過去の話

友達に「死にたい」って言われたことがある。
彼とは小学5年生のときに初めて同じクラスになった。
その頃からちょっと人とは違う雰囲気の子だった。
優しいしかわいいし好きだったけど、その分ヤバい奴だった。
学校に来なかったり、急に怒ったり泣いたり。不安定さに何故か惹かれた。
仲良くなった。
彼の家にも行った。一緒に帰った。
「死ぬんだ」って言われた。
止めた。彼は生きていた。
中学になっても、「死にたい」って言っていた。
ある日、彼と話した。
「俺なんか必要とされてない」って言うから
「そんなことないよ」って言った。
「じゃあ誰が必要としてるわけ?」
「……。」
親っていったら、絶対そんなわけないって言うだろうな。
友達って言ったら、友達ってだれ?って言いそう。
なかなかに難しい質問だった。
「……私?」
「そういうこと言う女って適当って見たことある」
何が正解だったんだよと今でもキレ散らかした事案である。
「なんで必要なの。俺の代わりなんていくらでもいるじゃん」
彼は難問をまたふっかけてくる。
私はなんて答えたんだっけ。覚えていない。
そういえば彼は自傷行為に走るようになった。
リストカット、ピアス、タバコ、酒、家出、S○X。
どれも自傷行為に見えた。
リスカ痕、見せられたから、やめなよって言った。
先生はよくカッターを取り上げていた。
取り上げたってどうせまた別なのを用意してくるのくらいわかるだろう。
あまり、強くは止めなかった。なんか、違う気がしたから。
ただ、頭を撫でていた。
なんか、伝わればいいなって思ってた。
たまに怒られたけど、顔を合わせれば撫でていた。
かわいい。
すぐに壊れてしまいそうで、彼に対する態度はちょっとおかしかった。
なんか、やたら子どもっぽくなって自分でも違和感があるほどに素直で嘘つきだった。
でも、本心だった。
ある日、久しぶりに一緒に帰った。彼の家は反対方向だったけどついてきてくれた。
そういうところが、好きなんだよな。
かなり長時間話した。
リスカを見せられた。カッターが彼の腕をなぞって、血が見えた。
なんの感情も浮かばなかった。
なにを思うのが正解なのかわからなかった。
「絆創膏いる?」
「いらないw」
そんな会話をした。
ある日、リスカ痕を見せられた。
一段と深いやつだった。
切り口が白くて、若干トラウマになった。
しばらくは人の腕が怖かった。
あれはケロイドになって彼の腕に住み着いている。
私もつられて、自傷をしていた。
受験期が重なって、やった。
頭を壁に打ち付け、腕や脚を爪で引っ掻いていた。
どれもこれも彼には及ばなくて、自己嫌悪に陥った。
彼のタバコはなんだったっけ。
小学生の頃に「タバコは一瞬吸ったら息できなくなったから吸わない」って言ってたの懐かしいな。
最後に「もう死なないの?」って聞いたら「今は死にたくない」って言ってたな。
なんか人殺しそうな雰囲気だったから「殺さないでー」って言ったら、「お前は殺さない」って言われた。

結局、「死にたい」って言われたときはなんて返せばいいのだろうか。
「死なないで」なんてわがままを押し付けていいのだろうか。
苦しくて解放されたい人に向かって、もっと長く苦しめって言ってる人にならないだろうか。
かといって、「死んでもいいよ」なんて言って「死んでいいって言われたんで」とか遺書に遺されたら私悪者じゃん。
どうするのが正解なのだろうか。
今も考え続けている。

あの日、彼を必要としていることを証明できなかった。それは、実際必要としてないということなのだろうか。
でも確かに彼の存在は私に影響を及ぼしている。私のメンタルが狂ったのも
私の性癖が狂ったのも
彼の影響なのだから。






そんな彼は、今でも生きている。