【短編小説】ドライブ―運転席―
796文字/目安1分
ドライブデートが苦手になってきた。
お前との距離をもっと近づけたくて、運転免許を取って、バック駐車も練習した。理由をつけて誘うところまではうまくやれるのに。俺だって最初はいい感じなんじゃないかと思っていたんだ。
それ以上の距離が縮まらない。
木々の緑と青空のコントラストが映える山道、水平線から夕陽の道ができる海沿い、おいしいと有名な年中行列になるハンバーグステーキ屋。大体のところは行ったと思う。突然の大雨で駐車場まで走るけど、車に乗るところで手間取って結局ずぶ濡れになって大笑いしたり。なんとなく二人とも喋らなくなって、流している音楽に聴き入ったり。そういう時、お前も同じことを考えているんじゃないかって思ってしまう。
温泉に行った時なんか、「貸切風呂もあるんだね」なんて言われてもどう捉えたらいいか分からんよ。
「楽しいねぇ」
「うん、楽しいねぇ」
「運転疲れてない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ」
人の気も知らないで、お前はそんなことを言ってくるんだ。
お互いの趣味が少しかぶっているところとか、笑うタイミングが一緒なところとか。食べ物の好き嫌いも、めんどくさいと思うものも同じ。そういうのが全部もしかしてと思わせる。
「ねぇ聞いてよ、この前バイト先の先輩がさ――」
そんな話は耳に入ってこないよ。自分以外の男の話なんてされても嬉しくない。気持ちにブレーキをかけるつもりはないのに、こんなこと聞かされるとどうしても踏みとどまってしまう。
お前の態度一つで簡単にテンションが変わる。アップダウンが激しくてもうついていけない。
やっぱり可能性がないのかもと考えるのは本当に情けない。
今日もお前と二人でドライブデート。車はお互いの距離を一定に保ったまま、お前と俺で平行線に進んでいく。まるで自分たちの関係を表しているよう。
「最近聴いたバンドのベースがかっこよくてさ――」
ほら、そんな話ばっかりする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?