2.「小田急キャッツアイ」
「小田急キャッツアイ」
少しだけ雨が降っていた。
23:30
25歳、6月。
焼けた肌に映えるつり目は、22歳。
写真で見るよりずっと綺麗だった。
遠目からでもすぐに分かった。
自分で切っているらしい黒髪の前髪重めの刈り上げマッシュヘアで、
両耳に小さなフープのピアスをしていた。
30分も遅刻をしてきたくせに、
180cm近くあるだろう背を少し丸めてにやっと笑った。
きっかけは忘れてしまったし、
どうでもいい。
一緒に過ごしたのはその晩だけだった。
雨が強くなっていた。
入れてと言って広げられた傘に入ると、
別に手に持っていたビニール傘を手渡された。
少し歩いてメインロードを抜けて、
大通りを渡ると、
急に立ち止まって、
ここオレんち、そう言った。
後ろについてエントランスに足を踏み入れた。
場所は違えど、偶然住み慣れた部屋と同じシリーズ物の分譲賃貸マンションだった。
初めて入った馴染みの部屋には、
壁に小さく這わせた赤とか緑の電飾に灯がともされていた。
シンクに置かれた灰皿。
ベッド脇のサイドテーブルに置かれたパソコンからは、ちっとも知らないヒップホップの曲が流れていた。
ベッドに寝転んでユーチューブを見た。
面白いからと言って見せたくせに、
笑わないのは最低じゃん。
夜中、急に目を開けたかと思うと、
鼻筋を人差し指でゆっくりなぞられた。
「綺麗な顔」
薄暗くても、目があったのは分かんだね。
どしゃ降りの朝。
これ、オレがデザインしたの。
そう言ってTシャツを広げて笑った。
灰皿の中の吸い殻が増えていた。
朝になってもどしゃ降りだった。
傘を借りた。
傘を返すことはなかった。
もうマックは南口じゃないんでしょ。
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