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急いては事を…

▼以前,ある生徒さんから「skimming(スキミング)のやり方について教えてください」という質問を受けました。あ,ここでいう "skimming" とは速読法の一つのことであって,決してクレジットカードの情報を抜き取ることではありませんので,念のため…(;´・ω・)

▼ちなみに skim とは「上澄みをすくう」という意味で,そこから,英文の論旨を素早く読み取る方法のこととされています。

▼たとえば,LR Smith, "Speed Reading: The Ultimate Step by Step Guide to Speed Reading - Increase Your Reading Speed Dramatically in Less Than 24 Hours! (Speed Reading For Dummies, ... Techniques, Rapid Reading) (English Edition), 2016という本には,次のような定義が書かれています(※なお,この本を参考にしたのは,学問的に正しいとか優れた評価を受けているということではなく,単にKindle読み放題ですぐ利用できたためです。念の為)。

Skimming is taking the main idea from the page without reading much of the detail. Skimming is most appropriate for non-fiction material. The reader seeks the keywords that define the major points of the page. This is a great technique if your time is limited and you will not be asked detailed questions about the material.
(スキミングとは,詳細をあまり読まずにページから主旨を汲み取ることです。スキミングに最も適しているのは,ノンフィクションの素材です。読者はそのページの主要なポイントを定義するキーワードを探します。時間が限られていて素材について詳しい質問をされることがない場合に,このテクニックが有効です。)

▼そして,スキミングの具体的な手順について,以下のように述べられています。

Steps to skimming a book or an article:
1. Read the title and subtitle.
2. Read the introduction and the author’s Foreword or notes.
3. Read the entire first paragraph, make sure you can summarize the main idea in ten words or less to test your understanding.
4. If there are multiple headings or bullet points, summarize each one in three words, look for the connection of ideas and their relativity to one another.
5. Read the topic sentence of each paragraph. If the paragraph starts with a question, read the last sentence instead as it will usually be the conclusion of the introductory question.
6. Read the final paragraph and the summary completely.
7. Look at the text for the following:
I. Who
II. What
III. When
IV. Where
V. Why
VI. Proper nouns
VII. Any Capitalized terms, any terms in bold or italics, asterisks
VIII. Any emphatic words like best, worst, right and wrong

本や記事をスキミングする手順
1. タイトルとサブタイトルを読む。
2. 序文,著者のまえがき,注釈を読む。
3. 第1段落をすべて読み,10語以内で主旨を要約できるかどうかを確認し,理解度を確かめる。
4. 複数の見出しや箇条書きがある場合は,それぞれを3語で要約し,アイデアのつながりやアイディア同士の関連性を確認する。
5. 各段落のトピックセンテンスを読む。パラグラフが質問で始まっている場合は,代わりに最後のセンテンスを読む。というのもそれは通常,最初の質問の結論になるためだ。
6. 最終段落と要約を完全に読む。
7. 以下の点についてテキストを見る。
I. 誰が
II. 何を
III. いつ
IV. どこで
V. なぜ
VI. 固有名詞
VII. 大文字の用語全て,太字やイタリック体の用語全て,アスタリスクなど
VIII. best,worst,right,wrongなどの強調語

▼たしかに,部分的には大学入試においても役に立ちそうなことが書かれてはいますが,はたしてこのやり方が大学入試の問題全般に有効かと言えば,それについては疑問に思わざるを得ません。その主な理由は以下の通りです。

①スキミングは,あくまでもその言語にかなり習熟している人が対象であり,外国語学習者,とりわけ大学受験生にとっては,スキミング以前にわからないこと(単語,熟語,文法,構文,背景知識など)が多すぎる。スキミングをするためには,そもそもスキミングをしなくても普通にその英文が読めるレベルであることが大前提である。そうでなければ単に知っている単語や表現を「つまみぐい」して自分の都合のいいように解釈をでっち上げてしまうおそれがある。
②スキミングは書籍や1本の記事など長い文章であればあるほど威力を発揮するかもしれないが,受験英語のような短い文章では意味がなく,むしろ普通に頭から読んで一読だけで理解した方が早い。入試問題で出題される英文はどれほど長くともせいぜい1,800語~2,000語程度なので,スキミングをするまでもない,とも言える。
③入試問題の英文は途中に設問がつけられていることが多いため,仮にスキミングで「大意」が把握できたからといって,設問に正解することはできるとは限らない。また,「トピックセンテンスを読む」とされているが,そもそもどれがトピックセンテンスなのかがわからなければ意味がないし,問題によってはトピックセンテンスとされるものが空所になっていることもある(トピックセンテンスが存在しない段落も当然ある)。
④入試問題には大意を把握するだけでなく細部を読み解く力が問われる問題も多く,さらに,制限時間内に読み解かねばならないため,たとえば「一度目は skimming で大意を掴んでから,二度目は細部に目を向けながら」という悠長なことをしている時間はない(もちろん,それで間に合うようであればそうしても構わないとは思いますが)。

▼前にこちらに書いたように,速く読もうとするにはまずそれ以前に正確に読む力をつける必要がありますし,それが速く読むことを阻害する要因を克服することに繋がるのです。

▼なお,私は skimming そのものの有効性を否定するつもりはありません。ここで述べているのはあくまでも「一般的な大学入試問題で役立つかどうか」という観点からの話です。skimming を,英文を読むための道具の一つだと位置づけた場合,その道具を用いる適切な場面や題材を選ぶ必要がある,ということです。

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