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写真と短歌と少しだけ生きやすくなった私のこと
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あの頃から比べたら、少しだけ器用になった。
会話は内容じゃなくてリズムなんだって分かるようになった。
「どうしても」をうまく手放せるようになった。
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生きよう生きようって努力しすぎたのかな。
うれしいことのはずなのに、どこか違う気がする。
どうして違うのかが分からない。わからないまま努力する。
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東京はどこか物差しが狂う、ブラックホールみたいな場所だと思う。
私は新宿を歩く才能が無いので、今日も車窓からビル群を眺める。秋葉も原宿も通り過ぎる。
列車のドアにもたれる。座り込んでしまいたいほど疲れた。
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着て夢を見るワンピース裾がひらひら舞う夏は来ない
まともな服を着ている。
アリの匂いを纏ってアリに擬態し、巣に寄生する蜘蛛がいたっけ。私はそれに、かなり近いと思う。
演技がうまくなるごとに中身まで人間になっていくのかもしれない。今のところ私の内臓は腐敗しきっているのだけれど。
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死体というのは自分なのかもしれないし他人なのかもしれない。
ただやはり靴底から間接的に伝わる、力の抜けた肉体の、変に柔らかい、無抵抗な感触だけは残っている。
あばらを蹴り上げて死体をひっくり返したとき、わずかに「ひっ」という呼吸の音が聞こえた気がした。
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インターネットの海を漂っていると、ここもひとつのブラックホールであると思った。
砂浜の力を奪うような凹凸に、もつれそうになり、リズムも定型から外れてゆく。
ここを歩く才能も無い。若人と海。飲まれそうになりながら、喉の奥で破くように発する一言。
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気付けば私はブラックホールのかなり深みにいるのかもしれない。
だれの声も聞こえない深夜になっても、私の心臓は早鐘を打つ。
円の中心はだれからも等距離に離れているが故に特異点となり、そこでは孤独の一番濃縮された空気が渦になって吹く。風と濃霧の中で私は仲間を探している。
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悲劇の主演とヒロインは、舞台が壊れるほど駈けまわる。台本を飛ばして、自語りをはじめる。彼らは観客などまったくみておらず、そこに繰り広げられる風と光と飛沫と温度を全神経で吸っている。
彼らは、いや、「彼ら」に託すのはよそう。私たちは、抗っていた。世界の中心が晴れるように、晴れるようにと願っていた。
そこにしか場所はなかった。私たちが出会えるのはそこしかなかった。だからそこが晴れるしかなかった。
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”あなたにはほんのたまにしか会えないの
星降る川が歓声たてる日”
初めてライブに行った、これから行くかどうかもわからない人間が詠むにはおこがましい短歌だったかもしれない。
さらにおこがましいかもしれないが、これは彼と、彼のリスナーの気持ちを私が代弁した形の短歌だとみることもできる。
ちなみに、ライブ会場まで運んでくれたゆりかもめにはかささぎという特急が走っているらしい。七夕伝説といえばかささぎ、この短歌も一年に一度しか会えない織り姫と彦星を想起させる作りとなっている。こじつけのような偶然は探せばいくらでも転がっていて、見つけるたびにうれしくなる。
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いくつか、短歌にしようとして、収まりきらなかった感情。
今なら、さらりと詠めるかもしれない。
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Fin.
もらったお金は雨乃よるるの事業費または自己投資に使われるかもしれないし食費に消えるかもしれない