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『ママはキミと一緒にオトナになる』(佐藤友美著)読書会の記録 [後編]

ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)読書会の記録。
時間を忘れ、ますます話に夢中になった後半の様子です。前編はこちら

佐藤編集長とさとゆみさん

ネガティブ情報との向き合い方

O) メディアではネガティブ記事の方が書かれるし、アクセスも良いと聞きますよね。さとゆみさんのお子さん素晴らしいなと思いながらも、この本ではありふれたことを書いてくださっているので、すごい親近感を覚えます。そうそう!みたいなことがたくさん。そういう人が大半なんじゃないかなって思います。

さとゆみ) そうそう、そういう、別にそんなに困っていない人たちが割と声を出さない。もちろんね、「保育園落ちた日本死ね」とかも大事だと思うんですよ。ああいうことによって変わることもあるから、すごく大事とは思うんだけど、でも、おおむねみんな問題なく生活できてる。そんな大きなこともなく、命に別状なく生活してるっていうことって、まるでニュースにならないじゃないですか。なので、そんなに怖くないよって喋ってくださいっていう取材がときどき来る。

佐藤) 私、『kufura』っていうメディアをやっていますけど、『kufura』は極力ネガティブなことを出さないと決めているんです。ネガティブ方面に振った、なんとなく極端な話ってキャッチーじゃないですか。「親に虐待されたけど、東大に受かった私」みたいなものの方が読まれますよね。だけど、そんな特殊な例ばかりを知ったところでどうなるかしらとも思うんです。だから、『kufura』はもっと些細な日常のことばかり書いています。それはメディアとして勝ちパターンではないかもしれないけれどね。読んでくださる方の中にはお子さんがいる人もいるし、これからお子さんができる方も、特に欲しくない方も。みんなそれぞれの生活を心地良く淡々とやっていこうよっていうことが伝わると良いんですけど。分断しがちですよね。

さとゆみ) そう、分断するのもあるし、やっぱり地味なんですよね、こういう内容って。

Y) 私『kufura』の記事って、良い意味で、安全な気持ちで読めると思いました。今朝、池田屋のランドセルを6年間使ってみたという記事を読みました。すごくバズる記事じゃないのかもしれないですけど、ランドセルを実際に6年間使った後なんて誰も検証してくれない、でもとても興味あります。

佐藤) ラン活のことはよく記事になりますよね。今年はピンクとか。でも、みんながみんな血眼になってラン活やってるかっていうと、そんなこともないかなと思う。良かった、ちょっと地味な記事作っていて(笑)。あれは子供が小学校を卒業して、その6年間使ったランドセルについて書いた記事なんですが、ああいうことって地味に共感しますよね。そういう企画をやっていくのも、メディアの1つの在り方かなと。

Y) そう思います。ショッキングな情報をあんまり取り入れすぎても、自分にあんまりメリットないと思って。ある程度世の中で何が起こっているのか知っておくは必要あるけど、必要以上にネガティブな記事を取り込むと、なんだかもう周りの人やこの世は全部悪と思えてしまう。『kufura』の記事良いな。あと、『kufura』にはこの本に収録されなかったエピソードも載っていますよね。そちらを読むと、番外編を見ているような気がします。

さとゆみ) そうです、ありがとう。本にするにあたって、ウェブサイトでの連載を6割ぐらいにしたんだよね。4割ぐらい落としているので、良ければそちらも読んでみてください。

佐藤) サイトには全部残っているので、合間合間のエピソードも楽しめるかと。

H) 安全に読めるって大事です。うちは中学受験がだんだん聞こえてきて、もうどうしようって常にあおられているような気がしています。でも記事を読むと、あ、なるほど、こういう考え方があるんだって気付けます。

キラキラ情報との向き合い方

 S) 今って調べれば何でも出てきますよね。調べる時って自分が不安だから、マイナスなことばかり目に入ってしまう。さらに不安になって調べていくと、大げさなのが出てきたりして。見なきゃ良いのにと思うんですけど、ついつい見ちゃう。

A) そこで反省する自分もいるんですね。負の方に引きずられていって、読んだ後に、読まなきゃ良かったって。

H) 私はキラキラした人のインスタはちょっと見られないです。羨ましすぎて。でもそういうのもちゃんと読める、キラキラ耐性がある強い人もいるんですよね。

さとゆみ) そういうの、キラキラ耐性っていうんだね(笑)。

佐藤) SNSは無料でキラキラが出せますからね。『kufura』ではインスタももちろんやっていて、キラキラはあえて載せないんです。だって、それ実際やるかなって思う。私自身がやらないよって思うキラキラなことは載せないっていう感じかな。みなさんそこまでキラキラにお金と時間を使える方ばっかりではないですよね。

さとゆみ) 『kufura』って、小学館さんの媒体なんですね。小学館ってアイデンティティがドラえもんなんだよね。ミッション・ビジョン・バリューみたいな、そういうことではなく。すごい面白いよね。雑誌として1番偉いのは、『小学一年生』なんですって。そこがすごく健全というか、あおったりしないというか、安全安心って感じがすごくあって。だから今回のエッセイのようなセンセーショナルじゃないことも、ずっと連載させてもらえるんだなって感じる。

