台風の日に入って来たホストの《雪❅冬矢君》✩No.1になったのは《俺ラッキーだったんだよな》優しい冬矢君がそこに居た✩〈カフェ45冬矢6後〉
「ママ、俺さぁ、No.1になったのは、俺ラッキーだったんだよな」
台風が賑やかになって来た。ガタガタ、ガタガタと窓が鳴いている。
「ラッキー?」
「あぁ。そう思うよ。すべてがさ。ママに出逢えた事もNo.1になった事も。だけどさ、そのラッキーってそうあるもんじゃないんだよな。だから感謝してる」
冬矢君が、そんな事を言い出した。
「そうなの?」
私はちょっと、何を言い出すのか興味津々だった。台風も強くなって本当に今日はもうお客さんも来ないだろう。何となくゆっくり冬矢君を見て話すと、初めて来た頃とは本当に違う。
「ねぇ。前にさぁ、俺のマイカップが窃盗にあった話ししたじゃん。ヘルプでついた若い客に俺の名前〈雪❅冬矢〉を〈せっとうや〉って笑われて、一緒に居たおばさんが俺の名前聞いて来て、俺さぁ、面倒だから、ここに置いてもらう為に持っていたマイカップ。俺の真っ白いカップにゴールドで〈雪❅冬矢〉ってサインしてあったマイカップを見せたらさぁ、何だか気に入られて〈おいくら〉とか言われて、お金なんて要らないからそのままあげちゃった話し。覚えてる?」
そう言う冬矢君。
- - - あぁ。確かに覚えている。
「覚えているわよ」
私がそう言うと
「実はさぁ、そのおばさんが次の日に来て、俺を指名したんだよ。俺さぁ、指名なんて初めてだったから本当に嬉しかったんだよ。それでさぁ、聞いたんだょ。俺も正直だから、何で俺を指名したのかって」
「あらあら」
確かに正直。でも、何だかそれが冬矢君なんだよね。
「そしたらさ。マイカップありがとうって。だから俺〈それだけで?〉って聞いたんだよ。そしたらさ、おばさんが言ったんだよ。〈あなた、冬矢君は私に大切なカップをくれたわ〉って。〈えっ。それだけで?〉ってまた俺が聞いたんだよ。そしたら〈そうよ。ありがとうね。大切にするわ〉って言って、それから殆ど毎日来てくれて、俺さぁ、No.1になったんだよ。それでも不思議でまた聞いたんだよ同じ事を」
そう言って冬矢君は、コーヒーを口にした。
私は黙って聞いていた。
「そしたらさぁ、そのおばさんが言ったんだよ。〈あなたは普段着みたいな格好で、変なおばさんにあなたの大切なカップをくれたわ。私は〈おいくら〉って聞いたのにあなたは貰って下さいと言ったわ。私はあの子とずっと一緒に来ていたけれど、私を相手にしてくれるホスト君は居なかったわ。変なおばさんって思っていたのね。あの子がお金も出していたから。でも、あなた、冬矢君は違ったからね〉そう言ったんだよ。俺は特に当たり前の事をしだけなんだけどさ。それから、殆ど毎日来てくれて。そしたらさぁ、たまたまあの子についたら言われたんだよ〈〈窃盗や〉君。君は凄いね。あの人に気に入られて。あの人は凄い人なんだよ〉って。でも、確かにあのおばさんのお陰でNo.1になれたんだよ」
淡々と言う冬矢君。
「そのおばさん?の名前は何て言うの?」
私が聞くと
「それがさぁ、〈おばさん〉でいいって言うんだよ。だから〈おばさん〉」
冬矢君は、本当に素直で純粋なんだと思った。
だから、指名を貰った。
欲とかじゃなく。
たぶん、本当に凄い〈おばさん〉なんだろう。
本当に凄い人は!自分の時間は地位だとか凄いとか忘れていたいから。特別扱いはされたくないから。
本当に凄い人は、時に凄い飾りを隠す。
けして、自慢はしない。
そして、それを見守る冬矢君。
たぶんまだ、意味はわからないのだろうけど、〈おばさん〉には居心地がいいのだろう。
私も、余計なことは言わないでおこう。
そのうちに冬矢君自身がわかるまで。
私は、ふっと微笑んでいた。
「それもこれも、ママと出逢ってだから。俺さぁ、感謝してるし、ラッキーだよな」
本当に可愛い。
「そうね。ラッキーだね」
「おぉ、ラッキーな俺にも乾杯」
私は、思わず笑ってしまった。
「乾杯」
何だか、本当に笑っちゃう。
冬矢君、あなたは本当に凄い人に気に入られたのよ。
それを知っていて、そんな事をいっているのかわからないけれど楽しみ。
ガタガタ、ガタガタ。
「ママ、台風ヤバくね。そろそろ帰るよ」
「そうね」
「ありがとう、ママ。五千円札、並べといてよ。闇夢さんにも宜しく。いつか話したいって言っといて。それでさぁ、これはママのコーヒー代。〈おばさん〉から」
「えっ?」
冬矢君は、そう言って千円札を置いて、さっさと帰って行った。
「やべー、雨凄いや」
店のドアを開けて。
「ちょっと待って。ねぇ。冬矢君」
---おばさんからって。
何が《縁》するのかわからない。
本当に不思議。
でも、〈おばさん〉って。私に?。
窓が、ガタガタ、ガタガタ。
それでも、しばらくぼーっとしていた。
店はもう閉めた。
プレートも中に入れた。
台風が酷くなって来た。
私は、今日も店に泊まろう。
一応、アパートはあるけれど、殆どここで寝泊まりしている。
台風が無事に過ぎますように。
何かちょっと不思議な感じがした日だった。
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