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SDGsのキーワード:2050年と1.5℃

2020年12月、菅内閣が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を宣言しました。自治体でも、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにし、世界の平均気温を産業革命前の1.5℃上昇までに抑える取り組みが始まっています(例:東京都京都市北茨城市北杜市など)。こうした取り組みがSDGsとどう関係があるのかをまとめてみました。

なぜ、「2050年までに二酸化炭素の排出量をゼロ?」

SDGsのなかでも環境に関する取り組みは、実は2030年では終わりません。「二酸化炭素の排出量を2050年までに実質ゼロにする」という目標が別にあるからです。SDGsを環境の側面から考えるとき、欠かせないのがパリ協定です。これはSDGsの3本柱「環境」「社会」「経済」のうちの環境が、パリ協定という別の国際合意と連携しているためです。パリ協定では、世界の平均気温を産業革命の前から1.5℃までに抑えるという目標を定め、(1.5℃目標)、このためには2050年までにCO2排出量を実質ゼロにしなければならず、SDGsの最終年である2030年には、2010年の排出レベルに対して45%まで削減する必要があるのです。

パリ協定の概要
・世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求す
 ること。
・主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。
・全ての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し,レビューを受けるこ
 と。
・適応の長期目標の設定,各国の適応計画プロセスや行動の実施,適応報告
 書の提出と定期的更新。
・イノベーションの重要性の位置付け。
・5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組み(グローバル・ス
 トックテイク)。
・先進国による資金の提供。これに加えて,途上国も自主的に資金を提供す
 ること。
・二国間クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムの活用
                            出典:外務省

IPCCの報告:1.5℃と2.0℃の違い

1.5℃目標は 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による科学的知見に基づいて決められました。IPCCは、現在の地球温暖化には疑う余地はなく、20世紀半ば以降から見られる地球全体の平均気温の上昇、つまり地球温暖化の主な要因は、人間活動による可能性が極めて高いとし、世界の平均気温の上昇を産業革命前の2.0℃に抑える、望ましくは1.5℃までに留めることで、気候変動のリスクが低減されるとしています(図1)。

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気候リスク:温暖化1.5℃と2℃の違い
出典:WWFウェブサイトを翻訳

パリ協定のゴール

IPCCの報告を受け、パリ協定では気候変動対策として2つ分野で取り組みを進めることが定められました。1つは、これ以上気候変動を進行させないための緩和策、もう一つは気候変動の影響に適応策の推進です。そして、このそれぞれに世界で目指すゴールを設定しましました。緩和策は1.5℃目標、適応策は「適応能力の向上」「強靭性の強化」「脆弱性の低減」の3つの取り組みを推進することです。この適応策のゴールは、SDGsのゴール13番のターゲット、「すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。」と一致しています。

緩和と適応

SDGsの達成を強化するパリ協定のゴール
出典:Adaptation Gap Report 2017から引用、翻訳

実は困難なSDGs

しかし、SDGsの達成には非常に多くの困難が伴うことが明らかになりました。2020年はコロナによって全世界的に経済活動がストップしたことにより、温室効果ガスの排出量が当初予測より6%削減することができましたが、それでも2020年の削減目標値であった2010年時点での排出量に対する7.6%削減は達成できませんでした。つまり、コロナ禍ような経済を抑制した状態を続けても、1.5℃上昇で抑制するために必要な温室効果ガスの排出量削減目標には及ばない、ということが明らかになったのです。

パリ協定ではイノベーションの重要性を認識し、気候変動の影響を食い止めるためには技術革新が欠かせないとしています。またSDGsの達成について、2030アジェンダでは「我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している」としています。コロナ禍では、私たちの生活様式が様々な形で変化しました。これらの変化をチャンスととらえ、これまでの常識を覆すような革新的な方法でグリーンリカバリーを目指すことが、SDGsの取り組みに欠かせなくなっているのです。

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SDGs達成に必要な変革への意思決定の経路
出典:IPCC 1.5℃特別報告書から引用、翻訳

参考資料
首相官邸   地球温暖化対策推進本部 (令和2年10月30日)
東京都   東京都の気候変動対策~ゼロエミッション東京の実現を目指して~
京都市   1.5℃を目指す京都市の地球温暖化対策
北茨城市   2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」に取り組むことを宣言します 
北杜市   ゼロカーボンシティ宣言
IPCC    1.5℃特別報告書
環境省   IPCC「1.5℃特別報告書」の概要
UNEP   Adaptation Gap Report 2017
WWF    Why 1.5 ℃?
増田 大美(2019)持続可能な開発目標(SDGs)と気候変動
国連   持続可能な開発目標(SDGs)報告 2020



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