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やっぱり!ママだったんだね♡気になって来ちゃった。真っ白い薔薇の花束♡咲希ちゃん【後編】〈カフェ38咲希3後〉

私は、突然の咲希ちゃんからの質問にふっと笑っていた。

〈ママって誰かと暮らしているの?〉

そう聞かれた。

咲希ちゃんもたぶん咄嗟に出た言葉だったんだろう。確かに、人の事がいろいろ気になるのは当たり前な事だから。

でも、ちょっとビックリした。

そんな事を聞いた咲希ちゃんは何だか申し訳なさそうにしているし、別に悪い事を聞いた訳ではないから私はこう答えた。

「今は一人よ」

そうは言ったが、改めて考えてみるとかえって納得いかない答えだったかもしれない。私は更に〈独身?。ママ結婚した事は。寂しくない〉そんな言葉が返って来るのかと一瞬思ったけれど違った。

「そうなんだ。私は家族と四人暮らし。両親と妹が居るんだけど---」

そう言って、また棚に目をやった。

「ママ、あのサイン入りマイカップ格好いいよね」

そう言って、ニコッと笑った。

私は、家族の話に反応した方がいいのか、咄嗟に話を切り替えたマイカップの話に反応した方がいいのか考えてしまった。

それでも、ちょっと今は、家族の話は触れてはいけないような気がして答えた。

「私もね、昔、ある喫茶店に行って常連さんなのか、そこに置かれていたマイカップに憧れた事があったの。いいなぁ〜って。それでね、マイカップ置きたかったら自由に置けられたらいいかなぁってね」

「うんうん。素敵、素敵。何か私はここに居る。ここに私も居るんだよぅって思えるよね」

咲希ちゃんはそう言った。

「咲希ちゃんもマイカップ置く?」

ついつい私はそう聞いてしまった。

すると、咲希ちゃんは一瞬黙って、ジーっと棚をまた見つめた。

--- あれ?。

直ぐ反応が無かったから、何かちょっと違和感を感じたけれど咲希ちゃんはそれからこう言った。

「私もマイカップ置きたいけど、今はこの桃色のコーヒーカップでいいです」

そして、ふっと笑った。

私は何か変な感覚に襲われた。ことごとく私が想像していた反応とは違ったからだ。

何か不味い事を聞いた?。

何か嫌な事を聞いた?。

人は、日によっても時間によっても、その時の一瞬の言葉や出来事でも思いや気持ちが変わる事がある。

誰かが悪い訳ではなくても。

そんな時、親や親しい人なら問いただす事も出来るのかもしれないけれど、まだまだ何も知らない相手ならなおさら何も聞けなくなる事もある。

確かに、問いただした方が良い時もある。

だけど、私には今は何も聞けない。

私もふっと一瞬黙っていた。その時間はほんの数秒かもしれないけれど。すると

「あ、ママ。私のマイカップ。そのうち作っていい?。あのね、今はこの桃色のこのコーヒーカップがいいの。でもね、もしかしたら違う色も良くなるかもしれないし。何かね。決めたくないの。何かね、自由で居たいの」

そう咲希ちゃんが言った。

--- えっ、あっ。確かに。

だけど、何か、何かちょっといつもの咲希ちゃんではないような。

確かに、いろいろな人が居る。

いろいろな思いの人が、いろいろな考えの人が居る。今は、その人の思いや気持ちを大切にしたい。

「もちろんよ。そのうち作ってもいいし、咲希ちゃんの好きなコーヒーカップでいいのよ」

私はそう言った。

「はぁい。ありがとう。ねぇママ、もうちょっと遅いから私帰るね。今日は、あの真っ白い薔薇の花束が気になって来ちゃったから」

そう言うと咲希ちゃんは、またピッタリお金をカウンターに置いて、カウンターの椅子から降りてドアに向かった。

「ありがとう、咲希ちゃん。何かあったらまた来てね」

また、私はそんな事を言ってしまった。すると咲希ちゃんは振り返って

「ママ、何か無くても来るからね。ママ、私、大丈夫だから」

そう言ってドアを開けた。

私は慌てて、カウンターからドアに向かった。

「咲希ちゃん」

私が言うと、咲希ちゃんはまた振り返ってにっこり笑った。

ドアがゆっくり閉まる。私は閉まりかけたドアを開けて帰って行く咲希ちゃんを見送った。

何か、変な感覚に襲われた。さっきみたいに。

何だろう。

〈私、大丈夫だから〉咲希ちゃんはそう言った。

私は、咲希ちゃんの姿が見えなくなるまで見送って、ドアのプレートを返した。

私は、そして店に入って咲希ちゃんが使ったコーヒーカップを片づけながらまた咲希ちゃんを思い出していた。

何かあったんだろうか?。

何かあるんだろうか?。

本当に、ただ、真っ白い薔薇の花束が気になったから来たのだろうか。

お客さんの事は、私は踏み込み過ぎてはいけない。あえて私からは聞けない。そう思っている。

本当に、人は日によっても、時間によっても気持ちは変わる。昨日泣いてた人が今日は笑っていたり、反対もある。

だから、私からは何も下手には聞けない。

昨日の事で、逆にまた思い出したり気分を悪くさせてしまったら、本当に大変な事になるからだ。

私が心配し過ぎても、どうしようもない。

だから私は、何かあれば話して貰える、相談して貰える立場でいられたらと思う。

ふと、私に聞いた〈ママって誰かと暮らしているの?〉という問いかけもちょっと不思議に思う。

そして私は〈今は一人よ〉と答えた私自身も確かに不思議だったのかもしれない。

間違いではないけれど、なぜ〈今は一人よ〉と答えたのか。

カウンターに飾った真っ白い薔薇の花束に3本の優しいピンク色の薔薇が加わって、本当に優しく見える。

--- 優しいんだね、咲希ちゃんは。

また、来てくれるよね。

--- あっ、いけない。いけない。あまり感情移入はしないようにしなきゃ。

ふと、苦い記憶が甦って来てしまった。

そう。音信不通になった大切だった人の事を。

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