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6年かけて婚姻届を作る話

千年残る複写式和紙婚姻届『千年婚姻届』のクラファンに挑戦中です!

このnoteでは、千年婚姻届の企画~クラファン公開までの6年間について、SNSの大昔の写真を引っ張り出し、どんな感じで制作を頑張ってきたかを振り返りつつまとめました。

「6年間ってなんぞ...」と呆れられるほど長いスパンの話になるのですがよかったらお付き合いください。

IT系ビジコンで婚姻届の話をする男

千年婚姻届の一番最初のお披露目の場は島根で行われたIT系のビジコンでした。私がまだ大学院生だったころなので6年も前の話です。

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当時、地域活性化(当時はまだ地方創生という言葉は無かった)についてとても関心が高かった自分は、地域活性分野の著名な人の公演や、実際に成功した人たちの話を聞くだけではなく、自分の手でも何か地方に貢献できるアクションを起こそうとして、地域に貢献できるビジネスプランを考えていました。

当時は、島根への関係人口(移住ではなく、旅行者なども含めたライト関わりを地域と持った人口のこと)を増やすための「観光」をターゲットにしたアイデアをいくつか考えていました。

「島根製の特別な婚姻届を、縁結びの土地である島根に旅行して提出する旅行、新婚旅行ならぬ"婚姻旅行"を作ろう」という話をまとめ、あと自分が当時プログラミングなどを学び始めていたので無理やりIT系のネタも混ぜ込んで、地域活性化のビジコンではなく、オープンソース活用に関するIT系のビジコンに参加しました。どういうこっちゃ。

当時もお門違いだとは思っていましたが、地域活性化に燃える吉田青年はそんなことを物ともせず、IT系の審査員の前で婚姻届による地域活性化プランをドヤ顔で話続けました。

ノリと勢いとモチベーションが時に人を動かすこともあるのでしょう。「並々ならぬ島根への愛を感じた」というITビジコンらしからぬ理由で学生部門の最優秀賞をもらってしまいました。へんてこな話ですが、これが千年婚姻届の元ネタになる話のお披露目の場となりました。

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翌日のローカル新聞にもかなりデカく載る。おばあちゃんがとても喜んでいました。

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発表内容はまだブログに残ってるので気になったら見てみてください。今見ても熱量を感じられますが、本当にITの話がおまけ程度なのが恥ずかしいです。

また、全国のユニークな婚姻届を調べまくり、それをブログにまとめました。かなり前のブログですが、未だにアクセスが多いニッチな記事になっています。


なんでも婚姻届にこじつけようとする男

ビジコンのアイデアのきっかけになっているのは、北海道上川郡東川町が役所で配布している「複写式婚姻届」でした。

東川町はこの婚姻届を役所でしか配布していないため、婚姻届を提出するためだけに町外からだけでなく本州からもカップルがくるそうです。東川町はこういったアイデアについてはかなりやり手の役場のようで、他にもいろいろな地域活性化施策を行っています。

当時、そのアイデアがあまりにも斬新で感動したため婚姻届を送ってほしいと役場に連絡しましたが、配送はできないと断られ、ならばとこの婚姻届をゲットするために北海道に行きました。謎の行動力を発揮しています。

これの島根版を作ろうと思っていたのですが、そのまま真似してもつまらないのでウンウン考えていたところに出会ったのが、後に千年婚姻届の和紙として使わせていただくことになる石州和紙職人の西田さんでした。

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普通なら、人生で出会うたくさんの人の一人として過ぎ去ってしまうところを、この頃は頭の隅にずっと「ユニークな島根版婚姻届を作るにはどうすればいいか」という問いがあったので出会った瞬間にピースがハマった予感がありました。「1000年残る強靭な和紙」「1300年続く伝統工芸技術」に真っ逆さまに惚れました。

心理学者マズローの言葉に、「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」というものがあります。

大抵はネガティブな意味として、なんでもハンマーを使おうとする、手段が目的化されている という意味で使われますが、一方で、ハンマーを持ったからこそいろいろな釘に気づけるようになる、世界の解像度が上がる という意味もあります。課題感を持つ、モノを作ることの醍醐味は後者のような新しい気付きや出会いがあることだと思っています。


レーザーカッターで婚姻届を刻印する男

島根の石州和紙を使って島根だけの婚姻届を作成するところまでたどり着きました。

さあではあとは和紙に婚姻届を印刷したら完成、のはずが、「和紙にインクジェットなんて無粋だ」となぜか当時の吉田青年は思っていました。せっかくのかっこいい和紙なのだから、単純にプリンターで印刷せず、もっとかっこいい使い方をしたいと思っていたのです(これが沼への入り口ともしれず...)

