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【短編小説】モーニングルーティン

1,824文字/目安3分


 朝、目が覚めたらまずコーヒーを入れ、タバコに火をつける。
 コーヒーは何もこだわりはなく、ペットボトルのものだ。タバコはラークのマイルド。
 何をするでもなく、会社に行く前、家を出るまでの時間をただただコーヒーを啜ってタバコを吸う。とにかくボーッとする。
 これをやらないと起きた感じがしない。この少しの時間で頭がスッキリと冴えてくる。
 これを毎朝。いわゆる日課である。

 その日の夜、ふと考えた。自分の朝の日課は本当に日課なのか。確かにやらないと気が済まないが、実は違うことでもいいんじゃないか。
 コーヒーは好きかと言えば普通。ヘビースモーカーのつもりはない。
 そうだ。試しに違う過ごし方でもしてみるか。

 というわけで次の朝はトーストにココア。食パンを買ったのは久しぶりだし、ココアなんか最後に飲んだのがいつかもう分からない。
 同じくただただボーッといただく。
 するとどうだろう。これがなかなかいい気分だ。タバコが吸いたくなるかと思いきやそうでもない。これはこれで起きた心地がちょうどいい。頭も冴えてきた。
 これを機にいろいろなことを試してみるか。タバコの出費も気になっていた。新しい趣味なんかも見つかるかもしれない。

 次の日は白湯を飲みながら読書。味もないしただのお湯だとタカを括っていたが、体が温まっていい。読書も食わず嫌いだった。読んでみると意外と捗るものだ。

 次の日は部屋の片づけや掃除。しばらくやっていなかったこともあって、いつの間にか夢中になってしまった。普段は気が進まないが、朝ならすんなりとやれてしまう。

 次の日はアロマを焚いて瞑想。どうにも胡散臭くて、一番遠ざけていたものだ。やってみるとそれはそれはリラックスできる。しかも今までで一番頭が冴える感じがする。

 次の日はベランダに出て朝日を浴びてみた。白湯もなかなかよかったが、日の光もかなり温まる。今まで以上に目が覚めて、気分がとてもよくなった。

 次の日は花の水やり。ベランダがなんとも殺風景だったから、花を植えてみた。朝日を浴びながら花に水をやっていると、自分が親切になったような気がしてくる。人として一段階レベルアップをしたような気分だ。

 次の日はタクシーを手配しての出勤。こんなことをするのは金持ちの経営者くらいのものだろう。仕事は相変わらず忙しく、立場も何も変わらない。出費も少し痛いが、どこか心に余裕を持てているような気になれた。
 そういえばこの間買った食パンの消費期限が切れて、カビが生え始めていた。まぁあの日以来一枚も食べていないし、保存もちゃんとしていなかったから当然だ。仕方ない。
 それよりも毎朝違うことをするのは最高に気分がいい。毎日起きるのが楽しみになったし、毎日違った自分になれる。
 いろいろ試して一週間が経ったが、まだまだやれることがありそうだ。

 次の日は風呂を沸かして浸かってみた。
 その次の日は早朝のランニング。
 また次の日はカフェでモーニング。
 さらに次の日はジムでトレーニング。

 見ないうちにベランダの花が萎れてしまっていた。

 次の日は家庭菜園。
 次の日は公園散歩。
 次の日は双剣乱舞。

 朝の時間を充実させるために、夜はタバコを吸いながら物思いにふけるのだ。これが適当になってはいけない。朝何をするかでその日の行動、その日の気分、その日の出来栄えがきっと変わるだろう。積み重なればこれからの自分の人生に大きな影響を与える。だから多少の出費は自分への投資だ。
 さて、明日からは何をやろう。ちょうどタバコが切れてしまった。コンビニまで買いに行くついでに考えるとしよう。

 次の日は早朝セミナー。
 次の日はボルダリング。
 次の日は電車で遠回りして出社。
 次の日は手紙をしたため、次の日は日記にその日の目標を掲げる。
 次の日にキャビアを嗜んだら、その次の日はプチ断食。 

 次の日は占い、次の日は祈り、次の日は宝くじ、次の日は薪割り、次の日からは数独、補数計算、百マス計算。
 朝練、朝風呂、朝ラーメン、朝顔、朝飯、朝市、朝露、浅漬け、朝帰り、朝寝坊、朝勃ち、朝青龍。あさりはまぐりたまねぎボルシチ、きのこ長ねぎかつおぶし。
 ねこたこしゃこいもバスガスベガス、ヤモリイモリタモリ子守りタニシ巻きびし。
 今日の朝はベランダで日の出を拝みながらコーヒーに花を添えてタバコを飲み読書を掃除、タクシーを焚いたらセミナーで瞑想グッドモーニング浅漬け。

 さて、明日は何をしよう。

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