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地方移住してもPRを続けるためにやってきたことと心構えについて

この記事は【#PRLT(Lightning Text) Advent Calendar 2021】の第20日目(12月20日分)にエントリーしています。

コロナ禍が訪れて以来、私たちの働き方は大きく変わりました。リモートワークが当たり前となり、オフィスから解放されて能動的に働く場所を選択できる。そこで、地方への移住を選択肢の1つとして思い浮かべる方も増えたと思います。

では、私たちは移り住んだその地方でも、PRパーソンとして思い通りに働き続けられるのでしょうか。

地方に仕事があるのか、キャリアの選択肢としてどうなのか…、さまざまな疑問や不安があると思います。

この記事では、2020年半ばに地方に移住して、地元に根ざした制作会社に所属しながら、PRの仕事を作るべく1年間取り組んできた過程での学びをおすそ分けできればと思います。

「東京の仕事としてのPR」を変えられるか

私は地方大学を卒業して、2014年にオズマピーアールに新卒入社しました。その後、2018年にはPR Tableに転職するなど、一貫してPR業界で働いてきました。

PR業界を志望した学生の頃、手に取った書籍を読んで「(メディアリレーションズを中心とした)広報は東京の仕事だ」と知りました。そして、片道12時間をかけて就職活動をしたのは、もう10年近く前の話です。

就職後、SNSやスマートフォンを筆頭にテクノロジーが急速に進歩し、メディアを取り巻く環境も大きく変わりました。

昨今では、東京でないとニュースや話題を作れない、ということはなくなってきています。地方からも注目される取り組みや面白い話題が目に届くようになりました。それは、本質的なコミュニケーションにおいて「地域差はあまりない」ということだと思っています。

しかし、まだまだ多くの新しい情報や機会、ネットワークは東京に集約されていて、地方でPRを仕事にすることはメインストリームではないと感じています。一個人のキャリアを考えても、土台がしっかりしているのがどちらかは明白でした。

それでも、地方に移住してPRに関わる人や仕事を増やしたいと考えたのは、パブリックリレーションズの価値や可能性を心から感じていて、日本全国にインストールされてほしい技術だと考えているからです。

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より仕事を増やせる関わり方を探して

地方でPRの仕事をするには、事業会社の広報担当として働くか、フリーランスのPRパーソンになるかが分かりやすい選択肢だと思います(今回は、居住地として地方に移住しながらリモートで仕事をするパターンは除いています)。

これは個人の好みの問題ですが、私は「自分がPRの仕事をできるか」以上に、「PRの仕事をその地域で増やすことにつながるか」に比重を置いている気がします。

一概には言えないですが、事業会社の広報だと、価値を提供できる範囲が自社内に限られてしまいます。所属する会社には恩恵があっても、地域全体に効果を及ぼしていくにはハードルがある。

また、地方の会社での「広報」というポジションは定義が曖昧です。総務と兼ねて「WEBサイトのニュース更新が広報の仕事」なんてこともあるなど、一部の大手企業を除くと専門職として確立されていないのが現状です。

一方でフリーランスの場合は、直近の何年かはさておき、いつかは自身の知見やリソースの限界に突き当たる可能性が高くなることが懸念でした。中長期的に自分自身も成長しながら価値を提供し続けることが難しいのではないか、と考えていました。

なので、私はPRと親和性のある(と思われる)制作会社に所属して、支援会社側からPRの仕事を作ることに取り組んでいます。

WEBサイト制作や広告・プロモーションなど既存の事業領域との相乗効果の生まれやすさ、顧客へのアプローチのしやすさがあり、PRの価値を発揮する範囲を最大化しうるのではないかと考えています。

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リスクを買って出る度量がまだ必要

とは言っても、そんなポジションが最初から用意されている訳ではありませんでした。

目の前の仕事をこなしながら、チャンスを拾って、少しずつ成果を積み上げて、理解者を増やして…、と模索する毎日が続いています。

ちなみに、ポジションが募集されていない中でも転職ができたのは、自分のスキルセットと、会社が外部人材に求めていたことがマッチしたからなのですが、この点であまり再現性のあることは言えません(割と運とタイミングだったと思います)。

特に2020年半ばはコロナ禍直後で転職市場は不安定でしたし、業績も傾きやすい最中に新しい職種を採用しようとするのは、会社にとってもかなりのリスクであり、チャレンジだったと思います。

そして、採用される側にも不確定要素が高い選択です。自分の専門範囲外の業務にも関連性を見出し、異なる環境やカルチャーを受け入れていく度量が必要だと思っています。とは言え、同じようなケースの転身をする人が増えていけば、徐々に状況が変わっていくと思っています。

※余談ですが、親和性のある業態として広告代理店をイメージする方も多いと思いますし、私もその一人でした。ただ、実際に転職活動をして、働き始めると、制作会社の方が提供するサービスとの相乗効果や利益構造の観点からも合っているのではないかと感じています。

何でもやってこそ地域のPRパーソン

制作会社に入社してからは、印刷物やWEBサイト、動画を中心とした制作系の案件に携わりはじめました。

これまでは「いかに情報を広げていくか」に軸足があり、良くも悪くも“後工程”的でしたが、今度は反対に、作るところに軸足がある環境です。事業領域によるカルチャーの違いを肌で感じています。

そんな感じなので、初めから自分にぴったりな案件がある訳ではありません。最初の数ヶ月は、どんな案件でもとにかくバッターボックスに立って、仕事の手がかりを探していきました。

この段階は、PRがどうという話でもなく、シンプルに顧客にヒアリングをして戦略や企画を組み立てて提案するスキルが物を言いました。

提案内容も何でもあり。そこに「作るだけ」で終わらせない企画を盛り込んでいきました。プレスリリースもその一つです。制作物を作った後、どう広げていくかを制作とセットで考えるスキルは意外と貴重なのだと感じる場面も多かったです。

