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落合陽一 写真展 「 晴れときどきライカ ─ 質量への憧憬、ラーメンは風のように 」に行ってみた件

2023年9月2日(土)、京都のライカギャラリーで落合陽一さんによる写真展がはじまりました。このイベントに先立って、前日にはレセプションが行われ、ライカ側のご厚意で参加する機会をいただきました。本当にありがとうございました。

当日は15時より、落合さんによるギャラリートークが展開。このトークイベントでは、落合さん独自のカメラへの愛情が熱く語られました。続いて、17時30分からはレセプションと、最新作の書籍「晴れときどきライカ」のサイン会が開催されました。

この写真展は、ライカギャラリー東京でも「晴れときどきライカ ─ 逆逆たかり行動とダダイズム」が同時開催され、「晴れときどきライカ」というタイトルで落合さんが描き出す情景や思想、哲学を表現しています。

今回は、落合さんが実施したギャラリーツアーの一部を抜粋し、写真展についてご紹介します。なお、ギャラリーツアーの動画は時間の制限で一部のみ公開してますが、フルバージョンの動画は落合陽一さんが主宰する「落合陽一塾」で公開しています。

本には本独自の魅力があり、写真展にも写真展ならではの魅力が存在します。写真展は10月29日(日)まで。この記事が実際に会場に足を運ぶきっかけとなれば幸いです。

祇園の伝統的な築100年町屋を匠の技でリノベーション
ライカの世界観と融合させたフラッグシップ店

ステートメント

日常と非日常、物質と非物質が交錯する場で、そこに喜びと共有の可能性を見出しています

東京では14作品、京都では15作品を展示しています。「晴れときどきライカ」という本は、晴耕雨読の晴れた日に田畑を耕すのではなく、ライカを片手に街に出ようというのが一個の大きなテーマなんですけど、そういった事をしながら日常で撮ってきた写真たちをあわせてみる展覧会になっています。
特に、12作品は1年を12ヶ月に分けて、また十二支に合わせた構成になっています。この展示の一つの大きなポイントは、高解像度のライカSで撮影した写真と、古いレンズで撮った写真が並べられていること。各作品を見ると、「これは何だろう?」と思わせるようなところが沢山あります。
背景には「デジタルネイチャー」という僕の哲学があります。古い計算器やIBMのタイプライターなど、過去と現代のテクノロジーがどうこの世界を形作っているのか、その点に注目していただくと展示がさらに面白く感じられるでしょう。

落合陽一
8月28日(月)発売となった最新作の書籍『晴れときどきライカ』

ギャラリーツアー

作品

1階に1作品、2階に14作品展示されています
各作品にはQRコードが添付されており、AI生成作品も鑑賞できます

0. 晴れときどきライカ・風景を切り取るレンズと

Leica: Living with Capturing Scenery

このライカは2020年にプラチナプリントで作成した作品があります。当初はこの作品を本の表紙にする予定でしたが、撮影中に偶然、猫のトラ彦が現れ信楽焼の狸のように可愛かったため、結局この作品は裏表紙になりました。
古参のライカファンにとっては、この作品は非常に味わい深い写真で、「なんでこんなにししゃげているの?」「このレンズ、初代のノクチルックスなの?」「こんなにレンズをぶつけて使っても大丈夫なの?」。
しかし、カメラの目的は撮影であり、その行為自体に価値があるという考えがあります。

落合陽一
ちなみに、2020年「未知への追憶」で展示されたプラチナプリントで作られた作品
「ライカ・風景を滲ませるレンズと」

1. 質量への憧憬:鉄骨(酉)

Sehnsucht nach Masse: Iron Bones (Bird)

千葉の三浦半島から工業地帯が眺められる場所。
看板が剥がれた錆びた鉄骨が鳥居に見えた一枚。

落合陽一

2. 毘盧遮那仏 Ⅰ

Vairocana |

真言と華厳は最近の裏テーマです。デジタルネイチャーに取り組み始めてから7、8年、華厳についてずっと言及しています。
この作品は、華厳を美しくプリントした作品です。

落合陽一

3. プラ庵 Ⅰ

Pla-an I

ガンダムのランナーで作成した茶室です。
水差しはデロンギ製で、これを裏千家の方に伝えたところ、大変面白がっていただきました。
時折、掛け軸はLEDで『明鏡止水』と表示され、撮影は難しいです。

機動武道伝Gガンダムにはシャイニングガンダムとゴッドガンダムが登場します。
Gガンダムの主人公には「明鏡止水モード」という特別な形態があり、その掛け軸を見ると非常に興奮します。この展示は、お茶の文化と『明鏡止水』の意味を理解している限定された人々にとって特に魅力的なコンテクストが含まれています。

落合陽一

4. 茶籠 Ⅰ

Tea Box I

作品には"茶籠"というタイトルが付けられていますが、実際にはその姿はどう見ても棗(ナツメ)に見えます。横には茶巾入れも映っているので、コンテクストからは確かに茶籠であることが理解できます。しかし、ポイントはこの棗が異常に小さいのではないかということです。
私は雑誌『淡交』で連載を持っており、毎回記事に挿画を掲載しています。この作品もその一つです。

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5. 球体式タイプフェース

Spherical Typeface

よく観察すると、IBMという文字が見えます。これは実は昔のIBMのタイプライターで使用されていたタイプフェースです。
以前、IBMの古い計算機を撮影する仕事を担当したことがあり、その際に多くの写真を撮りました。この作品はその中の一枚です。

