yuichi hayakawa

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最近の記事

ナイアガラ滝の昔と今(3)

後退する滝 いちど滝が形成されると、その場であらわになった岩盤は、急流をなす水や土砂により、徐々に削られていきます。こうした岩盤の侵食が続くと、滝の位置はどんどん上流へと移動していきます。これを「滝の後退」といいます。  ナイアガラ滝の場合は、1万年前の形成から今に至るまで、全体で約11 kmも後退しました。平均すると年間で約1 mという速さです。ただし、毎年ずっと1 mずつ、というわけではありませんでした。たとえば、約1万年前からはじめの5000年間は、ナイアガラ川も今と

    • 身近な地域の地形学習(横浜・田谷の里山)

      里山とは国際的な港湾都市として知られる大都市、横浜。その活気ある街並みに彩られた近代的な都市景観は、伝統と革新が融合した文化や芸術の中心として知られている。しかし、少し中心から離れると、そこには里山とよばれる、近代的な街中とはまったく異なる、のどかな景観が広がっている。 都市と農村の中間的な位置づけとなる都市近郊農村は、住宅地などが開発され、都市的な生活文化をもちながらも、小さな農地や人の手が入る森林が里山としていたるところに残り、人と自然が共生する場となっている。 一方

      • ナイアガラ滝の昔と今(2)

        ナイアガラ滝のはじまり ナイアガラ滝はいつ、どこでできたのでしょうか?  ナイアガラ滝は、氷期が終わろうとしていた、およそ12,500年前にはじめて姿をあらわしたと考えられています。その頃、この地域を広く覆っていた氷の平原、ローレンタイド氷床が消えていくなかで、氷の下で削られた地面の窪地に、巨大な淡水湖がいくつもつくられていきました。今は五大湖と呼ばれています。それらのうち、南のエリー湖から北のオンタリオ湖へ向かって流れ出るナイアガラ川は、その途中で崖(ナイアガラ・エスカー

        • ナイアガラ滝の昔と今(1)

          変わりゆくナイアガラ滝 ニューヨークというと、自由の女神で有名なマンハッタンをイメージすることが多いでしょうか。しかし、ニューヨーク州というと実は広く、海辺から500 km以上も内陸にまで広がっています。その西の端、エリー湖に面する地方都市バッファローから流れるナイアガラ川は、北のオンタリオ湖に向かい、アメリカとカナダの国境ともなっています。  バッファローから北に、ナイアガラ川沿いの道を進むと、やがて遠くに白い煙のようなものが立ち上っているのが見えてきます。火事?いえいえ

        ナイアガラ滝の昔と今(3)

          スイスアルプスの消えゆく氷河(4)

          氷河を俯瞰する いったん氷河から離れ、今度はロープウェイに乗って、山の上に向かいます。高い場所から、氷河の全体像を見下ろしましょう。  遠くの山から、まるで舌のように、べろんと氷が流れ出ているのが見てとれます。よく見ると、上の方は真っ白な氷ですが、中程から黒い筋が見えてきて、末端の方ではかなり灰色になっているのがわかります。これが実は、さきほど氷河の上を歩いて感じた、氷と砂礫の違いなのです。つまり、上流の雪が氷になっていく部分では、氷の中にある砂礫は少なく、ほとんど見えませ

          スイスアルプスの消えゆく氷河(4)

          スイスアルプスの消えゆく氷河(3)

          氷河の上を歩く やっと、氷河に到着しました。氷河の上を歩いてみると、白い場所はつるつるで滑りやすく、気を張るのですが、一方、黒っぽい場所は、細かい石や砂が顔を出しており、それがグリップとなって歩きやすいことがわかります。こうした砂や礫が氷の表面に出ているのはなぜでしょうか?実はこれ、氷が融けているということの証なのです。もともと、砂礫は氷と一緒に運ばれてきています。氷の量が多いと、砂礫は氷の中に隠れているのですが、氷が融けることによって、中にあった砂礫がだんだん表に出てくるの

          スイスアルプスの消えゆく氷河(3)

          スイスアルプスの消えゆく氷河(2)

          コルバッチ氷河の後退  マッターホルンから東へ向かい、スイス南東部、エンガディン地方に移ります。  スイスでの移動には、鉄道がとても便利です。とくに、高度な土木技術で100年以上もの古くから発達した鉄道網は、アルプスの自然景観と調和した沿線風景を示し、なかでもレーティッシュ鉄道のアルブラ線とベルニナ線は世界遺産にも登録されています。急峻な山奥でも、斜面を巻いて走り、ときに山を貫く鉄道は、スイス観光の大きな魅力のひとつです。時に自動車ですら、鉄道に車ごと乗っかり、トンネルを抜

          スイスアルプスの消えゆく氷河(2)

          『動く』こと山の如し?〜湿潤地域の大規模崩壊・七面山崩れ〜

          南アルプスという地質がもろい大きな山脈では、まれに起こる大規模な山崩れが、山の解体や土砂の供給に大きく関与していると言われています。最近の研究では、大規模な崩壊が一度に発生するだけでなく、何百年にもわたって、むき出しの地面から持続的に土砂が生み出され、流域全体の長期的な土砂供給に大きく寄与していることがわかってきました。 南アルプスの富士川水系早川流域にある巨大な崩壊地「七面山崩れ」は、面積が3.5ヘクタールもあり、現在でも毎年激しく崩れ続けています。具体的な発生時期ははっ

          『動く』こと山の如し?〜湿潤地域の大規模崩壊・七面山崩れ〜

          スイスアルプスの消えゆく氷河(1)

          マッターホルンを削り出した氷の力 急峻な斜面が四方を囲み、青空に突き刺さるようにそびえ立つ、マッターホルン。スイスアルプスの象徴とも言えるこの山の名前にある「マット」は「牧草地」、「ホルン」は「峰」を意味する言葉で、マッターホルンは「牧草地のなかにそびえる山」、といった意味合いになります。また、マッターホルンの麓の町、ツェルマットの「ツェル」は「〜へ」、つまりは「マッターホルンへ」といった意味合いの地名です。このように、この地域の山々はそのまわりの景色から付けられた地名が多く

          スイスアルプスの消えゆく氷河(1)