「花束みたいな恋をした」を観ました

2021年No.1 の映画を観ました。

「カルテット」のコンビ

この作品は監督が土井裕泰、脚本が坂元裕二という2017年にTBS系列で放送された「カルテット」を制作した二人によって作られています。「カルテット」は私がめちゃくちゃ好きなドラマでこの映画は全くノーマークだったのですが、あのコンビと知って俄然見る気になりました。めちゃくちゃおもしろいドラマなのでぜひ見てください。

恋愛映画のアンチテーゼ

予告を見た感じだとありふれた普通の恋愛映画っぽく見えます。毎年やっているお涙頂戴的なやつ。蓋を開けてみたら序盤から”坂元裕二”といった感じのセリフで「僕はこれを待っていたんだ」と拍手をしたいくらいでした。坂元裕二は劇場版の「世界の中心で、愛をさけぶ」の脚本にも参加しています。あれは正に病弱なヒロインを登場させたまっとうに泣ける映画ですよね。そんな彼が2021年に描いた「花束みたいな恋をした」は特別何も起こらず、淡々ととあるカップルが出会ってから別れるまでがリアルに映し出されたものなのです。これはあえてジャンル分けするならホラーなんですよ。妙なリアルさが怖い。予告ではうまいこと普通の恋愛映画っぽく見せていてカップルで来ているお客さんも割といた。あのあとどんな会話するんでしょうね……

2015年から2020年を生きた俺たちの映画

主人公である麦(演:菅田将暉)と絹(演:有村架純)は2015年に出会い、2020年までの5年間の様子が描かれています。現実にある固有名詞がたくさん登場するのですがポップカルチャー、とりわけサブカルチャー(正確に言えば”二人”がサブカルチャーだと認識しているようなもの)が物語には必須のキーとなっていてその手の文化に触れてきた我々の人生と重ねて見ることができます。主人公の二人は天竺鼠が好きだったりカラオケできのこ帝国の「クロノスタシス」を歌ったり、「宝石の国」を読んで泣いたりするわけです。これらのあまりにも多すぎる固有名詞の数々は単なるそういった層へ向けたファンサービスではなくてより二人の現実味を増すアイテムになっていますよね。しかも、キャラクターとしては「サブカルに通じた人」というよりかは「サブカルが好きな自分が好きな人」みたいな。周りの人間とは合わない、自分はメインストリームから外れているんだと思っているどこにでもいそうな大学生。オタクはみんなそんな気もする。

あと、地味にすごいなぁと思ったのが作中に登場するゲームハードがWiiからSwitchへ移り変わっているところです。Nintendo Switchは2016年に発売され、作中でも実際にプレイしているシーンがあります。そして2015年の段階ではWiiが置いてあるのが見えるのです。WiiUではなく。Wiiの生産は2013年に終了しており、WiiUは2012年に発売されている機種なのです。順当に考えればWiiUからSwitchへ買い換えるもの。しかし、ここではWiiからSwitchでした。私もWiiは持っていましたがWiiUは買わず、Switchを買った人間でした。WiiUってびっくりするくらい売れてなかったハードなんですよね。だからこれはあえてWiiUを買わなかった人物である、というキャラ付けがされているんですよきっと。

溢れ出る坂元裕二感

やっぱり坂元裕二好きとしてはそのセリフを聞くだけで大満足というところがあります。前述の通り、冒頭から拍手したかったくらいですから。結婚式でお互いが別れ話をしようと決意するところとかかなりよかった。ウィットに富んでいてふふっと笑えるけどコメディには傾かないちょうどいい上品な面白さが心地よすぎるんですよね。そして、そう持っていくのかと膝を打つ展開。4年付き合った男女が別れるときってこうなるんだと思いました。決定的な言葉はないけどお互いがお互いの気持ちを察して、みたいな。


終わりです。

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