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僕はあの時、あの場所で見た、あの ❨リカちゃん人形❩ がずっと欲しかったんだ。--- だけど、本当に欲しかったのは---。

あれは、僕が小学生になる前の年の僕の誕生日だったと思う。母さんと僕は、僕の誕生日のプレゼントを買いにデパートのオモチャ売り場に行ったんだ。僕は、戦隊もののロボットが欲しかった。母さんの手に引かれ僕はウキウキしながら行ったんだ。

そのデパートの階のフロアは、オモチャだらけでまるで夢の世界だった。僕はキョロキョロしながら母さんの手を払って今にも走り出したかった。

--- ん?。

そしたら、歩いていた母さんが突然止まったんだ。そして、母さんはそこにあった箱を手に取って僕に見せてくれたんだ。

「見て。これね〈リカちゃん人形〉って言うの。ママが小さかった頃すごく欲しかったの。可愛いでしょ」

そう言って嬉しそうに笑う母さんが居たんだ。本当に嬉しそうだった。僕は、あまりにも母さんが嬉しそうに言うから、その〈リカちゃん人形〉を見たんだ。

確かに、可愛かった。

でも、僕は正直あまり興味は無かった。

その時は。

そして僕は、それから母さんとロボットがある場所に行って、僕が欲しかった戦隊もののロボットを買って貰ったんだ。嬉しかったんだよ。本当に。

--- だけど。

いつからだろうか?。

僕は、あの時、あの場所で母さんに見せられた、あの〈リカちゃん人形〉が気になり出したんだ。そして、本当にあの〈リカちゃん人形〉が欲しくなったんだ。

可愛かったから?。

気に入ったのだろうか?。

僕自身でさえわからないくらい欲しくなったんだ。

でも、子供なりに男の子が〈リカちゃん人形〉を欲しがるのは恥ずかしいと思っていた。だから、母さんには言えなかったんだ。

あれから時は流れ、僕はだいぶ大きくなった。それでも、どこかでやっぱり、あの〈リカちゃん人形〉が気になっていた。

何故なんだろう。

それから僕は、大人になって働くようになって買いたい物が買えるようになった。

だから、ある時、デパートのオモチャ売り場に行って〈リカちゃん人形〉を探してみたんだ。

見つけた箱に入ったその〈リカちゃん人形〉は、確かに可愛いのかもしれない、だけど僕は特に何も感じない。

---欲しかったんじゃないのか?。

どうして、あんなに気になって欲しくなったんだろう。

僕は、しばらく〈リカちゃん人形〉を見ていたが、その時は買わずに帰った。

それでも、やたら、あの時のあの〈リカちゃん人形〉が気になる。

--- あの時の〈リカちゃん人形〉なのか?。

僕が欲しいのは、あの時のあの〈リカちゃん人形〉じゃなきゃ駄目なのか。

今は、あの時の〈リカちゃん人形〉なんてもう無い。

--- そうか。たぶん、今の僕が欲しいんじゃないんだ。あの時の僕が欲しいんだ。

あの時の、あの場所に居た僕が、あの〈リカちゃん人形〉を欲しかったんだ。

--- 何だ?。何故なんだ。

それから、僕はまだ、わからないまま時が流れた。

そして、明日は母さんの誕生日だった日、僕は思い出したんだ。

--- あっ。あの時の僕の誕生日に。そうだ。母さんが嬉しそうに見せてくれた〈リカちゃん人形〉。母さんが欲しかったって言った〈リカちゃん人形〉。

僕は、あの時の母さんの笑顔を思い出した。本当に嬉しそうに笑っていた母さん。

--- そっか。僕は〈リカちゃん人形〉が欲しかったんじゃ無かったんだ。僕は、僕は、子供なりに、あの時の母さんの笑顔が忘れられず、母さんの笑顔が欲しかったんだ。あまりにも嬉しそうだったから。

--- そっか。

僕は、デパートのオモチャ売り場に向かっていた。明日は母さんの誕生日。

あの時の、あの場所の、あの〈リカちゃん人形〉は、もう無いかもしれない。

だけどいいいんだ。

いいんだ。

僕は、母さんが好きそうな〈リカちゃん人形〉を包装して貰ってリボンを掛けて貰った。

そこには、僕が欲しかった〈リカちゃん人形〉があった。

僕は。僕は、明日母さんに、この〈リカちゃん人形〉を渡すんだ。

母さんは、たぶんビックリするだろうなぁ。

だけど。

だけど、母さんはきっと僕が欲しかった顔をしてくれるだろう。

きっと。

きっと。

僕が、ずっと欲しかったのは

あの時、あの場所で見た母さんの笑顔だったんだ。

--- 今、僕は。きっとあの時の母さんと同じ顔をしているだろう。

見上げた空が本当に眩しかった。

   

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