策に全フリしたらいいじゃないかと思うかもしれないが、それはそれで問題はある。

ユニクロの場合も、仮にユニクロが全ての表現をチラシ的なクリエイティブでやってたらどうだったか? 昔のユニクロはそんな感じだった。今のようなブランディングをしてなかった頃は、ユニクロの服を着てることが恥ずかしいと感じる人が多かったんじゃないだろうか。僕もそう思ってた。今、ユニクロをそう見る人はほとんどいないだろう。

なので、その商品に愛着を持ってもらうとか、他との違いを感じて使い続けてもらうとか、その商品を使ってることに自信を持ってもらうとか、人に薦めたくなるとか、購入者・利用者の「気持ち」づくりみたいなことを考えても、ブランディングは必須だったりする。(あと、クリエイティブの力は商品や知覚品質を高めてくれたりもするし)

レスポンスの世界とブランディングの世界。この2つを切り分けて運営してるブランドは結構あると思う。それは戦略としては間違ってるものではない。この切り分けもある種のセオリーと言える。

ブランディングの最も重要な要素はブランドの哲学や思想を伝えていくこと

実は、冒頭でだらだらと書いてた「ブランディング」のところ。ブランディングだけではモノは売れない、モノを売るにはレスポンス広告も必要、という話で、根本的に間違ってるのは、ここで言ってるブランディングが、単にイメージ、表現上のデザインレベルのことしか意味してないことだ。

レスポンス広告側の人は、「ブランディング広告」を、何のレスポンスも生まない、ただ洗練されたカッコいいイメージや、広告賞を獲りそうな奇抜で斬新なアイディアみたいなものとして括り、そんなものでは「レスポンス」は生まないと批判する。

また、ブランド(ブランディング)を手掛けてるメーカーやクリエイターも、ブランド=デザイン&イメージの統一みたいな考え方に偏りすぎてるところもあったりするのは事実かもしれない。

しかし、ブランディングって、そのブランドの哲学や思想を伝えること、その哲学や思想に共感する人や、そこを支持してくれる人を増やす活動でもある(と、僕は思ってる)。情緒的価値を付与したり高めていくことでもある。表現上のデザインは、そのための1つの要素に過ぎない。

ブランドの哲学や思想に共感して、そのブランドを好きになることは、普通に起こりえることだと思うし、ブランドはその活動を通じて、ブランドに成っていく。ただデザインが良いとか、かっこいいからブランドになるわけではないだろうし。

ブランディング(広告)もレスポンスを生む。それは容易には測定できないかもしれないけれど

そうすると、ブランディング広告はレスポンスを生まない、というのは、多分、間違いで、それは「間違った」ブランディング広告は、レスポンスを生まない、というだけの話なんだと思う。当然、間違ったレスポンス広告も、レスポンスは生まない。同じことだ。

なので、ブランディング広告もレスポンスは生む。そのレスポンスが、短期的な購入とか契約とかそういう具体的なアクションではないかもしれない。ユーザーの心の中のスイッチが入るとか、知らぬ間に人にブランドのことを話してるとか、なにか気になって記憶のどこかにインプットされるとか、、、そうこともある種のレスポンスだと思う。ただ、「レスポンス広告」のように容易に測定はできないところが多いだろうけど。

ネットマーケティングでは、測定できないものは意味がないものとして排除するような考え方もあるけれども、すべてが測定可能な指標だけの施策を講じてては、ブランドなんて作りえないと、僕は思ってる。

この手のものは、答え合わせには時間がかかる。ただ、時間がかかるから、直接的に短期で成果が見えないからといって、ブランディング(広告)をしなければ良いというものでもない。

レスポンス広告とブランディングを使い分けていくことは、別に構わない。うまく使い分けることで効果を上げることは可能だと思う。ただ、時々、レスポンス広告が、ブランディング(広告)を阻害してしまってるケースも見かける。いいなぁと思ってたブランドが、一方で、そのブランドが目指す世界や大切にしようとしてる哲学、価値観とは、まったく相容れないようなレスポンス広告を活用してると、やっぱりちょっとガッカリすることはある。

