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夢喰いガーデン

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村谷由香里の掌編小説を置いています。すべて独立した物語なのでお好きなものからお楽しみください。
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#猫叉Master

【掌編小説】not eternity

【掌編小説】not eternity

 廃線を歩いていた。
 わたしの少し前には、女の子が歩いている。わたしより随分年下のようにも、年上のようにも見えたけれど、そもそも自分がいくつで、一体何という名前なのかも思い出せないことにすぐに気付いた。そういえば、何にもわからない。ここがどこで、自分が誰で、彼女が誰で、わたしたちはどこから来て、どこへ行くのか。
 廃線はまっすぐに続いている。空を見上げると青く、微かに波打っているように見えた。

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【掌編小説】サヨナラ・ヘヴン

【掌編小説】サヨナラ・ヘヴン

 青い空と湖に囲まれたその遺跡には、古い石造りの墳墓が並んでいました。はるか昔、この帝国を治めていた貴族たちの墓です。かつては美しく秩序だって並んでいた墳墓はいずれも、攻め入った異国人たちの手によって壊され、風化されるままに朽ちています。それは遠い過去に滅んだ、帝国のお墓そのもののように見えました。
 滅亡した帝国の墓標と、青い空と、波一つ立たない湖。
 人によっては寂しさや悲しさを感じるのでしょ

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【掌編小説】Scars of FAUNA

【掌編小説】Scars of FAUNA

 母のことを、僕はほとんど覚えていない。

 僕が物心つく前に母は既に故人になっていて、だから仏壇に飾られている十数年前の母の写真にまるで見覚えはないのだ。今日は母の十三回忌で、僕はじっと正座をしたままお経を聞いている。法事も十三回目となると悲痛な雰囲気や寂寞感は薄れ、その分故人は一層遠くなってしまったような雰囲気があった。

 法要が終わってからも気忙しくしている父と祖母を置いて僕はひとり外へ出

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