ひとりごと

ひとりごとを集めたゴミ箱がある。
あちこちの通学路の排水溝に蹴った石たちが、流れ流れて薄暗い瓶の底に集まっていくような。

今日もゴミ箱を漁った。
瓶の中は人間の腐ったような匂いが充満している。ひとりごとたちも、カビが生えているのは当たり前で、たいていがヘドロの塊と化している。
みんなのひとりごとは、結構面白い。夢中になって声を聴く。人それぞれに腐り方がある。その人の生活が手に取るようにわかるひとりごともある。
そのうち耳と鼻が疲れてくる。情報過多だ。本来なら切り上げて、瓶の淵から外に出なければいけない。しかし、頭が重たい。足は思うように動かない。手の届く範囲のひとりごとすべてが呼んでいる。だめだ、瓶の底に吸い寄せられてしまったみたいだ。
何度か、あがいて、あがいて、ひとりごとを物色しているうちに、あるものを見つけた。
それを手に取ると、ふといつもの通学路の光景が思い出された。つい一年ほど前までの友人たちが笑っていた。太陽の熱を吸ったアスファルトに、足が弾む。何気ない日常のひとコマ。以前僕がつぶやいたひとりごとだった。
願って、足を踏ん張る。垂直の壁をすべりながら登って、僕は瓶の外へ出る。

目が痛い。この部屋はすこし眩しい。外に目をやると、いつもの通学路が何食わぬ顔でそこにあった。夕陽は家々の影を伸ばす。日常だ。
日常だった。僕だけの。僕のための。

もらったお金は雨乃よるるの事業費または自己投資に使われるかもしれないし食費に消えるかもしれない