レジ袋の有料化(とコロナ対策)
今月のはじめからスタートしたプラスチック製買物袋(いわゆるレジ袋)の有料化。コンビニでもスーパーでも、「レジ袋要りますか?」と必ず聞かれるようになりました。
ではどうしてレジ袋の有料化をするのか、と聞くとまっさきに思い浮かぶのはプラスチックごみによる海洋汚染の姿ではないでしょうか。
もう5年前になりますが、ウミガメの鼻にストローが刺さってしまった動画が有名になりました。
かなりセンセーショナルな動画だったこともあり、プラスチックごみによる海洋汚染への厳しい批判がみられるようになりました。
さて、話をもどすと、他にもさまざまなプラスチックごみによる問題は存在しています。
経済産業省のホームページには次のようなことが書かれています。
プラスチックは、非常に便利な素材です。成形しやすく、軽くて丈夫で密閉性も高いため、製品の軽量化や食品ロスの削減など、あらゆる分野で私たちの生活に貢献しています。一方で、廃棄物・資源制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの課題もあります。私たちは、プラスチックの過剰な使用を抑制し、賢く利用していく必要があります。
みなさんはここに挙げられている課題を素直に受け止め、じゃあ今度から毎バッグを持って行って買い物しよう、プラスチックの代わりに再生資源の商品を利用しようなどと考えているかもしれません。
しかし、上記に書かれていることを簡単にうのみにしてしまうことは危険だといえます。なぜなら、すべて納得しがたい事実が隠されているからです。
例えば、ここで海洋プラスチックごみの問題を再検討してみます。まずはじめに考えたいことは、どれだけ日本が実際にプラスチックごみを海や河川に捨ててしまっているか、ということです。
これについては正確な情報は公表されていません。
ですが、現在プラスチックごみとして廃棄されるものは、すべて処理されているとされています。つまり、自然界にそのまま廃棄されるプラスチックごみはゼロなのです。
図1:2018年のプラスチックのフロー図。廃棄物は全て処理されている(と書かれている)。
一般社団法人 プラスチック循環利用協会
それではなぜ、海洋投棄されたプラスチックごみが問題になっているのか。
それは諸外国、特に経済発展の進んでいない国々における、海や河川へのプラスチックごみの廃棄が大きな要因とされています。従って、日本ではプラスチックごみをどれだけ減らしたとしても、自然界に与える影響はほとんど変わらないと言えます。
おなじように、プラスチックごみは他のごみと同様に自然界に排出しないよう処理されているため、廃棄物を減らすという観点で議論することはできません。
資源の制約に関しては、石油の生産量が他の産業にも大きく依存しているため、プラスチック産業だけでは資源の節約になりえないと考えられます。
さらに地球温暖化に関しては、プラスチックを他の代替素材に転換した際、二酸化炭素排出量が大きく増加することも報告されています。
以上の正しい事実を知ると、今回のレジ袋の有料化は検討違いな感覚を抱いてしまいます。どうして矛盾している政策を日本政府は進めていこうとしているのでしょうか。
このように私は不思議に感じていたところ、京都府の亀岡市で「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」が成立したことを知りました。この条例を調べてみると、今回のレジ袋有料化の意義について見直すことになりました。
図2:かめおかプラスチックごみゼロ宣言のイメージ。レジ袋提供停止の前にもこのような宣言が行政より出されている。
かめおかプラスチックごみゼロ宣言について
亀岡市には、保津川下りで有名な保津川があります。この保津川では以前から漂着するプラスチックごみが景観を損なうとして問題になっていました。保津川下りの船頭さんたちも保津川の清掃活動に取り組んでいましたが、なくなることのない漂着ごみに頭を悩ませていました。
しかし組織的な清掃活動を続けていった結果、賛同する人々やNPO団体の協力もあって活動は大きく広がりました。最終的には行政も巻き込んで、今や環境先進都市への道のりを歩んでいます。
そのさらなる一歩が、今回の「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」でした。振り返ってみれば、最初の活動のもとになったのが、身近な河川の環境被害でした。
