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【短編小説】残業

810文字/目安1分


 働いた働いた。
 今日も一日働いた。

 月曜日から金曜日まで、使われるように、むしろ使われにいくように働いた。
 自分の会社は別段ブラックというわけではない。残業せずに帰る人もいるし、自分より遅く残る人もいる。

 仕事は忙しい。どんどん増えて、溜まっていく。一つ終われば二つ降ってくる。

 世の中は動く。会社も動く。それに合わせて仕事が生まれていくのは当たり前。文句をつけるつもりはない。

 うまいことできないか。
 もしくは会社がうまいことならないか。

 変わる気配はなく。
 変える気力もなく。

 今日は早く帰る。今日こそは早く帰る。
 そんな決意も結局、意気込みだけで夕日に沈んでいく。

 朝は満員電車。夜も混む電車。
 みんな自分と似たような感じなのかと想像しながら、揺れる電車をどうにかつり革で耐える毎日。

 でもね。
 今日は残業せずに会社を出てやった。残した仕事を考えるとじんましんが出そうだ。
 あぁ、どうしよう。今から戻ろうかな。
 なんて思わない。

 今日は帰るんだ。

 駅までの道は、人で賑わっていた。飲む場所を探す人。ただ家に帰る人。立ち飲み屋は人が外まで溢れている。いつもよりも集団が多い。
 みんなちゃんと定時で帰っているんだな。
 いいなぁ。
 でも今日は自分もその仲間入り。なんとなく心が躍る。でも次に出勤した時に地獄を見るかと思うと目がまわる。まぁ、それはその時の自分が頑張るだろう。

 駅に着いてもやっぱり人が多い。ホームも人でごちゃっとしている。少しばかり肩身が狭い。
 しばらく待つと、電車が流れてくる。外から見ても人の多さが分かる。
 ドアが開けば人がなだれる。寄せては返す波のように、もまれる石ころのように、電車の中に引きずり込まれた。さながら朝の満員電車。会社を早く出るとこんな感じなのか。スーツ姿。若い集団。あぁ、これは。

 朝は耐えても夜は無理だ。
 息が詰まる。

 これなら帰るのが遅くなっても、残業していた方が楽だなぁ。



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