ブックレビュー ルポ 保育格差 (岩波新書) 新書

 保育所の数を増やせば良いわけではなく、保育の質を確保することが急務だ、と真っ先に思った。

 本書の前半では、保育所の悲惨な現場、その影響をうけた学童保育の現状を紹介し、なぜそのような構造になるのかを各種データから説明している。後半は安心して預けられるような保育所の事例を紹介し、保育格差をなくすためには、という今後の在り方について筆者が考察している。

 特に印象的だったのは、保育所運営の肝となる事業活動比率(人件費、事業費、管理費)にお金が回っていない保育所がざらにあるという実態だ。 都内の私立の認可保育園だと、国が想定している見積比率の半分以下の割合で運営されている保育所が実名付きでデータで挙げられていた。保育士の給料が低い、稼げない、の背景や構造が一気にわかったような感覚になった。

 本書の冒頭は、保育士からひどい虐待を受け大人を信じられなくなる子どもの事例がいくつかあがっているのだが、虐待する保育士を攻める姿勢では何の解決にもならないと感じた。ただ同時に、まだ子どもがいない私でも正直「保育所に子どもを預けたくない…」と思わざるを得なかった。

 私には、都内で共働きで子どもを保育園に預けている友人知人もいる。一方で都内ではないが保育士として働いている知人、保育士の現場にうんざりして辞めて全く違うことをやっている友人もいる。かれらが、保育に対して日々どのように感じているか、感じていたかは、正直わからない。ただ、この本で疑問を投げかけられているような歪んだ保育の構造を少しでも知っていたら、もっと相手の想いを汲み取ったり踏み込んだ質問が出来たのかもしれない。

 何ができるだろうか?一つ言えるのは、正直あまり実感のなかった保育問題について危機感をもって感じられるようになったことだ。未来を担う子どもたちの大事な乳幼児期だからこそ、どの保育所でも本来の「保育」を提供できるように、一緒に声をあげたい。

 子どもがいる人、いない人、問わず、一読いただきたい。




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