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春ですね《80歳の圭子さん》季節は巡り🌼《庭の福寿草が綺麗に咲きましたよ》🍀〈カフェ92圭子さん8〉

カラン、カラーン。

静かに、ドアが開いた。

まだまだ、ちょっと厚めのもこもこした服装の圭子さん。

「いらっしゃい。圭子さん」

私は、にこっと笑った。

「ママさん。こんにちは。春ですね」

圭子さんは、そう言って、いつものテーブル席に向かって歩いて行くと、ゆっくりイスに座った。

私は、おしぼりと水の入ったグラスを持って行くと、圭子さんは

「ママさん、今日は桃色のカップがいいかなぁ。ママさんもね」

そう言って、にっこり笑った。

「はい、ありがとうございます。ちょっとお待ち下さいね」

私は、コーヒーの準備をして、同じ淡い桃色のカップにコーヒーを入れて2個持って行って、他のお客さんも居なかったので、私も対面に座った。

「いつも、美味しいコーヒーをありがとう。ママさん」

圭子さんは、そう言ってコーヒーをゆっくり口にした。

「いえいえ。嬉しいですよ」

私も、コーヒーを一口飲むと

「ママさん、庭の福寿草が綺麗に咲きましたよ」

そう言って圭子さんが言った。

「福寿草ですか?。いいですね。春の訪れですね」

「はい、まだまだ、桜は早いかな。梅は咲いているところもチラホラですからね。家では、福寿草が咲きました。綺麗ですよ」

嬉しそうに話す圭子さん。

「お庭があるんですね。いいですね」

「はい、以前は池もあって鯉が泳いでいたんですよ。主人が亡くなって私では池は管理が出来なくなったので、庭に戻しました。今は、お花やちょっとした野菜を育ててますよ」

「あら、いいですね。お花に野菜ですか?」

「茄子やキュウリやトマト。主に夏野菜ですね。私が食べる分です」

そう言って、また、圭子さんは笑った。

「羨ましいですよ。ここには庭は無いですから。店の前の街路樹に混ざって咲く桜や、木々に癒やされてますけどね」

「自然って、何だか優しいし癒やされますね。本当に不思議です。でも、たまに怒り狂う時もありますけどね」

「そうですね。優しいし怒り狂うし、人間も同じですね。優しいし冷たい」

私が、ふっと笑うと

「優しいママさんにも、いろいろあったんでしょうね」

圭子さんが、ぼそっと言って、優しく微笑んだ。

「いろいろね。みんな、ありますよね」

すると、圭子さんが

「良かった、ママさんが、普通の人間で」

そう言った。

「普通の人間?」

私が、不思議そうに言うと

「うふふ、そう、普通の人間」

そう言って、圭子さんがまた微笑んだ。

「はい、普通の人間です。笑う事もあるし泣く事もありますから」

私も、ふふっと笑った。

《普通の人間》という言葉が、何だか不思議で、でも奥が深いなぁって。

笑う事もあるし泣く事もあるし、楽しい事もあるし辛い事もあるし。

それが、人間なのかなって。

圭子さんと話していると、何だかほんわかする。

なんだろう。

いつも、そう思う。

コーヒーを飲みながら、圭子さんを見ている。

「ママさん、そんなに見ないでくださいよ。恥ずかしいですから、うふふ」

ハッとした。

思わず、圭子さんに見惚れていたのだ。

「あ、見惚れちゃいました」

私が、そう言うと

「嬉しいですねぇ。こんなおばあちゃんに見惚れてくれるなんて」

そう言って、圭子さんがまた笑う。

そんな時間が、優しい。

それから、ゆっくりした圭子さんは帰って行った。

私は、圭子さんにはもちろん、圭子さんの温かさに見惚れていたのだろう。

優しさとは、感じるもの。

言葉にも、行動にも優しさはあるけど、滲み出る優しさには静かに感じていたいと思うのだろうか。

私は、ふふっと嬉しくなった自分に、またふふっと笑った。

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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