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【短編小説】かたわら

551文字/目安1分


 もし、この体が透明だったら。人の視線を気にせずにいられるだろうか。それでも誰かに見られる気になるだろうか。

 町は変わらず混んでいる。人ごみは苦手だけど、家に一人でいるのもいたたまれなくて外に出た。植木一つにしても煌びやかに飾られたこの時期は、どうにも好きになれない。輝きを増すほど、わたしの影が濃く暗くなっていく。
 その闇の中をただ歩く。
 すれ違う人。家族。男女の二人組。一人でいる人。若い集団。わたしにはすべてが楽しそうに、幸せそうに映る。

 こんなことをしている場合じゃない。こんなところで、こんな幸せが照らす町でふらふらしている場合じゃない。
 言ってしまえば、少し前までわたしもこんな浮かれた町が似合うような立場にいた。
 彼は許してくれるだろうか。それともわたしが許すほうが正解か。もしかしたら、もうどちらかが悪いことでもないのかもしれない。

 たぶん、終わりなんだと思う。考えられる理由はいくつもあるけど、根本の原因はたぶんない。いろいろ積み重なって、溜まりに溜まって、こうなってしまった。おそらく彼はここに来ない。
 町は賑やかに、色とりどりに夜を染める。わたしはその喧騒すらすり抜けていく。
 あぁ、今だから、こんな気分だからこそ言えることもあったのに。今ごろ彼は。

 これが、わたしの冬なんだな。



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