佐藤) そうですね。新入社員で入った時に、それはドラえもんに恥ずかしくないのかって言われる。そういう価値観の会社なんです。責任を持ってドラえもんを出している出版社がやって良いことかを考えろって言われて、何よりそれが分かりやすい。ドラえもんを知らない人って、あんまりいないですよね。だから、ミッションとかビジョンとか言われるより、よっぽど「それはドラえもんに恥ずかしくないのか」って言われると、「ですよね」みたいな気持ちになって。うちは割とそういう安全な会社で、すごくキラキラな雑誌とかはないんですけど。
今ネットで何でも無料だから、わざわざ紙の書籍って、きっかけがないと買わないでしょうか。皆さん、どうですか?ネットで無料で読めるものだけではなくて、たまには誰かが志を持って作った、お金を払って得るものを読んでいただけると嬉しいなと、出版社の人としては思いますね。

N) 失礼な言い方だったら申し訳ないのですが、ここに書かれている内容って誰かのブログにも書かれていそうな日常のシーンも多かったと思うんですけど、やっぱり無料のものとは全然、格段に価値が違うなって感じます。プライバシーに関わる部分や世の中の情勢に対して、責任をもって、厳しい目を向けながら作られているから。私はこのタイトルだけだときっと自分では手にしない本だから、この読書会をきっかけに読む機会をいただけて本当に嬉しくてありがたかったです。

さとゆみ) 嬉しいです。すごい、そう言っていただけて。

佐藤) ママじゃないとね。そう、まずはママが手に取るようなタイトルなので。でも、ママの知り合いがいない人っていないですよね。自分もママに育てられたわけだし。そういう風に広がると良いなと。

『ママキミ』を他者を知るきっかけに

I) 私は子育てエッセイって読んだことないかったんです。自分は子育てしていないし、自分には関係ないという感覚で。でも今回初めて子育てについて書かれているものを読んで、子育てしている人たちが何を考えて、何を見て生きてきたのかを見られることがすごく面白いなと思いました。20代後半くらいからライフスタイルがそれぞれ変化してきて、子育てに専念している友達とはなんとなく疎遠になってしまいました。でも、その人たちがどんなことをしてここまで来たのかが本を通して分かるのがとても面白かったです。
この本を読んで、みんなそれぞれが通ってきた道を共有しあったり、自分の経験を交換し合えるって素晴らしいなと思いました。ママたちが何をしてきたのかを知ることができる。逆に私たち、子育てしてこなかった人たちも、こういうことしてきた、こんなこと考えてきた、こんな人に会ってきたみたいなことを共有して交換するのって面白いなって思います。本ってそういう媒体になり得るというのが発見でした。その環境だからこその視点や考え方ってたくさんあるんだろうし。それを知るのってとても新鮮です。そういう循環ができると、すごく良いなと思いました。

T) 本の中で「自分で知ろうとしないと身に付けられない」という任天堂さんのエピソードがありましたよね。例えば子育て中の友達に対して、私分からないからもういいやと思ってしまうのは違うなと思いました。人間関係を続けていきたいから、今後自分がいろんな人と接していく中でも、相手がどういう考え方をしているのかが分かっていると、もっと楽しくなりそう思いました。会社でも、プライベートでも。

N) 相手を知ることがとても大事というのは良く分かるんですが、同時に今って属性や家族構成、独身とか子供がいるかって踏み込んで聞いちゃいけない空気も強いですよね。だからこの本のように、属性にかかわらず間接的に1人の人に関して知れるものがあるとすごく便利だなと思います。ここから知識を吸収して、例えば子育てされている方に対して、こういう時どうしてるのみたいなことを聞いてみることもできるし。直接的な会話ができない最近の環境の中でこそ、こういう本が会話のフックとしてすごく役立つと思いました。

さとゆみ) 明美さん、それよく言ってましたよね、それが文学の役割であるみたいなこと。

佐藤) まさにそう思いますね。私も子供がいないから、さとゆみさんから原稿を受け取って、「ほー、サンタさんをまだ信じているのかー」と思ったりしました。それぞれ子供にも事情があるし、原稿を読んで、サンタがバレるような記事を出してはいけないんだなと思ったり。

さとゆみ) あの時、私タイトル変えてもらったんですよね。『ママがサンタなの、サンタってママなの』みたいなタイトルを提案してくれたんだけど。

佐藤) そうそう。そこは私気付かなくて。「ママがサンタなの」みたいなことを問いかけたセリフがあったんですね。だからそれをタイトルにしたらどうかなと思ったんです。でもそうすると、実際の息子さんを含め、それを目にした子供たちが自分のママにそれを聞いてしまったらご迷惑をかけてしまうとさとゆみさんが指摘してくれて、『年末サンタ攻防戦』っていうタイトルにしたんですよね。この本がきっかけでバレてしまったら、それはそれは大変なことだ、と。自分に子供がいないから、子供がいる人の生活を読むと、ほほーと思いますね。リアルな体験を聞くと、初めて知って納得することが多いですね。立場の違うお互いを分かり合うのに、こういう本は安全でね。他人のことはしょせん分からない。知ろうとするためのフックを何に置くかということで、こういう地味でも安全なものをフックとしていくと良いかなと思うし、皆さんがそういう風に受け取ってくださると良いなっていう気持ちで送り出しています。