また、地方ならではの点として、役割分担が整備されていない雑多な状況も多いです。WEBサイトやLPの制作では、コンテンツを考えて、ワイヤーフレームを引いて、サーバーやドメインについても情報を整理して…と、PRをする前段階もガンガンやっていかないと肝心のPRにたどり着けないなんてこともあります。自分が得意とするフィールドに持ち込むまでがとても長いです。

ちょうどその頃、デザイン雑誌『AXIS』が「超地域密着」特集をやっていました。

冒頭にデザイン評論家・編集者の藤崎圭一郎さんのコラムがあったのですが、(地方のデザイナーは)「何でもやる」と書いてありました。

“地方のデザイナーは専門外のこともこなさなくてはならない。最初はパッケージデザインを頼まれたのだが、依頼主の予算が限られることから、他には頼めず、ウェブサイトづくりも冊子編集もショップの内装デザインも、さらには販路開拓まで自分たちで手がけたといった話をよく聞いた。”

“デザインが分業化されすぎて流れ作業になってしまうと、問題に対しての当事者意識が薄まり、目先の利益を求める経済効率主義に陥りがちになる。だから「何でもやる」を若い人が体験できる場は、デザインに必須の身体性を鍛錬する絶好の場なのだ。

AXIS(2021年4月号)

これを読んで、PRも一緒だと感じています。

プレスリリースやメディア対応といった“点”での関わりではなく、前段も引っくるめて全工程に関わってこそ、PRの価値を最大化することにつながる。

「身体性を鍛錬する場」と書いてあるように、一側面ではなく横断的な関わり方ができることで、仕事の手触り感が増していったように思います。

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そんな試行錯誤を数ヶ月繰り返すなか、ある程度の予算感のテレビCM案件とセットでプレスリリースの仕事を受注しました。

PR会社時代は業務内容への理解のある広報担当を相手に仕事がどんどん降ってくる環境だったので、まさかプレスリリースの企画書を作って提案する、なんて考えもしなかったですが(笑)

それが世の中の時流にもマッチして、主要紙や複数のテレビでのメディア露出につながる大きなヒットになりました。かなりラッキーだったと思いますが、目に見える成果が出たことで少しずつ前進している感触を得ました。

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まわりに仲間を増やす視点でのPRも必要

実績のないPRの仕事を増やすにあたって、違うカルチャーやスキルセットの人たちと自分の専門性をどう掛け合わせていくか。日々のコミュニケーションからも機会を作り出していくことが不可欠でした。

仕事柄、PRパーソンは新しい情報への感度が高い人が多いと思います。私も自分の知見や日々の仕事に関連ありそうな情報など、どれだけチーム内に流通できるかが大切だと考えました。求められているかいないかは関わらず、参考になりそうな情報をチャットを通して提供することからはじめました。

自分の情報感度を鈍らせないための対策でもありましたが、この情報提供を繰り返していくなかで自分にもプラスの変化があったと思います。

より俯瞰的な視点で会社のアセットを掛け合わせられないか考える習慣が身につき、周囲とコミュニケーションを取っていけるようになったと感じています。これは、同じ職能の人が周りにいて、多くを語らなくても通じ合える状況とは異なるからこそ得られた感覚だと思っています。

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「PRの事業企画」というマインドセット

こうした日々のなか、地方でPRの仕事をやっていく上で大切なことは「PRの事業企画をする」というマインドセットだと思います。

それは、与えられた仕事をこなそうとすることや、受け身の姿勢で良い仕事が来るのを待つこととは違います。

まずは、PRに価値を感じてもらうこと。
そのためには分かりやすい成果も必要ですし、周囲に理解してもらうための地道なコミュニケーションも欠かせません。

次に、市場を見極めて案件を形にしていくこと。
誰かが用意してくる仕事ではなく、自分でチャンスを見つけて物にしなければPRの価値を発揮できる機会はありません。

そして、横展開をイメージして取り組んでいくこと。
既存の事業との掛け合わせでどうすれば広げやすいか、何かサービスを組み合わせればよいか、などいかに自分以外にもできる余地を作っていくかを考えなければいけません。これは私もまだまだ課題として感じている部分です。

この繰り返しが、地方にPRの仕事を増やすことにつながると考えています。

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まだまだ足りないPRへの理解と市場感

地方に移住して1年。最近では、地元の報道番組で10分近いの大型露出を実現するなど、メディアリレーションズによる成果も形になってきました。その一方で、さまざまな課題もより鮮明になってきています。

それは、地域全体としてコミュニケーションの手段が限定的になっている実態です。自分たちが伝えたい情報をコンテンツ化して、広告で届ける。「一方的な情報発信」の色合いの強さを感じています。

ただ、広告予算を確保できるなら、その予算を上手くリデザインすることで、PR発想が活きる統合的なコミュニケーションに発展させられないか?とも考えるようになりました。

ここに地方でPRパーソンが活躍していくためのヒントがあるように感じています。

PR発想を軸に企画して、クリエイティブに落とし込んでいくこと。
それを広げていく手段として、メディアリレーションズや広告を組み合わせていくこと。そして、何でもやる。
まずは、それを仕事として形にするところからだと思っています。

🦌 🛷 🎅 🎄

この1年を通して、ようやく自分の知見をどう活かしていけば良いかが見えてきた気がしています。ただ、なかなかに孤軍奮闘なので、オンラインで気軽に情報交換してくれる方も募集しています(笑)

長々となりましたが、最後までご覧いただきありがとうございました。
よいクリスマスと年末年始をお過ごしください。

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