見出し画像

スイスアルプスの消えゆく氷河(1)

マッターホルンを削り出した氷の力

 急峻な斜面が四方を囲み、青空に突き刺さるようにそびえ立つ、マッターホルン。スイスアルプスの象徴とも言えるこの山の名前にある「マット」は「牧草地」、「ホルン」は「峰」を意味する言葉で、マッターホルンは「牧草地のなかにそびえる山」、といった意味合いになります。また、マッターホルンの麓の町、ツェルマットの「ツェル」は「〜へ」、つまりは「マッターホルンへ」といった意味合いの地名です。このように、この地域の山々はそのまわりの景色から付けられた地名が多くあります。

 今でこそ牧草地の広がる緑豊かな景観がみられますが、かつて、数万年前の氷期には、この谷を埋め尽くすほどの氷河が広がり、白銀の世界であったと想像されます。スイスアルプスのギザギザで険しい山並みは、この氷のちからで削り出されたものなのです。

 ところで、「氷河」とはなんでしょうか?

 よく、海を漂う氷、つまり氷山や流氷と同じようなものとイメージされてしまうこともありますが、それは違います。氷河とは、その字があらわすように、「氷」の「河(かわ)」、つまり陸上で「流動する」氷のことを言います。万年雪といった、降り積もった雪が年中溶けないものは高い山のそこかしこにあっても、それはその場にとどまるもので基本的には動きません。しかし、そうした氷が長い年月をかけて積み重なり、圧縮され、重さをもつと、やがて重力にしたがってじわじわと流れ出るのです。

 こうして集まり、ゆっくりと流れ出した氷は、岩をも削るものすごい力をもちます。なぜなら、流れ下るのは氷だけではないからです。つまり、周りの岩盤からはがれ落ちた岩屑が巻き込まれることで、強力なヤスリとなって、その下の岩盤を削り込みます。

 マッターホルンは、こうした氷河のちからでその原型が削り出されました。さらに、削られて不安定になった斜面が崩れ(重力変形)、またもともと硬い岩盤がむき出しになることで、自立した急斜面が保持されたため、急峻な尖ったかたちの山となりました。 

消えゆく氷河

 しかし、かつてこの山々を削り出した氷河は、今、消滅の危機にあります。もともと氷河は、自然の変化で伸びたり縮んだりするものです。ところが、近年の地球規模での急速な気候温暖化にともなって、スイスアルプスの氷河も急速に減少しつつある現実があります。一説によると、スイスアルプスの氷河は、2100年までには全体の80%がなくなってしまう、という試算があります。

→ スイスアルプスの消えゆく氷河(2)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?