見出し画像

歩行遊脚期の練習はスタートとゴールを教える

今回は、歩行リハビリテーションにおいて、遊脚期の下肢の動きの練習の仕方について、僕の考えをお伝えします。

歩行障害のある患者さんのリハビリテーションを担当するとき、僕はいつもその歩行を右下肢の問題か、左下肢の問題かに分けて、それをさらに遊脚期の問題と立脚期の問題に分けて考えてアプローチします。
その時、遊脚期と立脚期、どちらか一方にしか問題がない患者さんは少なく、多くの患者さんは両方に改善すべきところがあるのですが、僕の経験では、大体の場合、遊脚期の下肢の動きを獲得する方が難しいです。

その理由はいくつかあるのですが、一つは「遊脚期は地面に接地してないから」です。(どやっ)
地面に接地しておらず、空中に浮いているということは、それだけ自由度が高く動き方の選択肢が多いということです。それらのたくさんある選択肢の中から適切な動きを選択するのが患者さんには難しいのです。

もう一つの理由は、遊脚期には脱力が必要だからです。立脚期での下肢の役割は体を支えることであり、筋の出力が求められます。そこから、遊脚期に移行すると、さっきまで体を支えていた足を動かして、前に振り出さなければいけないので、出力を抑制して脱力することが求められます。多くの患者さんでは、出力より抑制の方が圧倒的に難しいです。これは、脳卒中のような中枢神経系の疾患でも、大腿骨頚部骨折のような運動器疾患でも同じです。

遊脚期が上手くいかない患者さんの多くは、この、たくさんの運動の選択肢の中から選択する運動を間違ってしまっているという問題と、この「抑制」に失敗しているという問題を抱えています。例えば、脳卒中の患者さんでは、遊脚期で足先に過剰に力が入ってしまい尖足になってつま先が地面を引きずってしまいます。TKAの患者さんでは、遊脚期で膝が上手く曲がらず棒状の振り出しの動きになってしまいます。

このような患者さんに、振り出しの動きを教えるのは本当に難しく、例えば、平行棒内で何度も振り出し練習をしても実際に歩き出すと、また元のパターンに戻っちゃいます。平行棒内で、「つま先を上げながら真っすぐ足出してっ」とか、「膝を曲げながら足振り出してっ」とか言って、一生懸命振り出し練習しても、実際の歩行中の振り出し運動は、一瞬で終わってしまうし、あまり上手くいかないことが多いです。

こんなとき、僕は、振り出しの「始まり」と「終わり」を教えることにしています。振り出し動作の始まり方と終わり方が分かれば、その間にある実際の振り出し動作は、勝手に上手くいくだろうという算段です。

振り出しの始まりとは、歩行周期でいう前遊脚期で踵離地(ヒールオフ)のことです。この時の下肢の姿勢は、振り出し側を一歩後ろに引いて、膝が曲がり踵が浮いてつま先だけ地面に接している状態です。さらに、骨盤は左右傾くことなく水平を維持しています。患者さんには、この姿勢をとれるようになってもらいます。そして、「この姿勢から足を振り出していくんですよ」といいうことを分かってもらいます。

振り出しの終わりとは、歩行周期でいうところの遊脚終期で踵接地(ヒールコンタクト)のことです。この時の下肢の姿勢は、振り出し側を一歩前に出して、つま先が上がり踵だけ地面に接している状態です。膝は伸びきっておらず、少しだけ曲がっています。骨盤は水平維を維持です。振り出しの始まりが出来るようになれば、次は患者さんにこの振り出しの終わりの姿勢をとれるようになってもらいます。そして、「振り出した足が最初に地面に着地するときはこの姿勢ですよ」ということを分かってもらいます。

こうして、振り出しの始まり方と終わり方を覚えて初めて、実際の振り出し練習をして行きます。そのときに、きちんと、一度覚えた振り出しの始まりの姿勢から振り出ししていってもらって、振り出しの終わりの姿勢で着地することを患者さんに意識してもらいます。このように運動のスタートとゴールが明確に分かっていれば、スタートを切ったあとに、ゴールに向かって適切な道筋を通りながら運動が進んでいくはずです。大切なことは、このスタートとゴールを患者さんにしっかり覚えてもらって、振り出し練習中は、この2点を意識してもらうということです。

まとめると、歩行リハにおける遊脚期の練習は、振り出し運動の「始まり」を「終わり」の姿勢を覚えてもらい、その2点を繋ぐように意識して振り出し練習をすると上手くいきやすい、という話です。

画像1

職場の壁にアートが描かれています
(職場は役所です)

▽リハ専門職向けの勉強会情報サイト「みんなの勉強会」
ホームエクササイズ指導用資料集(無料)もあります!!
https://minnanobenkyokai.com/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?