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優しい人とか、モテるとかは自分じゃなく♡相手が決める事だから✩自分ではあまり言わないものよ♡可愛いゎね〈パンダ〉のカップ♡いらっしゃい《勇樹》さん〈カフェ43勇樹3〉

カランカラーン。

そろそろ梅雨も終わりそうな空が笑い始めた。

しとしと、じめじめ泣いていた空が無邪気に笑い出そうとしている。無邪気過ぎて時に暴れだしそうな夏がやって来る。

夏は暑いとわかっていても、この頃の夏は暑いじゃなくて、熱いぐらいに思う。

そんな日に、また久しぶりに勇樹さんが来てくれた。

「いらっしゃい。勇樹さん」

今日もカジュアルな格好の勇樹さん。紺色の半袖のTシャツにジーンズ。

---あらっ。

Tシャツの胸の辺りに小さなパンダが居た。

「ママさん。持って来ちゃいましたよ。カップ」

そう言うと、何とそのままカップを持って居た。

例の〈パンダ〉の可愛いイラストのオレンジ色のカップ。

確かに、男性は荷物を持ちたがらないのはわかるけど。そのまま持って来るとは。確かに、かなり可愛すぎて、パンダ嫌いの奥さんに〈捨てて来なさい〉って言われたのも想像出来る。

でも、かなり可愛い。

「あら。可愛い」

「でしょ」

「胸のパンダも。うふふ」

そう言うと

「わかりました?。アハハ、慌てて探して着て来てきたんですよ。奥さんに内緒で」

嬉しそうに言う勇樹さん。

何だか可愛い。

「じゃ、コーヒー入れますね。そのパンダのカップに。座って下さい」

私は、そのパンダのカップを受け取ってコーヒーを用意した。

勇樹さんは、今日はカウンターの真ん中に座った。

確かに、50歳には見えない爽やかな感じの紳士だけど、オレンジ色のパンダのカップはビックリかな。確かにスリムだからTシャツは似合うけど、やっぱりパンダはちょっとビックリかもと思いながら、クスッと笑ってしまった。

「やっぱり、パンダ変ですか?」

えっ!。鋭い。

「違いますよ。可愛くて。本当に可愛いですね。パンダ」

「ですよね。パンダ嫌いってあり得ないと思うんですが」

勇樹さんがそう言った。

「奥さん、パンダにヤキモチ妬いているんじゃないんですか」

クスッと笑って、私はオレンジ色のパンダのカップにコーヒーを入れて勇樹さんに出した。コースターはやっぱり橙色にした。

「おっ、いいですねぇ。でも、ママさん。奥さんのヤキモチ、それは無いですから」

勇樹さんはそう言って、コーヒーを口にした。

「美味しい」

嬉しそうに言う勇樹さん。その瞬間が私は最高に嬉しい。

すると、

「ねぇ、ママさん。優しさってなんですかね」

そう言った。

「優しさですか?」

「そうなんですよ。仕事でも飲み屋でも、よく優しい人がいいとか言うじゃないですか。それで優しい人が何か人気というかモテるというか。私からしたら何だか、あまり当てはまらないんですよ」

「当てはまらないって?」

私が聞くと、

「私の周りの人なんですが、私から見れば優しいのに人気も無ければ、どちらかというと嫌われてる。はぁ?って感じの人が人気でモテているんですよね。なんだかなぁって思うんですよ」

そう言った。

「勇樹さんは、人気になりたいですか?。モテたいですか?」

私が聞くと、

「そうですね。嫌われたくは無いですが、ちょっと憧れるのかなぁ」

そう言った。

「確か前に勇樹さん、自分は優しい方だって言いましたよね。確かじゃないけど。じゃ、人気あるでしょ。モテるんじゃないですか?。容姿も素敵だし」

私は正直に言った。

すると、

「そんな事言いましたっけ。あぁ。奥さんにたいしてですよね。言ったかもしれません。でもそんな事言ってくれるのはママさんぐらいですよ。まったく人気も無ければ、モテません」

勇樹さんはそう言ってまたコーヒーを口にした。

「私は、勇樹さんのファンですよ。素敵な人だなぁって思いますよ。でも、私に人気でも違うんでしょうね。勇樹さんが好かれたい人が違うんですよ。私じゃ無いんですよね」

そう言うと、慌てて勇樹さんが言った。

「そういう意味じゃなくて、あの、私なんか好かれたりしてませんから」

「うふふ。大丈夫ですよ。勇樹さんを責めてる訳じゃありませんから。変な話し、確かに私が言ったら営業トークと思うでしょうからね」

「あ、あの」

「いいんですよ。そう思われるのは当たり前の事ですから。でも、その言葉の中にはいろいろな意味があって、受け取る人にもいろいろな受け取り方があるでしょ。そういう事なんですよ。営業トークもあれば、本当に好意のある言葉なのか。全ては受け取る側がどう感じるかなんですよ」

そう言うと、勇樹さんは黙って聞いていた。

「例えば、アイドルとか人気店とか、人気が出ていいのは殆どが損得が絡むのよ。売上とかね。人気が出れば知名度や収入が絡むから。それだけの事。〈私は優しい〉だとか〈私は人気がある〉だとかアピールするのもされるのも言うのは勝手だけれど、決めるのは相手だから。どんなに優しくしてアピールしても、相手がそう思わなきゃ、その人には〈優しい人〉にはならないんですよね。人気があるって大変よ。付き合いが。うふふ。本当に優しい人は自分から言わないし、アピールもしない。そもそも、本当に優しい人は、優しい人になりたいとか人気になりたいとか思わないから。だって、優しい事は当たり前だから。優しい人と思って貰いたい人に、優しいって思われたらそれが一番いいんじゃないかな」

そう言うと

「ママさん、私からしたらママさんが優しく思うよ。営業トークなんかじゃなくて。確かにママさんはそれが当たり前なんだね。当たり前っていうか、自然なんだね。だからまた来たくなるよね」

「ありがとう。私は来て貰えたり、覚えて貰えたりする事が本当に嬉しい。少しでも優しい場所になって貰えたら。それでも、居心地が悪かった人も居ると思いますよ。でも、それも仕方ないんですよ。みんなに気に入られる場所はなかなか難しいですから。気に入って貰えたらそれでいいんですよ」

私はそっと微笑んだ。すると、勇樹さんも頷きながらにこっと笑った。

「ありがとうママさん。何だかスッキリしました。このカップ、お店に置いて貰ってもいいかなぁ」

「もちろんですよ」

それから、勇樹さんは本当に嬉しそうに自前のオレンジ色のパンダのカップを見ながら、しばらくコーヒーを飲んでいた。

本当にパンダが好きなんだなぁって。

そして私は、

---勇樹さんは、本当は奥さんに優しいって思われたいんじゃないかな。

って、そう思った。

人は誰でも優しさに憧れ、優しさを求める。

だけど、優しさってお互いが感じ合えるものなんだろうなぁーって。

本当に可愛い。

オレンジ色のパンダのコーヒーカップ。

オレンジ色のパンダのコーヒーカップが可愛いのか、そんな勇樹さんが可愛いのか。

私はまた、ふふっと笑った。

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