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島ひるごはん vol.6「気になるパン屋のまかないごはん」

「近所に美味しいパン屋さんがある」
住む場所を選ぶ条件は皆それぞれだとは思いますが、東京在住時からの私の条件の一つがこちらです。
焼き立てのパンと挽き立ての豆で淹れたコーヒーではじまる理想的な休日を続けることはなかなか叶いませんが、そんな朝も選択可能か否かが私にとっては生活の質(QOL)に関わる重要な基準です!(ただのパン好きな怠け者)

小豆島への移住を具体的に考え始めた際にも島内のパン屋さんを検索し、住民票を移すよりも先に足を運んだのが今回取り上げさせて頂く「あずきベーカリー」さんでした。

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場所は島ひるごはんvol.4「図書館司書さんのおしごとin小豆島でも紹介した、小豆島町立図書館ほかスーパーや銀行もほど近く、町内でも立地のいいエリア。
店構えは古民家をリフォームした落ち着いた佇まいで、さりげなく入り口に配置された小道具も素朴な初めてでも入店しやすい雰囲気です。

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ここ「あずきベーカリー」は、神奈川で30年パン製造の経験を積んだご主人の伸彦さんが製造全般を担われ、販売を奥様の直子さんが担当されて営まれているパン屋さん。
4年前の移住と同時に開業された地元で人気の店です。

直子さんは「小麦粉すら触ったことがな」く、伸彦さんは、衛生的配慮から厨房は土足厳禁にしていることもあり、「カウンターの外に出ることは殆どない」ほどしっかりと役割分担されています。
これが巷で難しいと聞くご夫婦経営を成功させる秘訣でしょうか。

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営業時間は朝9時から午後4時(売り切れ次第閉店)。
約25種類の商品製造の全てを伸彦さんおひとりで担われていると伺い、さぞ朝早くから作業されているんだろうとは想像はしていましたが実際に作業開始時間に驚きました。

なんと午後10時半から作業されているというのです!

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以前は深夜12時からだったそうですが、それまでの顧客の購入後に直子さんが包装されていたのを、9時のオープンまでに全ての商品を個別包装しておく手順に変更したことで、製造開始を1時間半前倒しすることに。
この変更は決して楽ではないはずですが、今の状況を考慮し来客一人ひとりの滞在時間を少しでも短くすることで、より顧客に安心して店内で買い物をしてもらう為の工夫です。

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私が見学させて頂いたのが、すでに伸彦さんは8時間以上働かれていたことになる朝7時頃から。
発酵してさまざまな形に程よく膨らんだ生地がフル稼働の2ドアオーブンに納められ、それぞれに応じたタイマーがセットされていきます。

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タイマーが鳴り、オーブン内を確認して再度焼き加減を微調整。

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そのパンに相応しい焼き加減が確認出来ると取り出され、入れ違いに別のパン生地がオーブンに納められ次のタイマーのセット。
この一連の作業が迅速かつ丁寧に繰り返されていきました。

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焼きあがり後は直子さんの担当。

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直子さんのお仕事は朝5時ごろからの開始です。

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アンティークのねじまき式時計を合わせるのも毎朝の日課。

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開店9時までには全ての商品が並べられました。

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ところで、あずきベーカリーという店名から、あずきを使用したオリジナル商品を連想されることが多いそうですが、実際には小豆島からとったシンプルな命名で、小豆を使用した商品は、定番のあんぱんのみ!
それでも毎日国産小豆から自家製あんを作っているというので驚きです。

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「(毎日炊いているのは)大きい鍋がないからだよ」とはぐらかされてしまいましたが、他の同業者の方の話によると、あんこを毎日手作りするパン屋さんというのは、手間と時間の観点からも珍しいそう。
にもかかわらず目立つアピールは一切なく品名「あんぱん」の下にごく簡単な説明が控え目に添えられているだけ。

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他の商品ににしても然り!

