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るきさん

リアルタイムでHanakoに連載されていたのは私が18歳〜22歳までの頃。Hanakoが発刊されて度々手にしていたが全く記憶にない。                          ハタチ前後の女の子が30代半ばの女性が主人公の漫画には興味も示さなかったのかもしれない。なので、るきさんと私が本当に出会ったには38歳頃、おしゃれな雑誌や暮らし本などに感化されて真似しても元来の怠け癖は消えるという都合のいいことは起こらず、40歳目前にようやく結婚し、輝かしい新生活を必死に送ろうと勘違いをしていた時期だ。

32歳くらいの時から高山なおみさんの「日々ごはん」を愛読中であったため、その中にるきさんは登場していた。ある日、自由が丘の青山ブックセンターに行ったら、高山なおみコーナーがあり、そこにるきさんが積み重ねられていたので買った。

帰りの電車でるきさんを読んでいると、私の中の張り詰めていたものに反応してユラユラとムンクの絵みたいに波打つ感じがした。

私、こうありたかったんじゃないか‥‥‥何してるんだろう私‥‥‥

自分の勘違いに気づいてしまったのだ。                          ショックで電車の中で前のめりになった。                 雑誌や暮らしの本の中に出てくるようなきれいでおしゃれなな部屋、素敵な器、美味しい料理、新生活にそんな幻想を持ち込み、それは幻想だと気づいたのだ。

私の中にるきさんがいる。それに気づいてから少しずつストレスで張り詰めていたものが崩れていき、ついにエネルギー切れとなり寝込むまでのカウントダウンが始まっていった。

私の中のるきさんてなんだろう。                     それを考えるともう一人の登場人物えっちゃんの存在はとても重要だ。    私の中には周囲の目など気にせず図書館で暑いと言いながらズボンを膝上までめくりあげたり、お風呂の中でコーヒーを飲んで風呂場で生活する想像をしたり、せんべいをかじりながら自転車をこぐるきさんがいるし、えっちゃんみたいに流行に敏感でおしゃれに目ざとく何気に人目を程よく気にしながら生活する私もいる。50%位ががるきさんで50%位がえっちゃんという私自身の構成となる。  るきさんとえっちゃんがいて漫画「るきさん」であり、「るきさん」が私の見栄と幻想を砕くトンカチだったのかもしれない。

漫画のるきさんとえっちゃんは多分30代半ばくらい、私の30代は一人暮らしをしていたが恋人はいなく、さみしいけれど一人暮らしは快適だった。しかし結婚という欲望にがんじがらめだった。今は一人暮らしのアパートの部屋が甘く切なく懐かしい。

新生活のために地方から都会へ引っ越し、家庭生活、国家試験の勉強、新しい職場、新しい家族等々、見栄と幻想とプレッシャーに私は相当すり減っていたのだった。見栄と幻想に無縁なるきさん、バブルの時代を逆行するかのように自分の世界観を持ち、現実的に生きながらも持浮世離れしているるきさんが羨ましかったのだ。(そもそも、るきさんは自分の世界観を持とうなどとは思っていない)

私はるきさんと出会ったのと同時期に吉本ばなな氏のエッセイの一文で張り詰めたストレスが弾け、ある朝仕事に行こうとお弁当まで準備したのに出かける直前に心身が浮遊する感覚で何も考えられなくなり仕事を休む電話をし、その足で心療内科に駆け込んで医師の前でたくさん泣いた。それからうつ病の診断書を書いてもらい療養休暇に入った。当時は深刻な思いで寝込んでいたが、自分から心療内科に駆け込むくらいだから軽度鬱レベルで回復の道をゆっくりと過ごした。 枕元にはいつもるきさん、バッグの中にはいつもるきさんがいた。      お守りだった。

今はもう幻想はなくなった。見栄は程よい加減に存在している。       今は本屋で暮らしにまつわるおしゃれな本を横目に悪態をついている。でも、たまに買う。生活は完璧にするものでなく自分のできる範囲で無理せずやらないと後で祟ることも学んだので、部屋は程よく散らかっている。汚いは嫌なので、そこは性分の表れで汚いが嫌いで良かったと思う。

先日、ハタチの友人と銀座で待ち合わせていた時、本屋にるきさんのポップアップがあった。嬉しさで体がのけぞった。                 (本当に私はのけぞっていました)                    作者高野文子氏の直筆メッセージも展示されていた。るきさんは今、60歳だという。そうなるとるきさんは30代半ばと思っていたが30歳だったのかな。るきさんもえっちゃんもお元気とのこと。高野氏の皆さんは元気ですか?と最後の言葉に私は「元気ですよー」と答えた。ポップアップにはるきさんの文庫本が重なっており菊池亜希子氏の帯で、「お守りのような存在で、いつもストックしておいて、ひょいと友達にあげたりしている。」と書いてあったので、待ち合わせのハタチの友人にプレゼントした。

ハタチの友人というのは私の親友の愛娘で、近くにくるから遊びたいと言われ待ち合わせしていたのだ。親は抜きで。親友にはるきさんをプレゼントする感じではないけど、その子にはプレゼントしたい気持ちになったのであげた。帯の一文が気に入ってくれたようで普通に喜んでくれた。その子がるきさんを読んでから印象に残るシーンを教えてくれ、それは私が好きなページばかりだった。彼女はどうも私とるきさんを重ねて見ているらしく、そのシーンを私で読んでいるようでウフッとしながら言っていた。

ハタチの友人が私とるきさんの共通点を教えてくれたような気がしてとても嬉しかった。            



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