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クラブハウスで俳句鑑賞 【毎日0時の一日一句】、その後(1)


(本稿は11月に執筆したものです)
 前回報告した、クラブハウスで毎日午前0時に俳句を紹介するルーム。
 奇特なことに100夜を超えてもなにごともなく毎夜続き、11月30日現在で第169夜目を迎えている。
 クラブハウスのこのルームで俳句に親しんだ人々による句会も、8月のスタート以来月一のペースで開催され、11月には4度目とあいなった。
 前稿で筆者が、「俳句を『詠む』(作る)よりも先に『読む』(鑑賞する)楽しみを知った人々は、俳句への向き合い方がきっと違うはずだ。俳句を作りはじめても、句会に誘われていきなり俳句を作ろうとする人々とは、ひと味違うのではないか」などと期待したこと。これは、果たしてどうだったか。

 クラブハウスでの初めて句会は……ごく平凡な、初心者の句会だった。初学のころにやりがちな、テクニック上での未熟さ。「なんでそれをわざわざ俳句で言うねん!」という、発想のありきたりさからも逃れられず。当然のことながら、目を覆いたくなるような初心者俳句のオンパレードである。
 この人たちは! あれほど毎晩毎晩、俳句の真髄にふれるような時間を過ごしてきたというのに! ……と初回こそがっかりしたものだが、句会も二度三度と重ねていくにつれ、俳句歴2か月、3か月とは思えないような長足の進歩を、彼らは遂げていくのだ。
 入門書で覚えられるテクニックなぞ、あっという間に身につけてしまった人もいる。一日一句で話題になった技法をすぐさま自作に取り入れるチャレンジャーもいる。テクニックも俳句の常識もどこ吹く風で、独自の世界を切り開いていく人もいる。技巧は拙いながらも、早々に世界観を確立し、自分にしかできない作品を次々ものにしていく人もいる。もちろん、数か月ではいっこうに上手くならない人もいるが、俳句の読書にも研究にも熱心で、これはひとつ突き抜ければ化けるのではないか、という可能性を秘めている人もいる。
 ちまたにあふれる「普通の句会」とクラブハウス句会の違うところ、それは、俳句への本気率、俳句へのハマり率の高さだろうか。地域の俳句クラブにしても、結社の句会にしても、「ちょっと言葉遊びが面白いので、都合がつけば月一で行ってみる」「人と集まって話をするのが好きで、コミュニケーションの場のひとつが句会」くらいの意識の人が、多いものだ。
 そのなかから、「本気で俳句と組み合ってみたい」そんな人たちが集まって、俳句地場強めの句会が発生することは、もちろんある。しかし初心者が大半を占める場が、いきなり「本気度高め」にはならないものだ。
 やはり、「詠む」より先に「読む」。句作や句会の楽しさばかりでなく、入門のころから鑑賞の楽しさを知ってもらうことに、一定の成果が出ているのだとすれば、嬉しいのだが。

<毎日0時の一日一句>では、さらにうれしい現象も起きている。それは、この俳句鑑賞の部屋の参加者が、句会は一度の参加でやめてしまった人、句会には出ない人、つまり「読むだけ」の俳句読者が少なくない、ということだ。
 よく嘆かれることだが、俳句は作者=読者。つまり俳句を読む人は自分でも作る人ばかり。俳句は、作らない人にとっての読書対象になりえていない、と言われている。他の芸術ジャンルやスポーツでも、マイナーなものほどその傾向は強く、鑑賞者=創作者、観戦者=競技者、などとなりがちだが、俳句もまた文藝としてはマイナー。俳句は読むだけ、自分では作らない、という読者はなかなか獲得しえず、そんな奇特な人々のことを「純粋読者」などと呼ぶくらいだ。
 しかし、〈一日一句〉で俳句に興味を持って、鑑賞ルームを聞きに来てくれる、でも自分では句を作らない、という世にも稀な「純粋読者」の一群が、クラブハウスでは生まれているのだ。

 せっかく日本語が理解できるのだから、なるべく多くの日本人に、俳句を読むことを楽しんでほしい、と筆者は願っている。
 日本語が産んだ日本独自の詩歌形式である、俳句。しかし令和の世になっても、未だに「誰でも知っている俳句」は、「古池や」「柿食へば」で止まったままだ。
 一日一句でも紹介した、「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」「冬菊のまとふはおのがひかりのみ」ぐらいの「俳句の世界ではメジャーな作品」が、日本人なら誰でも知ってる俳句になるといいな、と思っている。あるいは、日本人誰もが自分の好きな一句を持っている、SNSのプロフィールには好きな一句をみんなが書いている、そんな世の中に。
 テレビ番組の影響などで「俳句を詠む」人口は増えているようだけれど、それでは物足りない。「俳句を読む」ことのブーム、そして日常化、それを21世紀中に起こしてみたい。「クラブハウスで一日一句」は、その野望への第一歩である。

前稿 クラブハウスで俳句鑑賞 【毎日0時の一日一句】 87日間、毎日俳句を紹介してみた

*<クラブハウスで一日一句><クラブハウス初めて句会>にご興味のある方は、ぜひ下記のリンクからどうぞ。クラブハウスのアプリをダウンロードすればどなたでも参加できます。
https://www.joinclubhouse.com/club/%E4%BF%B3%E5%8F%A5%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AF%E4%BF%B3%E7%AD%8B%E5%8A%9B%E3%81%AE%E4%BC%9A



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