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脚本サンプル「すすきの音」



〇登場人物

・川島琴葉(10)…小学生。耳が不自由。
・木村小太郎(10) …小学生。
・川島綾子(38) …琴葉の母。
・車の男


〇あけぼの公園

公園にはたくさんの花が咲いている。
ベンチで絵を描く、川島琴葉(10)。スケッチブックには、模写された花。

琴葉が公園の時計を見ると、17時を回っている。
琴葉は急いでスケッチブックと色鉛筆を急いでまとめ、走っていく。


〇公園前の道

スケッチブックを胸に抱え、走っている琴葉。


〇走る車


〇公園前の道

木村小太郎(10)が歩いている。小太郎の手にはサッカーボール。

車がブーブーと琴葉に向かって音を鳴らしている。車の音に気が付かずに走る琴葉。車のクラクションが大きくなる。

小太郎「危ない!」

小太郎は全速力で走り、両手で琴葉をはじく。

車の男の声「危ねーだろうが!クソガキが!」
琴葉・小太郎「…」

尻もちをついている、琴葉。

小太郎「…大丈夫?」
琴葉「……」

琴葉は落ちた色えんぴつとスケッチブックを拾う。一緒に拾う小太郎。

小太郎「あ、ごめん…。…あれ?ボール」

小太郎がキョロキョロと周りを見渡していると、琴葉は去っていく。
小太郎、琴葉の後ろ姿を見つめ、首をかしげている。

小太郎「変なの」


〇川島家・キッチン(夕)

琴葉の母・川島綾子(38) は、夕飯の準備をしている。
琴葉がやってくる。

綾子「あら、おかえり。またお絵描き?」
琴葉「(コクンと頷く)」

(以下、綾子は手話で)

綾子「琴葉。心配だから17時までには帰って来ようね?」
琴葉「(うつむき)…」
綾子「…わかったらほら。手洗っておいで」

無表情で出ていく琴葉。
琴葉を心配そうに見つめる、綾子。


〇同・琴葉の部屋 (夕)

琴葉は日記を書き始める。

『今日もつまらなかった。』という文字とブタの絵を描く琴葉。
『あと、尻餅ついた、最悪。』と書き足す琴葉。


〇あけぼの公園(日替わり)