新しいブランドの起ち上げ方

最近立ち上がるブランドの中には、こういうパターンとは全く違う形で展開してるところも増えてきてるように思える。

ブランドの立ち上げの前に、あるいはブランド立ち上げ直後から、ブランドオーナーや「中の人」が、SNSなどで積極的に情報発信やユーザーとのコミュニケーションを行っていて、ファンづくり、コミュニティづくりが先にあるようなブランドだ。(ブランドローンチの前に、コミュニティやメディアを作る、みたいなパターンも同じ。)

今や、D2Cの代表格的存在のGlossierなんかの事例は顕著だ。Glossierは、2018年で創業4年で売上は1億ドルと、急成長著しい化粧品ブランドだ。D2Cのモデルとして、様々な分析もされてるけど、このブランドは何より、個人のブログから始まってる、ということに注目したい。

Glossierのスタートは、創業者兼CEOのエミリー・ウェスが、VOGUE誌のアシスタントとして働きながら、個人で開設してたブログ「Into The Gloss」が大ヒットしたところからスタートしてる。プロの現場で使われるコスメの紹介や、メイク術などを提供していたそのブログは月間150万人ものユーザーが訪れるようになる。エミリー・ウェスはそのブログをベースに、Glossierを起ち上げた。プロダクトのローンチにも、積極的にブログなどでユーザーから意見を聞く、フィードバックを貰うなどしつつ、各種SNSをコミュニケーションに効果的に使いながら、あっという間に、100億規模のブランドに育った。

Glossierローンチ後の施策も、素晴らしいのだけど、Glossierが凄いのは、先にだらだらと説明していた「レスポンス広告」と「ブランディング(広告)」みたいな対比や使い分けみたいな話とは、まったく違うレンジにいることだ。彼らの取り組みのすべてがブランディングであり、それがファンを増やす活動に繋がっている。

そもそも「レスポンス」を作るために、ブランドの世界観とは違うクリエイティブや手法を導入する、みたいな発想は根本的にはないように思う。ブラディングがそのまま、売上に繋がっているし、彼らが取り組むアフィリエイトプログラムも、従来の小銭が欲しい人が取り組むアフィリエイトプログラムとは根本的に違う。クオリティの高い投稿者に、アンバサダーに招待するという方法は、誰でもなれるわけではなく、熱狂的なファンにとっての名誉みたいなものとして機能する。彼らのマーケテイング施策は、基本「ブランディング」でもありながら「レスポンス広告」にもなっている。

コミュニケーションがブランディングであり、ブランディングがレスポンスを生み...

Glossierの例はかなり極端だけど、例えば、日本でも、アパレルブランドのレナクナッタさん。「文化を纏う」をコンセプトに、着物やシルクのデッドストックを使ったスカートやスカーフ、ネクタイなどを展開しているブランドだ。

レナクナッタさんの場合、一品ものが多く、数に制限があるということもあるが、発売開始と同時に、ほぼ全ての商品が完売する。レナクナッタを手掛ける大河内さんは、日々、twitterやinstagramなどで、情報発信やコミュニケーションを行いながら、確実にレナクナッタのファンを増やしていて、ファンの多くは、次の新作がいつ発表されるのか、いつ発売されるのかを楽しみにしている状態なのだ。SNSでのコミュニケーション活動が、そのままブランディングであり、レスポンスを生むための素地づくりになっている。

オールユアーズさんも似ている。オールユアーズさんも、アパレルブランドだが、基本、オールユアーズのファンを増やすこと、ファンと繋がることを重視している。オールユアーズファンの姿を見てると、それは、従来のアパレルブランドに対して、多くの人が言うような「このブランドが好き、嫌い」みたいなレベルでの価値判断ではないように思える。従来のアパレルブランドの好き嫌いは、そのブランドのデザイン性や世界観が、自分の嗜好に合うか合わないかというレベルの価値判断が主だったと思う。オールユアーズさんの場合は、デザイン性や世界観云々より上位のオールユアーズの哲学や思想への共感や支持がある。(もちろん、その根底に魅力的なプロダクトがあることは言うまでもないが)

