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学校では習わない伸張反射の話

今回は、伸張反射の話です。今回は、今までと少し違った形で記事を書きます。元々、ほかの場所で出すように書いた記事だったのですが、分け合ってお蔵入り(ボツ)になったので、もったいのでここに残しておきますw。

伸張反射(脊髄反射)は、筋収縮を引き起こす神経機構の中でもっともシンプルな仕組みです。

しかし、そんな原始的な仕組みである伸張反射が、実は、その時の姿勢、その時の皮膚からの感覚入力、その時の感情など様々な要因の影響を受けて多様に変化することが分かっています。

そんな伸張反射の特性を理解しておくことは、伸張反射が重要な役目を果たす「歩行」や「立位」などの姿勢制御のリハビリテーションには大切で、特に、脳卒中や脊髄損傷などの中枢神経疾患では重要です。

今回は、伸張反射が変化する仕組みとそれを歩行のリハビリテーションにどう応用するかについて、お伝えします。

伸張反射が変化する仕組み

伸張反射は単シナプス性運動ループと呼ばれ、感覚が入力されてから運動を返すまでに1回のシナプスを介するだけの回路で出来ています。

脊髄反射


シナプスは情報の受け渡し場所ですが、この情報の受け渡しの際に、他の神経からの邪魔が入って情報が変化する場合があります。
それらのうちの代表的なものが「シナプス前抑制」です。

このシナプス前抑制は色んな神経から影響を受けて引き起こされます。
なので、伸張反射は、同じ量の感覚を入力されているのにも関わらず、その時の状況によって引き起こす運動(筋収縮)の強さを変化させるのです。

伸張反射の強さは姿勢によって変化する

最も有名なものは、姿勢の変化による伸張反射の変化です。
座っているときと比べて、立っているときの方が下肢の伸張反射は小さくなります。
また、両足で立っているときより、片足で立っているときの方が下肢の伸張反射は小さくなります。
つまり、姿勢の難易度が高いときほど、伸張反射が抑制されているということです。

なんでこんなことが起こっているのかが興味深くて、姿勢の難易度が高いほど、伸張反射を抑制して、姿勢制御の中枢を脊髄から大脳へ移行させているためと考えられてます。

バランスが悪い状況では、より細やかな身体の操作が必要になってくるので、脊髄での制御の割合を減らして、その役割を大脳へ委ねているという感じです。

ここで、脳卒中片麻痺の患者さんを思い出してみてください。

片麻痺の患者さんでは、座った状態から立ったとたんに、麻痺側下肢の緊張が亢進して、踵が浮いちゃうような人がいます。

これは、正常であれば、立つことで抑制されてなければいけない伸張反射が、逆に亢進しています。

つまり、姿勢に応じて伸張反射を抑制させる能力が低下していることを意味しています。

このように、特に中枢神経疾患の患者さんの姿勢制御能力を評価するときは、姿勢の変化に応じて伸張反射の出やすさがどのように変化しているかを診ておくことも大切です。

伸張反射を変化させる様々な要因

その他にも伸張反射の強さは、様々な他からの感覚入力の影響を受けます。

ここに代表的なものを載せます。

・下肢の伸張反射(ヒラメ筋)は、股関節の角度の影響を受ける。(股関節伸展で促通、屈曲位で抑制される。)
・下肢の伸張反射(ヒラメ筋)は、転倒恐怖感の影響を受ける。(転倒恐怖感で抑制される。)
・下肢の伸張反射(ヒラメ筋)は、下肢への荷重の影響を受ける。(荷重で抑制される。)
・下肢の伸張反射(ヒラメ筋)は、足底の皮膚からの感覚入力の影響を受ける。(前足部の刺激で抑制、後足部の刺激で促通される。)

これらのことから、伸張反射は感覚に応じて決まりきった運動を返しているのでなく、その時の身体の状態に応じて様々に変調されるということが分かったと思います。これは、逆にいうと、伸張反射が正常に起きない患者さんでは、その時の身体の状態を変化させることで、伸張反射を正常に近づけられるということです。

では、ここからは、伸張反射の調節が障害された患者さんに対するアプローチの考え方について、お伝えします。

抹消からの繰り返しの感覚入力が伸張反射を正常化させる

伸張反射の調節機能を回復させる要因の一つは、「抹消からの繰り返しの感覚入力」です。

特に下肢の場合は、歩行様の感覚入力を繰り返し行うことが重要です。

脳卒中や脊髄損傷の患者さんが、ペダリング運動やトレッドミル運動をすると、下肢の痙性が落ちて歩行能力が向上することが分かっています。

これは、「荷重」や「股関節の伸展」などの歩行様の感覚が繰り返し下肢から入力されたことによって、伸張反射が適正化されるということです。

この機構はCPGとも関係しており(またどこかで詳しく書きます)、長下肢装具や免荷式トレッドミルでの歩行トレーニングのエビデンスにもなっているものです。

「注意」を使って伸張反射を正常化させる

そして、伸張反射の調節機能を回復させるもう一つの要因は「大脳から脊髄への下降性投射」です。

「大脳から脊髄への下降性投射」とは何か、ですが、ここでは「注意」を使って伸張反射を抑制する、ということです。
(「注意」とは「意識する」ということです。)

実は伸張反射は、注意することでその強さを変化させられます。

たとえば、今、あなたの後ろで誰かがおもいきり「わっ!!」と叫んだら、あなたはとてもびっくりして全身が緊張します。
でも、もう一度同じように「わっ!!」と叫ばれても、次はそんなにびっくりしません。
これは、同じ感覚刺激が入ってきているのにも関わらず、その刺激が入ってくることを事前に予測して注意しておくことで、刺激後の反射が抑制されていることを表します(この場合、伸張反射ではないですけど、、伸張反射も同じです)。

このように、反射は「注意」という大脳の働きによって、その大きさを変化させることが出来ます。
これが、大脳から脊髄への下降性投射です。

これを臨床に応用すると、例えば、立ち上がった途端に麻痺側下肢の緊張が亢進するような脳卒中の患者さんに対しては、立ち上がる前から、立つときの麻痺側下肢の荷重感覚にしっかり注意してもらいながら、ゆっくり立ちあがるように指示します。
ポイントは、伸張反射を抑制(もしくは促通)させることに有効な感覚に注意することです。(大体の場合で、足底の荷重感覚は有効だと思います。)

伸張反射の調節障害

まとめると、中枢神経疾患などでの伸張反射の調節障害では、
①ペダリング運動やトレッドミル歩行などのリズミックな歩行様の運動を繰り返すこと
と、
②荷重感覚に積極的に注意を向けた状態での麻痺側下肢への荷重練習
の2本柱が重要だということです。

参考文献
・Maria Knikou. Clinical Neurophysiology 2010
・Taube W,Gruber M, et al.; Acta Physiologica 2008
・Duysens J, Massaad F. Clinical Neurophysiology 2015

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