小豆島で発見されたオリーブ花酵母を使用しているパン屋さんは今のところあずきベーカリーさんのみ。扱いにコツと手間が求められる天然酵母を使っていてもやはり控え目な表示のみ。

「こだわりなんてないのが、こだわりかも。」
オープン時から目指しているのは、お店の半径500メートル圏内に住むお年寄りも気軽に買いにきてもらえるような店、と口数少ないご主人に代わって直子さんが話してくれました。
だから、商品名も、商品自体もなるべくこだわりすぎず、誰にも分かりやすいよう、シンプルに。
おかげで、顧客は華美な商品名や過度な商品説明に惑わされることなく、店内にならぶ商品からその時に本当に欲しいものを素直に選ぶ事ができます。

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9時。
開店と同時に、ご近所からとおぼしきお客さんが入れ替わり立ち替わり、慣れた様子で買い物されて行きました。
一応16時までとはいえ、商品がなくなり次第閉店。
午後早いうちに売り切れになることも珍しくない人気店であることを皆さんよくご存知です。

客足が落ち着いてきた頃を見計らい、店の隅で軽くとられる事が多いという直子さんのこの日の昼食をここでご紹介!

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自家製食パンに、
左:チーズ、小豆島の佃煮、マヨネーズを乗せてオーブンで温めたものと、
右:小豆島で今が旬の手作りのいちじくジャムをトッピングした
トースト2種。

仕事中は食事は摂らないという伸彦さんが、あ、うんの呼吸でいつの間にか直子さんの分をオーブンで焼いて用意してくれていました。

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ちなみに「あ、うん」といえば、直子さんが移住してからの趣味に狛犬巡りがあるそう。
小豆島は石の島だけあって、個性的で見応えのある狛犬が多く見られます。

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「パンが飽きちゃた時は素麺にすることも」と言いながらも、「おいしい」と何度も頷きながら召し上がられていた直子さん。

佃煮チーズマヨのこんがりトースト
この組み合わせ、盲点でしたが手軽でとても美味しそうだったのでぜひ試してみたいです。

直子さんのお食事も終わり落ち着かれた頃を見計らい、前からずっと気になっていた件について聞いてみました。

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「なぜ、店内に“ひげ“が多いのでしょうか?」

直子さんのお答えは、
「ひげが好きだから」
このフォルム自体がお好きというだけでなく、このタイプのひげが象徴する「紳士」のように勇敢で優しく、礼節を重んじる生き方が理想。だからひげが好き。
と、かわいい声で全く予想していなかった説明をしてくれました!

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直子さんの理想の生き方の象徴は、店の看板メニューの一つにもなっています。

自らの理想とする生き方(哲学)をお持ちで、その象徴をさりげなく店内に配置し、さらにそんなことをおくびにも出さず商品化までされるなんて!
遊び心が素敵過ぎて、直子さんのファンになってしまいそうです。

そんな直子さん、プライベートは何をされているのでしょう?

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というわけで定休日にお邪魔すると、なんとお人形を手作りされていました!

お店の飾り棚に見られる個性的な人形たちは、譲られたり、他の人形作家さんによるものが多いそうですが、直子さんもこれまで多くの人形を生みだされてきたそうです。

最近の完成品を拝見すると、

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すごくかわいい❤️

しかし、なんとなく既視感が?!
そう、お人形の髪型が逆さにした“ヒゲ“形なのです!
名付けて「ヒゲ星人」!とのこと。
聞くと制作に使用される道具や生地も厳選されたものようで、好きなことへの妥協のなさも紳士的生き方に通じるものがありそうです。

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一方で、ご主人の極められた道での独立開業を支え、慣れ親しんだ土地から離れた島への移住を決心をされたという側面も持つ直子さん。
そして「パンの製造も販売も未経験」だった直子さんが発案した店名もオリジナル商品も、少しずつ個性を増していく?店内のディスプレーも受け入れているご主人。
信頼関係が伺えます。

取材中互いに言葉を交わされる場面は殆どありませんでしたが、お二人共通して店のアピールについては控え目なのに、開業時から支えてくれた地域の人々への感謝はそれぞれ何度も繰り返されていたのも印象的でした。

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真面目で勤勉で控えめなのに個性的、直感を大切にしながら凝り性でもあり遊び心もある「あずきベーカリー」。

ずっと気になっていた「“ひげ“型パンの謎」については今回無事解明することが出来ましたが、まだまだ捉え所のない部分の多い「あずきベーカリー」さんへの関心はさらに増すばかりです。


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