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やめろーっ、科学はバトルの道具じゃない ◆ 水曜日の湯葉91[8/30-9/5]

8月30日 水

夏休みが終わるので「反物質の小惑星が地球に飛来する」というSFを考える。字面だけでヤバさが伝わるのがいい。

単純にエネルギーを計算すると、1kgの反物質が地球大気に触れるだけでツァーリ・ボンバなみの大爆発になる。しかも通常の小惑星衝突と違って小さすぎるので、実際に落ちるまで観測できない。最初の一発がまったく予告なしで北極圏の無人地帯に落ちる。人的被害はないものの、さらに2発目が控えていることが発覚して地球がパニックに陥る。

とはいえ存在さえ発覚すれば撃退は難しくなく、星間物質との対消滅でガンマ線を出しているのを検出し、地球から十分離れたところで同質量の物質をぶつけて爆破させる。これならちょっと空が明るくなるだけで済む。いまの人類なら10トンの質量を狙った小惑星にぶつけることができる。全部ぶつけなくても、大爆発で蒸発するか、反動で軌道が逸れればいい。

ただ小惑星ひとつ撃退しても話が終わらなくて、そのあと大量の反物質小惑星群が背後にいることが判明し、各国の宇宙機関が個別撃破を要請される。当然ロケット不足に陥るが、そこで「反物質を回収してロケットエンジンに使用すれば、大質量を宇宙に送り込める」みたいな展開になれば大いに盛り上がる。うむ。敵を利用するのはバトル漫画でも定番だ。

劉慈欣『三体』が出た頃に「こういうデカいSFを日本でやるのは難しい」ということを結構聞いた。つまり、人類の命運をかけた巨大プロジェクトをやる場合、それを日本の話にするのが難しいのだ。「そういうのは NASA がやることでは?」と大半の読者は思ってしまう。そうか。確かにそうだな。

こういう場合は「日本にすごい天才がいて、そいつを中心にプロジェクトが動く」が定番なんだけど、自分の感覚だと「1人の天才が状況を変える」ということ自体がもうなんだか気に入らない。それよりは「なんやかんやあって経済的に復興した日本」を出すほうがいい。あるいは初撃でヒューストンとバイコヌールが崩壊するのでもいい。


8月31日 木

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