マガジンのカバー画像

ゆべ小説

30
ゆべしちゃんが書いた小説とかです。 幻想怪奇っぽくなってたらいいなあ。
運営しているクリエイター

#ホラー

貪婪の王はかつえる

貪婪の王はかつえる

 貪婪の王の話をしようか。

 俺がいきなりこんなこと言い出して、腫瘍で脳までイカれたと思うだろう、倅や?
 だがこいつはお前だけ、お前だから話すんだ。俺が女共に産ませた子供の中で、お前がいっとう俺に似てるからな。母親が良かったのかも知れねえ、名前は何だったっけ?
 そんな顔するな。自分がひとでなしだってことは嫌って程解ってる。お前が俺を嫌ってるのも知ってる。その上、酷い嵐なのにわざわざ俺の話を聞

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #7(最終章): 緑の目

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #7(最終章): 緑の目

1章,2章,3章,4章,5章,6章(前章)

神父様...、神父様。大丈夫ですか?

青ざめていらっしゃいますよ。ご気分がすぐれないのですか?
そうですか、ええ、よかった。

それからどうなったかって?
そんなこと、大した問題ではありませんわ。

あの時から、私はずっと地獄にいますもの。

地獄とは現世にいるうちに墜ちるものなのですね。
あの悪魔が言った意味がようやくわかりました。

あの後、多く

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #6:怪物

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #6:怪物

1章,2章,3章,4章,5章(前章)

ずいぶん長く、お話ししましたね。もうすぐです。もうすぐ私の告解は終わります。

これ以上何の罪を告白するのか、とお思いでしょうね?
ですが、これから話すことが、最も重い罪なのですよ。

悪魔が消えてすぐ、私は帰路につきました。
車のラジオから私の自宅がある地域にハリケーンが迫っているというニュースが聞こえ、そういえば数日前からハリケーンの接近が報道されていた

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #5:願い事はひとつだけ

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #5:願い事はひとつだけ

1章,2章,3章,4章(前章)

それから私は、ソフィアに部屋から出ないよう言いつけると、すぐに家を飛び出しました。
勤め先に連絡もせず、ソフィアの食い散らかし...チップの死体を片付けもせずにです。
正直、あの子が怖かった。
一刻も早くその場を離れたかった。

でもそれ以上に、何としてもあの悪魔にもう一度会わなければならないという思いが私をかりたてました。

電車を乗り継ぎ、レンタカーを借り

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #4:もっと食べたい

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #4:もっと食べたい

1章,2章,3章(前章)

私に体が弱く学校にいけない、ということにしている、ですけど、とにかく事情を抱えた娘がいることは、親しくなってすぐにデイビッドに伝えていました。
それでも彼は構わないと言ってくれました。
私もそんなデイビッドを愛していました。

彼を休日に家に招き、ソフィアに会わせたこともあります。
デイビッドは持ち前の気さくさでソフィアを笑わせようとしてくれましたし、父親を知らないソフ

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #3:負債

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #3:負債

前章

........................。

はい?

ああ、ごめんなさい、神父様。
少しぼうっとしておりました。
こんなに話し続けるのは初めてなんですもの。
休憩は必要ありませんわ。続けさせてください。

私はソフィアを取り戻して、それからすぐ、誰も知り合いのいない、遠くの街へ引っ越しました。
安い賃貸の家を見つけて、病弱で学校にいけない娘を抱えるシングルマザーという体で暮らし

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #2:ヴァルプルギスの夜

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #2:ヴァルプルギスの夜

前章

それから、悪魔は4月30日の夕方、日が沈む頃に、ソフィアの墓でまた会おうと言って消えてしまいました。
ええ、消えたのです。闇に滲むように。

悪魔が消えてしまうと、私はすべて幻覚だったのではないかと思いました。
馬鹿げた夢だと。
しかし、私はその馬鹿げた夢に死にものぐるいですがりました。

4月30日までの数ヶ月間、約束の日を今か今かと待ちかねて過ごしました。
希望を得て再び活力ある様子を

もっとみる
ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #1:告解

ハンナ・ハモンドが臨終における告解で述べた奇妙な話 #1:告解

ああ、神父様、よくいらしてくださいました。
どうか、どうか私の意識がまだ鮮明なうちに、告解をさせてくださいまし。
私の犯した罪、これを誰かに打ち明けぬ内には、とても死ぬことなどできません。

私の犯した罪、それは悪魔と取引をしたことです。
いいえ、比喩ではありません。私は本当に、本物の悪魔と取引をしたのです。
面食らった顔をなさって、信じてはおりませんね?
かまいません。死に際に蒙昧した老人の戯言

もっとみる
磯姫奇譚

磯姫奇譚

「月の引力で浮かんでくるのさ」
 そう言って父は、揺れる小舟の上で注意して立ちあがり、竹竿を構えた。
「だから満月の夜にはこうやって押し戻さねばならん」
 水面にぷかりと浮いてきたのは死んだ魚の腹のように白い女の顔だ。
父はその頭を竹竿で突き、海中へ押しやった。
 女の黒髪が水中でふうわりと舞い、みなもに花開くように広がった。

 海面から手だけを出し、むなしく空をかく女を眺める。私

もっとみる
父と子と夏の海の思い出の話

父と子と夏の海の思い出の話

それは私がまだ少年だったころ、9歳の夏の日のことだ。
あの頃はまだ海辺にすんでおり、釣りが好きな父はよく私を連れて浜へ釣りに行ったものだった。
その間、父から遠く離れないこと、絶対に海にひとりで入らないことを条件に私は好きにさせてもらえた。

あの海辺にいる間に、桜貝、巻き貝、流木、波で磨かれ透き通った様々な小石やガラス片など、実に多くの宝物を私は集めた。
懐かしい潮騒と風の音を今でもありあ

もっとみる
魔女と心臓とけだものの話

魔女と心臓とけだものの話

白い雪に刺さる黒い棘めいた森を走る。

必死で進むうちに幹を掴み雪をかき分ける手は殆ど這いつくばるようになり俺は四つ足の獣となった。

目指すのは魔女の閨だ。
名は何といったか。どうせ獣に名など意味はない。
黒い髪と目の女だ。赤い唇の。

魔女は鳥の足が生えた家に住んでいる。
足が殆ど凍りつく頃、俺は木々のあいまに目指す鳥の足を見た。

鱗の生えた節くれだった、鉤爪鋭い足を見た。

鳥の足は苔むし

もっとみる
バケモノの子の話

バケモノの子の話

狂女は誰にでも肌を許して金をもらった。それが彼女の生業だった。

その女は時折、神がかったことを言っては客を楽しませた。

そうなると女は、もの狂いめいた普段の様子から一転して厳かな声と口調へ変わる。
「お主の失せ物は何処其処にある」

「何月何日何処其処に行くと事故に遭うから用心せい」
等々、予言や千里眼めいた言葉を吐くのだ。       
そしてそれは不気味なほどよく当たった。

そんな女に毎

もっとみる