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クラブハウス和紅茶祭りに寄せて『和紅茶の時代 ―― 日本の紅茶が、世界を制する』



誰も知らない「和紅茶」

 食べ物でも飲み物でもいい。何か美味しいものに「うちのめされた」経験はあるだろうか。
「世の中にはこんな美味しいものがあったのか」
「**って、ほんとうはこんなに美味しかったのか」
 ただの美味ではない。うちのめされるほど衝撃を受け、世界が変わってしまうほどの美味しさ。
 そこまでの衝撃をもたらす飲食物は、マニアを産む。ワインや日本酒など酒類、チョコレートなどの甘いもの。お茶もそんなジャンルのひとつで、ダージリンや中国茶などのマニアは、秘境の奥まで分け入ってでも、美味しいお茶を探し求めることさえある。美味しさにうちのめされ、価値観も人生も変わってしまうほどのお茶。実はいま、和紅茶に、そんな「衝撃的に美味しいお茶」が増えつつあるのだ。

「和の紅茶? なんだろう。和食屋さんで飲む紅茶ですか? 急須と湯飲み茶わんで」
「柚子とか桜とかの和っぽいフレーバーティーのことかな?」
 和紅茶とは、日本の国産の紅茶のこと。
 残念だが、このことがまず、2022年現在、多くの日本人に知られていない(地酒、クラフトビールに倣い、地紅茶、クラフトティーと呼ばれることもあるが、ここでは「和紅茶」としておきたい)。
 紅茶といえば、ヨーロッパのブランドが販売するティーバッグの紅茶、あるいはキリンの「午後の紅茶」など、ペットボトルの紅茶を思い浮かべる人が多いだろうか。
 どちらも産地は、インドやスリランカ、あるいはケニア、中国といったあたり。
 一方で日本の茶畑で作られているお茶といえば、緑茶というイメージがある。
 しかし実は、日本国内でも紅茶を作っている! その事実を知らない人も多いのが現状だ。
 近所のスーパーマーケットのお茶売り場に行っても、急須で飲む用の緑茶は手に入るし、紅茶も海外産のティーバッグならばすぐみつかるだろう。
 しかし和紅茶=国産の紅茶を、いざみつけようとすると、よほどお茶にこだわりのある品揃えのお店でなければ出会えないのが現状だ。街のお茶屋さんに出かけて行っても、ずらりとならんだ緑茶、ほうじ茶、玄米茶……国産でも、紅茶は扱っていない、というお店はまだまだ多い。
 和紅茶は、手に入らない。探し方を知らなければ買うことさえできない。飲んだことのある人も少ない。
 それでもあえて声を大にして言ってしまおう。
「和紅茶の時代は、すぐそこまで来ている!」

 和紅茶を飲んだことがある紅茶好きの人は、こう言うかもしれない。
「えー、でも、和紅茶ってパッとしない印象がありますよね」
 たしかに、10年ほど前までは、手に入る和紅茶の多くが「パッとしない」お茶だったかもしれない。物珍しさで手に取ったものの、「もう和紅茶はいいや」と思っている紅茶好き、お茶好きも多いようだ。


 それがおそらく、ここ10年ほどのことだ。日本の紅茶が生産者数も増え、様々な味わいのお茶が出回るようになり、急速に、驚くほど美味しくなり、マニアの間で大変な注目を集めるようになったのは。
 そしてここ数年は特に、生産者たちの研究、実践の成果が結実し、「……美味い!」と通の紅茶飲みも唸るようなお茶が続々と出始めている。しかも北は北陸から、関東、中部、関西、九州、沖縄まで、日本全国の生産地で。複数のリーダー的生産者やスター生産者も現れ、彼らの新茶はファンの間で奪い合いにさえなっている。
 今はまさに、「和紅茶のいちばん熱い時代」。毎年毎年、様々な品種の、様々な製法の、地域ごとに季節ごとに、もちろん作り手ごとにも味わいの違う紅茶が続々と登場し、とどまることなく進化を続けている。ベテラン生産者が、新進気鋭の生産者が、山あいで、雪降る地で、あたたかな平地で、ダージリン風、ミルクティー向き、緑茶寄り……あらゆる方向性で、同時多発的に、競うように「どこよりもおいしい紅茶」を作ろうとしている。
 今、とても熱い「和紅茶」。そして発展途上中でつかみどころのない「和紅茶」。だからこそ、あまりにも面白い「和紅茶」。
 日々、変化、成長し続けている和紅茶を、今、飲まない手はないないだろう。
 この先もきっとおいしい国産の紅茶は作られ続けるだろうが、勃興期、黎明期の今の面白さを、目撃しておかない手はないではないか。

 まだほとんどの日本人が知らないこの事実を、そろそろマニアだけでなく、一般層も知るところとなっていくだろう。和紅茶チョコレート、和紅茶アイスクリームなど、大手メーカーも「和紅茶」の響きやイメージの良さを前面に出した商品を、少しずつ展開し始めている。
 紅茶ファンだけでなく、緑茶や中国茶を好む人々も、和紅茶には目を光らせている。
 実はコーヒーやお酒が好きな人、ふだんはお茶など飲まない人にも、和紅茶にはハマってしまう、という人も多い。
 こんなに美味しい飲み物を、日本で作っているのか。しかもこんなに、様々な種類を!
 マニア層も、一般層も、たくさんの人が気づく、「和紅茶の時代」のはじまりは、もうすぐそこだ。
 そして和紅茶人気の波は、海外のお茶マニアにも波及しようとしている……。


 今回のクラブハウス和紅茶祭りは、そのムーブメントを少し先取りしてしまおう、という趣旨だ。
 和紅茶とはなんぞやの解説からはじまり、ブーム直前の現状、選び方、買い方、楽しみ方……今こそいち早く知っておきたい情報をお届けしたい。

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