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『動く』こと山の如し?〜湿潤地域の大規模崩壊・七面山崩れ〜

南アルプスという地質がもろい大きな山脈では、まれに起こる大規模な山崩れが、山の解体や土砂の供給に大きく関与していると言われています。最近の研究では、大規模な崩壊が一度に発生するだけでなく、何百年にもわたって、むき出しの地面から持続的に土砂が生み出され、流域全体の長期的な土砂供給に大きく寄与していることがわかってきました。

南アルプスの富士川水系早川流域にある巨大な崩壊地「七面山崩れ」は、面積が3.5ヘクタールもあり、現在でも毎年激しく崩れ続けています。具体的な発生時期ははっきりしていませんが、日蓮宗久遠寺の古文書などによると、少なくとも1600年代には既に存在していたようです。急な傾斜の裸地でほとんど植生が回復せず、豪雨時の土石流や表面流、雪解け期の凍結融解作用が起こることで、毎年、下流の春木川へ大量の土砂が流れ込んでいます。

七面山崩れの近くには、およそ700年前に日蓮上人によって設立された七面山敬慎院があります。ここでは毎年多くの信者や登山客が訪れています。山の上にぽつんと建つこの寺院、実は、崩れの横に連なる山稜の線状凹地に立地しています。険しい山でありながら、山稜に平坦な土地やくぼ地が形成されるのも、山体が徐々に崩れゆく過程でよくみられる、重力変形の結果です。

「動かざること山の如し」と仰がれた南アルプスは、実は、日本で最も急速に隆起している地域の一つであり、1000年の間に山全体が4メートル以上も盛り上がっています。同時に、日本で最も急速に侵食されている地域の一つでもあります。つまり、長いスパンで見ると、山はゆっくりと持ち上げられるとともに、あちこちが崩れ、削られており、常に変化し続けているのです。見た目ではたしかに、変化は感じられないかもしれませんが、七面山崩れはその山の「動き」を、まさに目に見える形で表しているのです。

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