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朝の現場

〜朝の読み物 《夏 2022.8.15》〜


時刻は6時45分。
グツグツと音をたてはじめた小鍋と、3つの目玉焼きを乗せたフライパンの火を止める。
子どもたちを7時にはテーブルに座らせなければならない。急ぎ足で階段を上る。

子ども部屋のドアを開けると見事な大の字の長男と、長男の脇にぴったりとくっついて眠る妹。
「起きてー。朝だよー。」
カーテンと窓を勢いよく開け、二人の足にかろうじて引っかかっているだけの布団をはがす。
「起きてー。」
二人の身体を交互に揺するものの全く起き出す気配がない。

仕方なく二人の通園バックと着せる服一式を持って、急いで階段を降りる。
荷物をソファーに置き、台所に戻るとパパがシャワーから出てきた。

スープ、目玉焼き、付けあわせにブロッコリーとトマト、ごはんと3人分を盛り付け何往復かしてテーブルに運ぶ。
パパがリモコンに手を伸ばしながらテーブルについたと同時に、再び2階に駆け上がった。

「起きてー。ごはんー。」
二人の身体を揺するとやっと伸びをしたり目をこすったりしはじめた。
「はい、ひーちゃん抱っこ。」
まだ完全に脱力状態の妹を抱きかかえた。重い。
「しゅんくん、はい、起きて。手手つないで。」
妹を片手で抱き直し、長男の上体を起こし布団に座らせてから、手をつないでなんとか立たせる。
そのまま1階に降り、どうにかこうにか椅子に座らせる。
「しゅん、ひまり、おはよう。」
パパが言う。
しゅんは目をこすりながら、うんうんとうなづく。
ひーちゃんはぼーっとテレビに目を向けている。

パパの声がけでもそもそとごはんに手をつけだした二人を横目に洗面台へ向かった。
とりあえず洗顔と化粧水をしただけの顔に、化粧を施していく。

ガコン

テーブルからなにかが落ちる音とひーちゃんが泣く声。パパが困ったようになだめる声もする。
あともう少しで終わるところだったのに、仕方なく中断する。

ダイニングを覗くと、スープのおわんを落としてしまったひーちゃんが泣いている。
またやったか。と思いながら、パパの手からフキンを取る。
「やっておくから、とりあえずごはん食べちゃって。もうすぐ着替えないと遅れちゃう。」
床からおわんを拾い上げて簡単に洗い、少なめにスープをよそいなおす。
「はい。ひーちゃんどうぞ。今度はおっことさないように気をつけてね。」
目に涙をためながらもひーちゃんはスプーンを手放さない。おわんを置くと、おわんについている持ち手を握りしめ、スプーンを動かし始めた。
せかせかとテーブルと床を片付けているうちに、
「ごちそうさまー」
と長男が席を立つ。
「ごちそうさま。」
パパも席を立ち、二人で洗面所へ向う。
「ひーちゃんもあと少しかな。」
お茶碗をのぞくとふりかけごはんがあと少し。
テーブルから食器を片付けながら、ひーちゃんを見守る。
最後の一口を入れたのを見計らって、食器を洗う手を止め、ひーちゃんのもとへ行く。麦茶を口に含ませてから、抱き上げて洗面台へ向う。
私と入れ違いでパパとしゅんが出ていき、嫌がるひーちゃんの口に歯ブラシを突っ込む。どうにかこうにか歯磨きをして顔を水で濡らすと、ひーちゃんはますます不機嫌になる。
「きれいきれいしようねー。」
なんて言う私の声は、きっと耳に入っていない。
不機嫌なひーちゃんを次はソファーへと運ぶ。
あぁ、あと5分で8時。時計の早さに驚きながらひーちゃんを着替えさせる。
「ひまりはお支度できたかな。」
ぱりっとしたスーツを着たパパと、しっかりリュックまで背負ったしゅんが玄関に向かおうとしている。
「あと少しー。」
もういいやと思いながら、手ぐしでひーちゃんの髪を整え、片手にひーちゃん、片手に通園バックを持って玄関に向う。
ひーちゃんと通園バッグをパパにバトンタッチすると、朝の大仕事を終えた気持ちになる。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
3人に手を振りながら、このまま何事もなくドアよ閉まってくれと念じる。

しっかりとドアが閉まるのを見届け鍵を閉め、ダイニングに戻る。
あぁ、あと10分しかない。
残っている食器の片付けと、途中経過のお化粧、なによりまだ私はパジャマ姿。
あぁぁ。
行き場のない思いは今日も大きなため息に。

現場からは以上です。

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