私たちの住む町も同じように、山や河川、海といった自然と一体になっています。そしてそこにも残念ながら、ペットボトルやレジ袋といったプラスチックごみがいくつも見つけられると思います。
まさに今回のレジ袋有料化について、私たちが持つべき視点はここではないでしょうか。つまり、海洋汚染を防ぐといった地球規模での考えでは、もっとも影響を与えている国や地域での改善に目を向けてしまいます。しかし、もっと身近なに、自分たちの住んでいる町を自然に良いところにしようという考え方の方が、正しい論理だと思います。
結論づけると、今回のレジ袋有料化は、すべての国民に環境問題について考えてもらうきっかけを作るためだったと言えます。自分が住んでいる町やとりまく自然を大切にするために、できるだけプラスチック製品を使わない、そんな生活をみんなで考えていこうという意味では大きな成果を秘めているのではないかと思います。
図3:「淡海を守る釣り人の会」の方々のびわ湖の清掃活動。
さて、プラスチックごみに関連してもう一つ話しておきたいトピックがあります。それは新型コロナウイルスと環境問題というリスクの対立構造です。
お話しする前に、一つのニュースを引用します。
これは3月時点の記事ですが、対応はあまり変化していないので、内容は変わりありません。
スターバックスコーヒージャパンは2日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた一時的な措置として、商品の提供を原則、使い捨て容器に切り替えると発表した。2月末から店頭やウェブ上で案内を始めており、順次、国内約1500の全店舗で切り替える。マグカップなどの食器を洗う工程を減らし、感染リスクを軽減する。利用者が持ち込むタンブラーなどに飲料を入れて提供するサービスも当面休止する。
店内飲食の場合も、フォークやナイフなどの食器は使い捨てのプラスチック製で提供する。マグカップの使用も取りやめ、紙やプラスチック製のカップに変更する。一部、紙皿などでの提供が難しいケーキなどは、陶器の皿に薄紙を敷くなどして対応する。
これまで直接手渡していた商品も、受け取りカウンターに置いたものを利用者が受け取る方式に変更する。また、トッピング用に店頭に置いていた蜂蜜や砂糖などの容器も店頭から一時的に下げる。
一言で説明すると、使い捨て容器(プラスチック製品)の使用再開です。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、今まで使用されてきたマグカップや金属製の食器類もすべて、プラスチック製の使い捨て容器に再び取り換えられる事態が起きています。
もともとスターバックスコーヒーでは、環境問題およびSDGsへの取り組みとして、プラスチック製品からの脱却に力を入れていました。
しかし、この新型コロナウイルスの感染拡大によって、スターバックスコーヒーを含む多くの企業が、環境問題とのジレンマに頭を悩ませています。
しかし悪い話だけではありません。
2020年の1月から、スターバックスコーヒーではストローの素材をプラスチックから紙に段階的に入れ替えています。これは感染拡大という観点において、どちらを使用したとしても問題は変わりません。企業側には大きなコストがかかりますが、このように環境問題と感染拡大という両方のリスクを鑑みて少しずつ前に進めていることは素晴らしいことだと思います。
図4:スターバックスコーヒーの紙ストロー。
プレスリリース(2019/11/26)
今後も、新型コロナウイルスの感染拡大への懸念からプラスチック製品の使用が再開される可能性があります。
レジ袋の話に戻すと、欧米では日本に先立ってレジ袋を有料化する取り組みが始まりましたが、同じ袋を使い回すと新型コロナウイルスの感染リスクが高まるなどとして、無料で提供する動きが再び広がっています。
アメリカ西部のカリフォルニア州は、2016年、全米で最も早く小売店などでのプラスチック製レジ袋の提供を禁止し、再利用可能な袋や紙袋を10セント、日本円で10円余りで販売する法律を導入しました。
しかし、州内での感染の拡大を受け、客が再利用できる袋を持ち込むと店員が感染するおそれが高まるなどとして、ことし4月、一転してレジ袋などを無料としました。
日本ではレジ袋の有料化が今すぐ取りやめになることはなさそうですが、
スーパーやコンビニの利用者は店員の抱えるリスクを減らすためにも、最低限の工夫が求められるべきだと思います。