当時お気に入りだった場所にFabCafeというものがありました。FabCafeは、一般人ではなかなか触れない高価なデジタルファブリケーション機器(3Dプリンターやデジタルミシンなど)を惜しげもなくカフェ内に設置し、比較的安い値段で誰でも使えるというユニークなカフェです。

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今ではすっかり有名ですが、当時はハイセンスな場所だったと思います。通っていた慶應大学SFCでも、「これからはメイカーの時代だ!」と盛り上がっており、自分もずっとファブ系機器で何か作ってみたいと思っていました。ここで和紙婚姻届とメイカーブームが悪魔合体してしまいます。

目をつけたのは「レーザーカッター」と呼ばれる、その名の通り、レーザー光を当てることで物体を切断するファブリケーション機器です。普通はアクリル板や木材など硬いものをデータ通りに精緻に切断するなどに使われますが、FabCafeではデジタルファブリケーション機器を身近に感じてもらう企画の一つとして、マカロン表面をレーザーで薄く削って模様をつけるワークショップを行っていました。

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「これだー!これで婚姻届のフォーマットを焼き込もう!!」
今思えばこれがとんでもないめんどくさいことになるとは知らず!誰か止めてほしかった!!!

お察しの通り、FabCafeでもやはりレーザーカッターの使用料はそこそこのお値段がかかるためどうしたものかと調べていたら、家の近くにあった慶應大学 日吉キャンパス内にFab施設を見つけ、また謎の行動力によって飛び込みで相談すると無償で使わせていただけることになりました。

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今は不明ですが、当時はまだ施設ができたばかりということもあり利用者が少なく、宣伝を兼ねていろいろと融通を利かせていただいたのだと思います。利用実績として制作物を報告するだけでok、という感じで利用させていただきました。(KEIO EDGE Creative Lounge様、その節は大変お世話になりました...!)

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こうして、「和紙にレーザーカッターで焼き込みした婚姻届」の初代号ができあがりました。製作中はレーザーが和紙を焼き、常に香ばしい香りがしていましたが、かなり雰囲気のある出来栄えでした。これを作っていたのは自分の誕生日の日で、我ながら何をしてるのだろうと思った記憶が。

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ここまでで、ビジコンが終わってから1年9ヶ月が経っていました。
(修士論文などで忙殺された&社会人1年目になり忙しくて作業できなかったのも理由です)

この第一号は、島根の友人が結婚するということでプレゼントしました。
とても喜んでもらったのですが、この後からが大変で、

・ SNSにアップしたところ自分も欲しいという人が現れる
・ 量産したいが、レーザーカッターは1枚印刷でもそこそこ時間がかかる&紙の表面を低線量で焼いて削るというイレギュラーな使い方をするため失敗するリスクが高くクオリティーが安定しない
・いつまでも無料でレーザーカッターを使わせてもらうわけにもいかない...

などなどの理由でそこそこお気に入りではありましたが、レーザーカッターを使う案は長くは続かずボツとなりました。

Fab機器に詳しい友人が個人向けの卓上レーザーカッターの利用を勧めてくれましたが、当時はまだそれほど工作精度の高いものではなく、印刷(レーザー照射)した文字が不鮮明になるなど問題も多く断念しました。

最終的には和紙にインクジェットプリントする形で婚姻届を作る一般的な方法にシフトしました。
印刷にはこだわっていましたが、インクジェットプリントしたものも、レーザーで文字入れしたものと比べてとても綺麗に鮮明に印刷されるので、今ではすっかりお気に入りです。カラーバリエーションをつけられるところもインクならではの良さです。

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・和紙の色に合い、かつ婚姻届として似合う色はどれか
・婚姻届として最適な和紙の厚さはどれくらいか
など、細かいチューニングを比較して、こだわりの「和紙婚姻届バージョン0」を作っていきました。


期限無し・手弁当・Noペナルティー・完成精度不問の趣味制作について自分自身と戦う男

この後は2年間ほぼ進捗が無い状態が続きます。

社会人1,2年目の目まぐるしい生活だったり、新しい制作を始めたり(フォント識別ロボット, 声でお祝いを届ける電話アプリ, 結婚式企画プロデュースなどをやってました)一気に大停滞です。締切がない個人制作の最大の敵ですね...

良い加減キリのいいところまで進めねばと思い、締切を作る意味で「クラウドファウンディングをやってみよう」と思い立ちました。しかしこれが本当に大変です。

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クラウドファウンディングは、「プロジェクトを公開してから制作を始める」イメージがありましたが、実際は「プロジェクトを開始するまでにほぼ製品完成をしておかなければならない」のです。

有名人でもない、実績もない人は、「まだモノはできていませんが完成させますのでクラファン支援お願いします!」では応援は集まりません。魅力が伝わる程度に完成したものを紹介して初めて、応援してもいいかな、というスタート地点に立てます。

なので、クラファンを始めるまでに自費でプロダクトを作り、しかもそれがまともに機能するか確かめるために何人もテストユーザーを募りプロトタイプの精度を上げる必要があります。

今回の婚姻届でいえば、「著作権などを侵害していないか」「問題なく役所に受理されるか」「複写に問題は無いか」「配送方法などのコストを抑えて利益を出せるか」「安定量産できるか」「トラブルがあった場合の対応をどうするか」などは、「プロダクトが魅力的かどうか」以前に最低限クリアしておかないといけない課題です。

これらの地味で退屈な作業は実際にやるととても辛いものがあります。常に自分の中の「別にもう辞めても良くない?誰も何も言わないよ?」の声を無視し続けなければいけません。