落合陽一

6. 質量を憧憬するトラ彦

Premier Champion Angelhouse Torahiko, longing for a mass

この作品に登場するのはトラちゃん(別名、トラ彦)です。作品のテーマが十二支に沿って、子、丑、寅と進むと、トラちゃんに辿り着きます。
この作品では、レンズの特性が変わっていて、ぼかし効果が美しいです。一方で、東京の作品には、ぼかしていないライカSで偶然捉えたトラちゃんが映っています。

名前には「Premier Champion Angelhouse Torahiko」と書かれており、トラちゃんがチャンピオンであること、そして去勢済みであることを「Premier」という敬称で表しています。
ちなみに、トラ彦という名前は寺田寅彦からとられています。

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7. 計算機自然の計算器

Physical Computer in Digital Nature

東京の展示作品には加工前の写真が掲示されていますが、こちらは加工後のバージョンです。
"計算器"とは、かつてお金や銀貨を数えるために用いられた道具のことです。興味深いことに、この計算器は電子ペーパーを用いており、時折、解釈の難しい言葉が表示されます。これが"計算機自然"というテーマに繋がっています。

落合陽一

8. 福と岩(龍)

Luck and Rock (Dragon)

箱根には"福"と多数書かれた、多くの龍が存在する岩があります。その"福"の文字が多く描かれていたので、その風景を撮影しました。確率分布の観点からも、"福"というテーマは非常に魅力的だと感じています。

落合陽一

9. 手長と銀波彫刻

Tenaga with Silver Waves Sculpture

手の長い“手長”彫刻についてですが、私は過去に“手長”、足が長い“足長”というテーマで彫刻を制作しており、この“手長”彫刻は私の銀製の彫刻作品を手に持っている姿です。この作品のQRコードを読み取ることで、動きのある面白い動画が鑑賞できます。
東京で展示している作品では、彫刻が両手で鮎をしっかりと握っている状態があり、そこからこの銀製の彫刻になる制作過程が見られます。一方、こちらでは完成した銀製の彫刻が展示されているというわけです。

落合陽一

10. ミミンゲイを憧憬する初ライブ

Live Performance for Mimingei

江戸時代初期の僧、円空によって作られた“円空仏”という作品群があります。私はその“円空仏”の大ファンで、3DスキャンとCNC加工を用いて、オリジナルの“円空仏”を製作しました。これを私は“落合円空”と呼んでいます。
特に興味深い点は、オリジナルの“円空仏”が大体、右側の像のような顔をしていることです。中央の烏天狗像も素晴らしい出来栄えです。左の像を私は“ドレッド”と名付けているのですが、正式にはこれは稲荷三尊像と呼ばれる、顔が欠けてしまった美しい円空仏です。
三体でバンドを組むと面白いだろうと考え、かつて飛騨高山の展覧会でこのような展示を行いました。前景に見えるのは、飛騨高山の重要文化財である日下部民藝館に展示されている雛人形の農民です。彼らが「ライブをやっている!」と思わせるように配置しています。
背景にはTechnicsのターンテーブルが、前景にはTeenage Engineeringのスピーカーが設置されています。

落合陽一

11. 計算機自然の秋

Autumn of Digital Nature

これは日本科学未来館で行われている“計算機と自然、計算機の自然”という秋の展示の一部です。展示のバックに見える高輝度LEDで作られた地球は未来館の名物で、そこが地球を背景に撮影するには最適な場所だと私は考えています。この展示は既に4年目を迎えています。
興味深いのは、通常の常設展では展示物を定期的に入れ替えないのですが、ここでは生花も展示されているため、2ヶ月ごとに展示の更新が必要です。それゆえ、展示内容が変わるので、写真を撮っており、これはその秋の展示の一瞬です。
詳しく見ると、展示にはモルフォ蝶の実物標本と、凸版印刷で作成された人工のモルフォ蝶が組み合わされています。人工のモルフォ蝶の製作は非常に手間がかかっており、その点も見逃せません。

落合陽一

12. オーケストラと質量 Ⅱ

Orchestra and Mass Ⅱ

毎年8月には日本フィルハーモニー交響楽団と共に音楽会を開催しています。こちらは2019年に東京芸術劇場で行った“交錯する音楽会”のリハーサルの一コマです。この時は小山清茂の『管弦楽のための木挽歌』を演奏しました。そのために、原曲となる民謡を図書館で探し、民謡が録音されたテープを集めました。その取り組みが新聞記事にも取り上げられました。 私が毎年オーケストラを開催する理由の一つは、人間が生み出す独自の音楽性、いわゆる“弾く意地”を大切にしたいと考えているからです。そのため、毎回の音楽会でロケーション写真も撮影しています。

落合陽一

さいごに

この写真展はライカギャラリー東京で開催されている展示と対をなしライカギャラリーの独自の世界観も加わって非常に面白い体験ができます

ちなみに、このイベントの約5時間後に下記イベントも開催され、落合陽一さんの「デジタルネイチャー」哲学を深く体験できる充実した一日となりました。

また、9月17日(日)からは、飛騨高山の重要文化財・日下部民藝館で特別展「落合陽一:ヌル即是計算機自然:符号化された永遠、オブジェクト指向本願」が開催されます。

今年はさらにパワーアップしているとのことで、落合陽一さんのアーティスト活動が益々注目されています。

落合陽一さん主宰の「落合陽一塾」では、作品の構成やコンテキスト、制作過程の深層、さらには塾生からの質問への回答まで、情報が豊富に共有されます。そして、実際に作品に直接触れることで、理解が一層深まり、非常に有益な体験となります。
このnoteでも、今後とも可能な限り情報をお届けして参ります。

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