これはレナクナッタさんもそうだ。レナクナッタも、商品のデザイン性や魅力は圧倒的なものがあるのだけれど、その魅力のベースには、このブランドの哲学や思想があるし、そこがあるからこそ、商品がより一層輝く。

こういうブランドは、日々のSNSでの発信やコミュニケーションそのものがブランディングになっていて、そのブランディングが商品の購入に繋がっている。根底にはブランドの哲学や思想がしっかりあって、その上でコミュニケーションが組み立てられてるので、各所での断片的なコミュニケーションにおいても、一貫性があるし、違和感がない。(ブランドの中の人が、そのまま情報発信やコミュニケーション主体であることも大きい)

今までの「ブランド」の何か静的な完成された一つの世界観の表現というよりも、そのブランドに関わる実際の人の、日々の活動や、そのブランドのファンの声、やり取りによって、常にブランドが刷新されながら、人を惹き付けていく。そんな感じか。

こういうブランドの在り方も、前半にくどくど書いた「レスポンス」だ「ブランディング」だ、みたいな世界とは、全然違う世界にあると思う。

というようなことを書くと、これは「小さいブランド」の戦略だと言う人もいる。そんなやり方ではスケールしない、再現性がない、ずっと人頼りに陥る。そんな批判もよく聞く。

でも、それも本当かなと思う。ヨーロッパには、数十人規模の会社で、世界中の人に愛さるブランドを展開している会社はある。ジャンルは違えど、そういう会社が「ブランディング」とか「レスポンス広告」だ、みたいなことをやってるかというと、僕が知ってる限り、そういうブランドが取り組んでるのは、徹底したブランディングだったりする。

これからのブランドの起ち上げ方について

上記の化粧品ブランドの立ち上げ方は、ある種、昔ながらのブランド立ち上げの方法と言える。この方法について、TENTの青木さんがこんな投稿をされていた。

僕らが自社ブランドを立ち上げたときも、実は、ここで言うと「ひと昔前によく見た作戦」を取っていた。

ブランド立ち上げについて、色んな人に相談した時も、店舗で展開するのに1アイテムだけでは取り扱ってくれないし、ブランドの世界観が作れない、ということを聞き、ハウスケアというジャンルで複数アイテムを揃えて、「ブランド」として立ち上げた。

この時は、僕らの場合は、たまたま色々な事情も重なって、比較的うまくいった方だったとは思う。ただ、もうこういうブランドの立ち上げ方はどうなんだろうなぁとも反省もしている。

ブランドの世界観云々の前に、まず、飛びぬけたプロダクトを作る。これは実は当たり前すぎるけど、マーケティングの話にのめり込んでると、たまに忘れてしまってることもある。商品開発のまえに、ブランディングだとか広告手法とか、そんなことばかり考えて、肝心の商品を徹底して磨き上げる、ということから目を背けていたり。

まずは飛び抜けたプロダクトをつくる。そこに注力する。マーケティングやブランディングにかけるコストがあるなら、まず凄いモノを作るところに全集中すべきなのかもしれない。今の時代、ほんとに凄いモノはSNSなどで自然に拡散していくだろう。

そして当然、モノづくりをしているのだから、そこには何かしらの信念や想いがある。単に儲けたいってだけの人もいるかもしれないけど、真っ当に商売をしてる人なら、そこには必ず何かしらの想いがあるはずだ。ブランドオーナーやそこに関わる人たちが、その想いをきちんと言葉にしてり、映像にしたりして伝えて行く。SNSなどの日々の活動の中で伝えるたり、イベントなどで直接説明したり。そんなことを繰り返して行く。

そんな取り組み全てがブランディングでもあり、レスポンス(広告)が担う役割と近いものになるのではないか、と僕は思ってる。

ブランディングとレスポンス目的の施策(広告やら)を切り分ける、のではなく、ブランディングがレスポンス(広告)でもあり、レスポンス(広告)がブランディングでもある、そんな取り組みをしていきたい。また、商品開発そのものがブランディングでもありレスポンスでもあるような、そんな商品開発をしていきたい。それが僕が今もやもやと考えていることだ。

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