[読書]コンビニ人間

世の中には、普通のことを普通に出来る人と、普通にできない人がいる、って思ったことはないでしょうか。
この本が出版され、芥川賞も受けて、文庫本化される、ということは、書店には「普通って?」と思う層が一定数いるのでしょう。

主人公は、コンビニにアルバイトとして勤める三十代半ばの女性。将来に限界はあるけれど希望はある世代です。毎日、ベテランとして規則正しく勤務、家族も(本人はどう思っているか別として)友達もいる、悪いことには手を染めず正直者、大変良い人そうです。

ところが、「普通」に振る舞うことが至って難しいようなのです。得手不得手はあっても誰もが試行錯誤しながらやっていることだと思うのですが、彼女は「正しい普通」があると想像している様子。必要な作業が合理的にマニュアル化されたコンビニでの仕事を継続することで、自分に輪郭をつくっています。敢えて型にはめることで、考えすぎず楽に生きられるという感覚でしょうか。

そんな彼女が、偶然の成り行きで男性と暮らし、コンビニを辞めることになります。その先には何が待ち受けているのか?
上手く伝えられないので、興味のある方は是非読んで頂きたいのですが、私には「悪くない」未来に映りました。

さすが芥川賞なのか、全編引き込まれる文体で、それを楽しむのもお薦めです。透明感のある一人語りを読み進むうちに、太宰治さんの「人間失格」を想い出しました。
昭和の太宰さんの主人公は、人と異なることを、屈折した選民意識を滲ませながら告白しました。平成の村田さんの主人公は、人と異なることを、何か欠けていることとして静かに受け止めて語ります。

一歩間違えるとシュールな世界観に包まれている作品ですが、なぜか清々しい気持ちで読了できると思います。

著者 村田沙耶香
出版 文藝春秋
刊行 2016年7月 

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