小太郎がボールを探している。

小太郎「あー!なんでないのー!あ」

小太郎の目線の先には琴葉がいる。
ベンチで絵を描いている琴葉。

小太郎は琴葉にそっと近近付き、後ろから琴葉のスケッチブックを覗く。
琴葉のスケッチブックには転がっているサッカーボールが書かれている。

小太郎「あ!あった!」

小太郎に気付かない琴葉。

小太郎「すっげーな、お前!絵、うま!」

気付かずに集中して絵を描く琴葉。眉間にシワを寄せる小太郎。

小太郎はサッカーボールに近付き、琴葉に向かってボールをキックする。
琴葉の足元にサッカーボールが転がってくる。

琴葉「…?!」

小太郎「( 大声で)無視すんな!!」

琴葉はボールを持ち小太郎に渡そうとすると

小太郎「じゃなくて!絵!!上手だな!」

小太郎、琴葉の前にやってくる。

琴葉「…」

琴葉はスケッチブックをめくり、『なに?』と書く。

小太郎「…耳聞こえないの?…あ」

小太郎、琴葉からスケッチブックを取り、『きこえないの?』と書いて、琴葉に見せる。

琴葉「(眉間にシワを寄せて)…」

小太郎はスケッチブックに『え、うまい!すごい!』と書き、琴葉に満面の笑みで見せる。

恥ずかしそうに目を逸らす琴葉。


〇同・同

T「一ヶ月後」

琴葉はベンチで絵を描いている。
琴葉の視線の先にはでじっと同じポーズで止まり、プルプルしている小太郎。

小太郎「もう動いていい?」

プルプルと震えている小太郎。

琴葉「( ジェスチャーで)ダメ!」
小太郎「あー!!もう無理!」

動く、小太郎。 琴葉は小太郎を睨みつけている。

小太郎「俺?!」
琴葉「(スケッチブックに) 小太郎、動いた」
小太郎「だってさぁ!あ~つかれた~」

小太郎、ベンチに座り

小太郎「(スケッチブックに) しびれた」

小太郎、琴葉に白目をむいて見せる。 笑う琴葉。

琴葉「(スケッチブックに)もう一回!」
小太郎「むりむりむりむり!」
琴葉「(スケッチブックに)もう書くものない」
小太郎「え~でもさぁ…あ!すすき畑!」
琴葉「(首をかしげて)…?」
小太郎「いこ!」

琴葉の腕を引っ張って連れていく小太郎。


〇すすき畑

すすきが全面に広がっている。
琴葉と小太郎が一緒に見ている。琴葉は目を見開いている。

小太郎「(ジェスチャーで) ここなら、いっぱい描けるでしょ!」
琴葉「(笑顔で頷く)」

スケッチブックを広げ、すすき畑 の模写始める琴葉。

✕   ✕   ✕

琴葉の耳元ですすきを揺らす、小太郎。

琴葉「(気付いて)…?」
小太郎「(ジェスチャーで)サワサワ~」
琴葉「?」
小太郎「(スケッチブックに)サワサワ」
琴葉「…?」
小太郎「(ジェスチャーで)すすきの音!」
琴葉「…」

すすき畑を見つめる琴葉。
そして、琴葉はゆっくり目を瞑る。

その姿を見つめる小太郎。

ゆっくり目を開ける琴葉。

小太郎「どう?」
琴葉「(ゆっくり小さく頷く)…」

小太郎は一本のすすきを琴葉のほっぺに、こする。

琴葉「(顔を赤くして)…?!」
小太郎「…やる」

小太郎は、琴葉に一本のすすきを差し出す。

琴葉「(恥ずかしそうに)…」

互いに下を向く、琴葉と小太郎。
琴葉は小太郎の肩を叩く。

小太郎「…?」

小太郎が顔を上げるとスケッチブックに『ありがとう』の文字。

恥ずかしそうに鼻をかく小太郎。恥ずかし嬉しそうな琴葉。


〇川島家・琴葉の部屋(夜)

日記を書いている琴葉。
机の上には、すすきが置いてある。
すすきを手に取り、耳の横で揺らす琴葉。

琴葉は『(NAで)すすきの音ってサワサワってするらしい。小太郎が教えてくれた。すすき畑、すごくキレイで、楽しかった。また行きたいな』 と日記に書き、すすきの絵も描く琴葉。

綾子がやってくる。

( 以下、セリフは手話で)

綾子「琴葉ちょっといい?」
琴葉「何?」
綾子「…あのね、琴葉の耳、もしかしたら良くなるかもしれないの」
琴葉「…?!」
綾子「だからね、手術してみない?」
琴葉「手術…?」
綾子「うん。いい先生を紹介してもらった の。怖いと思うけど…考えてみない?」

机の上のすすきが目に入る琴葉。

琴葉「音、聞こえるようになるの?」
綾子「…。まずは今度の土曜日、先生に会いに行って話聞いてみよう」
琴葉「(戸惑いながらゆっくり頷く)」
綾子「ただ…手術になったら、しばらくは向こうの病院だから、東京に引っ越すことになるかもしれないの」
琴葉「…!」
綾子「でも、お母さん、ちゃんと琴葉の側 にいるからね」
琴葉「…」

琴葉は、小太郎の顔が浮かぶ。

綾子「…心配?」

琴葉は母の顔を見て、首を横に振る。
琴葉をやさしく抱きしめる綾子。

琴葉「…」

窓からやさしい風が入り、机の上の日記が風でめくれる。
『小太郎の声、どんな声なのかな』と書かれている。

綾子に抱きしめられながら、すすきを見つめる琴葉。

(つづく)

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