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スイスアルプスの消えゆく氷河(4)

氷河を俯瞰する

 いったん氷河から離れ、今度はロープウェイに乗って、山の上に向かいます。高い場所から、氷河の全体像を見下ろしましょう。

 遠くの山から、まるで舌のように、べろんと氷が流れ出ているのが見てとれます。よく見ると、上の方は真っ白な氷ですが、中程から黒い筋が見えてきて、末端の方ではかなり灰色になっているのがわかります。これが実は、さきほど氷河の上を歩いて感じた、氷と砂礫の違いなのです。つまり、上流の雪が氷になっていく部分では、氷の中にある砂礫は少なく、ほとんど見えませんが、だんだんと下に流れ下るにしたがって、周りの地面から砂礫を取り込み、かつ氷もとけ出して砂礫が表に出てきます。この、黒い筋がはじまる場所を平衡線と呼び、それより上流では雪から氷が涵養されるのに対し、下流では氷が消耗して土砂が卓越してきます。

 近年の急速な温暖化で、こうした氷河は年々後退し、また厚さも薄くなってきています。氷がとけると、それに支えられていた周りの斜面が不安定になり、落石や崖崩れが頻発します。すると、それまで簡単に通れていた道が塞がったり、危険になったりして、ハイキングができたトレイルも閉鎖せざるを得なくなってしまいます。また、氷河を含んだ地表環境のジオ多様性だけでなく、氷のある環境に適応していた虫や魚、鳥などの生態系も崩れ、生物多様性も脅かされます。目の前で消えゆく氷河を、われわれはただ眺めるしかできないのでしょうか。変わりゆく景色の近未来を想像しつつ、いま、われわれに何ができるのか、あらためて考えることが必要なのかもしれません。

スイスアルプスの消えゆく氷河(3)

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