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鏡を使った運動練習は逆に運動学習を妨げてしまう場合がある

今回は、リハビリテーションの臨床において、患者さんが鏡を使って自身の運動を確認することの意味についてお話します。

どこの病院のリハ室にも、一台は全身が映る大きな鏡が置いてあると思います(姿勢矯正鏡というらしいです。)
その鏡は、患者さんが歩行練習や立位練習をする際に、自分の姿勢や動きが正しいかどうかを確認するために使われます。
座位で、姿勢が傾いてしまう患者さんでは、座位保持練習に使われる場合もあります。

しかし、この鏡を使った視覚フィードバックによる運動練習は、使い方を間違えると、逆に、患者さんの運動学習を妨げてしまう時があるので、注意が必要だと思っています。

鏡を使った運動練習の中には、失敗と修正の過程がない

鏡を使った視覚フィードバック練習は、実際の運動の最中に、自身の姿勢や運動が上手くいっているかどうかを確認し、リアルタイムで違っている部分を修正出来るので、適切な運動が容易に引き出せます。

これは、一方で、常に修正しながら運動しているということであり、鏡を見ながら適切な運動をし続けている(運動の課題に正解し続けている)ことになります。

運動学習を起こす原則は、失敗と修正(トライ&エラー)です。運動が失敗した結果を知り、次の運動で修正するという過程を繰り返すことで、少しずつ失敗しなくなっていき、適切な運動を獲得していきます。

しかし、鏡を見ながらリアルタイムで運動を修正し続けている場合、その中に「失敗」の過程が含まれません。ずっと成功し続けちゃってます。これだと、運動学習が起こる隙がないです。
言い換えると、鏡の力(視覚フィードバックの力)によって、運動の型にはめられてしまって、それ以外の運動を起こす余白がなくなってしまってます。

これだと、鏡の力がなくなって、運動の型から外されたとたんに、元の状態に戻ってしまって、適切な運動が出来なくなってしまいます。

例えばこんな事があります。

歩行中、どうしても体幹が右に傾いてしまって転倒リスクがある患者さんがいたとします。
この患者さんに、鏡の前でステップ練習をしてもらいます。
患者さんは、鏡の中の自分の姿勢を見て、体幹を正中位に保ちながら足を前に出したり引いたりしてステップします。そうすると、体幹が傾かず、転倒することなく上手にステップできます。
この練習を沢山繰り返したあと、いざ、実際に鏡を見ずに歩いてみると、たちまち、元の体幹が傾いた歩行に戻ってしまうのです。

そもそも僕たちは、運動するとき自分の身体を見ていない

また、鏡を使った視覚フィードバック練習には注意が必要だということについて、もう一つの理由に、そもそも私たちは運動の最中に、自身の身体の動きを目で確認していない(視覚フィードバックは使っていない)という点があります。
(厳密には、視覚フィードバックは使われていますが、それは自身の身体からではなく、周囲の環境や操作する対象物から視覚フィードバックを得ています)

私たちは、歩くとき自分の足の動きを目で確認していませんし、立っているときに自分の体幹の傾きを目で確認しません。だからこそ、歩きながら信号を確認出来るし、立った状態で洗濯物を干せます。

なので、患者さんの目標が、このような自由な歩行能力や立位能力なのであれば、視覚フィードバックに頼らない歩行や立位の獲得を目指さなければならないです。

鏡は自分の運動の正誤確認に使う

では、鏡を使った運動練習はどういう風に使えばよいかというと、僕は、自分の運動の正誤確認に使うのがいいと思います。

具体的に、先ほどの歩行中体幹が傾いてしまう患者さんの例で説明します。

この場合、最初から鏡を見て体幹が傾かないように気を付けながらステップ練習するのはなく、まずは、鏡を使わない状態で状態でステップ練習します。そして、繰り返し練習したあと、本当に体幹が傾むかないで出来ているかを確認するために、一度鏡の前でステップしてみます。すると、思ってたよりまだ傾いているな、となります。そしたら、再度、鏡なしで、練習します。これを繰り返します。

この鏡の使い方は、姿勢保持練習でも使えます。プッシャー症状があるなどで、座位姿勢で体が傾いてしまって座位保持が出来ない患者さんには、鏡の前で座ってもらい後ろからセラピストが体を支えた状態で、まずは閉眼します。そして、自分が思う正中位を取ってもらった後、目を開いて鏡を見て、自分の体の傾きを確認してもらいます。

このような鏡の使い方は、常に鏡を見ながら運動を修正し続けているものとは違い、まずは視覚フィードバックを使わずに運動を調整し、それが適切だったかどうかを鏡を見て確認するもので、その中に失敗と修正の過程が入っています。

これだと、視覚フィードバックに依存しない運動の獲得に繋がっていくと思います。

まとめると、鏡を使った視覚フィードバックによる運動練習は、使い方によれば運動中の視覚フィードバックへの依存を強めてしまう可能性があり注意が必要、という話でした。

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