なぜ続けられたかといえば、自分の中に「これは確実に一部の人達にとって最高のプロダクトになる」という確信があったことが大きいです。
そして実際に注文してくれる人が、少ないながらも途切れずいてくれたことです。

個人がSNSの範囲で発信しているものを見つけ、わざわざ注文してくれる人は熱量の高いマニアックな人で、大体の場合熱いメッセージを添えて連絡してくれます。それに対して「現在は作ってないから無理です」と返信するのが忍びなかったというのがあります。

そんなこんなでいろんな理由に鼓舞されつつ、きちんと利用が可能で、我ながらイケてると思えるものが出来上がっていきます。ようやくクラファンを始められるスタート地点にたどりついたのがビジコンからちょうど4年目くらい。

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いくつかのクラファンサービスを比較し、地域クラウドファウンディングであるFAAVOを最終的に選択し、ページを作成していきました。

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「どうやらこいつはほんとにやるっぽいぞ」という雰囲気が伝わりだし、石州和紙職人の方々が所属する石州半紙技術者会様から許可いただき、公式ロゴを婚姻届に付けさせていただけることに。

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個人の趣味制作に公式ロゴが!ということでとても嬉しかったですが、同時に、「自分もプロダクトロゴを作りたい!」という気持ちが湧き上がり、先の結婚式企画を一緒に取り組んだデザイナーさんに相談してロゴを作ってもらいました。ここまで綴ってきたような思いをギュッと閉じ込めて形になり、愛着もマシマシ。ここまで来るともう我が子のよう。

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ロゴ制作についても以下のnoteにまとめていますのでぜひ。

和紙婚姻届の名前も『千年婚姻届』と名付け、クラファンが始められるところまでやってきました。


サブリターン品を作るために女子力を高める男

自分がクラファンで世に出したかったのは千年婚姻届一本でした。

ただ、クラファンを実施して成功するにはターゲットが狭すぎました。
事務局側からも「婚姻届は必要ないが、プロジェクト自体は応援したいという人向けに、他にもリターン品を用意すべし」とのお達しがでました。
またここで大ブレーキとなります。

千年婚姻届の制作・販売だけがモチベーションである自分にとって、他のリターン品を用意するモチベーションまでは残されていませんでした。
しかもなかなか条件が厳しく、

・気軽に応援しやすいように1000~3000円の金額帯で何か用意する
・千年婚姻届の世界観に合わない(関係の無い)リターン品は並べない
・クラファンだからと甘んじて、不当に内容と不釣り合いなリターン品を並べない
・配送料がかさむと低金額リターンから利益が捻出できなくなるので、配送料が極力かからない極小さいもの

あたりが(自分ルールも含めた)条件でした。
個別にはクリアできそうですが、4つともを満たし、かつ「島根」「和紙」「婚姻届」に関係するようなものを考えて用意する。アイデアだけでいえば、千年婚姻届を考えるより難しいものでした。

詳細は省きますが、アイデアを探し回っていたときに、石州和紙でペーパーフラワーを作成するワークショップをされていた方を偶然見つけ、許可を頂いた上でアイデアを少し加え、ペーパーフラワーのハーバリウムをリターン品に加えることにしました。

花はとても好きなので、和紙で花モチーフの物を作れるのはとても嬉しい縁でした。
更に予算が限られる低金額のリターンとして自作のピアスも出すことにしました。


どちらも制作・材料費はそこそこの手間とコストが掛かっていますが、婚姻届のサブリターンだから、低金額のリターンだからと妥協したくなかったのが本音です。予算が限られる分は手間コストをゼロとすることで乗り切る作戦です(継続は難しいのでクラファン限定リターンです)

人生初のハーバリウム作成・ピアス作成はyoutubeを見ながら学びました。youtubeは全知全能の神。自分が女性向けのピアスを自作する日がくるなんて想像もしてなかった。

コロナによる生活の一変もありましたが、サブリターンの企画・制作でここでまた+2年が経ちました...

これでようやくクラファンを開始するためのすべての準備が整いました。


クラウドファウンディングを達成する男

今回のクラファンの目標金額は30万円です。数百万円のファンディングがたくさんある中で決して大きくはない金額ですが、婚姻届という物の性質上、多くの人はある年代の時に1度だけ手にするようなプロダクトで、しかも普通なら無料で手に入るものに5000円を支払ってもいいという人は、単純な統計データ推定よりもずっと少ないと思っています。

ただ、「1000年残る」「1300年の歴史を持つ伝統工芸技術」「手元に残せる複写式」「ご縁のくに 島根」という点は、見る人が見ればとても深く刺さるセールスポイントだと思っています。本記事を執筆段階では、残り15日でまだ65%しか達成していませんが、なんとか達成できるよう、宣伝等々を頑張りたい...!

締め切りマネジメントをちゃんとやってなかったり、モチベーションが薄れて停滞したりと、自分の不徳の致すところが多いのですが、この記事をきっかけに、「千年婚姻届への熱い思い」が伝わったら良いなと思います!
趣味制作を売り物レベルまで完成させること、めちゃくちゃエネルギーがいります...!

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