M) 私これ読んだ後に、すごく人が愛おしいなっていう気持ちになったんです。とても温かい気持ちになって、そのリアルな日常のやり取りも丁寧に探っていくと、そこに豊かな交わりがあるんだなって。それを再発見させられた気持ちになったのと、子供に対してというよりも、あらゆる人間関係に対して、好奇心をもって、違う相手を面白がるということを大事にしたいなと強く思いました。

さとゆみ) 私はね、いろんなタイプの物書きの人がいると思っているんです。私はいつも自分がどんな文章を書きたいかなと思うとき、地球を2個想像してるんです。地球Aと地球Bがあって、そこはパラレルワールドで、私は地球Aの住人なんです。地球Bには私がいない。私がいる地球Aの方はちょっとみんなが優しかったり、柔らかくなったり、あったかい気持ちになったら良いなって思いながら書いたり喋ったりしているんです。私が出す文章が世の中を分けないこと、誰かを攻撃しないこと。それをいつも思っています。いろんな芸風の人がいるので、切り込む人がいるのも良いと思います。でも私の芸風としては、ちょっとみんながあったかい気持ちになるようなものを書きたいなといつも思っていて。いわゆるエッテストとして活躍されている方々って、やっぱりすごくシャープであられたりとか、自己肯定感が低いということを立脚点として書かれていたりとか、マイナス面を0やプラスに持っていくっていうところを強調されている方が多いと聞いたことがあります。でも、私あんまり世の中に不満ないし、あまり悪いところも見ないタイプで。ぼーっとしてるんですよ。でも、そういう風に見えることが私の書き手としての個性ではあるので、これからもなんとなく全体的にみんなこう行きません?みたいな感じの文章を書いていけたら良いなと思っています。

質問はギフト

 I) 人って考えていることがあるから話すこともあるけど、人に聞かれて考えるっていう順番もありますよね。さとゆみさんの息子さんが物事を細かく考えられる子になったのって、さとゆみさんが次々にいろんな質問をするからなのかなと思ったんです。さとゆみさんのインタビュアーとしての質問力が活きていて、彼が答えたことをさとゆみさんが分析して文章にするという流れでこの本になったのかなと思いました。子育ての前後で、こういう話も聞いてみようとか、こういう風に分析してみた、のようなところに何か変化はありましたか。

さとゆみ) 「なんでそう思うの」とはよく聞きます。なぜなら、うちの子、それを聞いて納得しないと動かないんですよ。
この間、シルク・ドゥ・ソレイユを見に行ったのね。正面のすごい良い席だったんですよ。でも、上演中にトイレに行った息子が、10分も15分も戻って来なかったの。そうしたら、トイレに行く途中の通路にモニターがあって、モニターの方が人の表情が良く見えて席より全然良いからずっとそこにいたって言うのね。それで、僕は後半もそこで見たいって言うの。9500円の席!って思うわけじゃないですか、親としては。でもその理由を聞いたら、まあ、それなら仕方ないか、と。理由を聞くと、こちらの考え方や次の行動が変わるよね。その理由なら、この席に戻ってこいって言っても仕方ないなって思ったり。お金出したのに、というのはこちらの事情だし。ほんと、デジタルネイティブにおけるライブって何?って思った。でも、最後の空中ブランコになったら戻って来た。あれは全体見たほうが良いって思ったのかも。
うちの子は理由を聞いて、納得しないと動いてくれないですよ。だから仕方なくそうなった。うちは、聞かないと前に進めなかったんです。
今ね、私ライターさんと『CORECOLOR』っていうメディアを運営してるんです。私のゼミの生徒さんたちが原稿を書いてくださるメディアです。その原稿を見るとき、今までは、何これって思うと赤字をがっと入れてたんですけど、なんでこうしたの?って聞くと、結構みんなそれぞれしっかり理由があるんですよね。理由を聞くと、なぜこの書き方になってるのかが分かる。その理由ならこういう書き方の方が良いかもって提案が変わるんですよね。だから私はどちらかというと、子育てから学んで仕事に運用してる。なんでそのやり方したのって聞くと、向かいたかった方向は同じなんだなって思うことがよくあるから、だったらアドバイス変えた方が良いなと思ったり。あと、人の嫌なところに全く目が行かなくなった。

I) 質問をすると、ですか。なぜなのかを聞くと?子育てをすると?

さとゆみ) なぜなのかを聞くと。イラっとしたり、なんでって思う時って、きっとこの人は怠けているのであろうとか、手を抜いたのであろうとかって勝手にこっちで理由を考えてる。でも、聞くと実はものすごい調べに調べた結果、そのやり方をしてる時もあるんですよね。それを知ると、本当に嫌な人っていないなと思う。

I) 大人にとっても、聞いてもらえてラッキーなことって多い気がします。聞いてもらえたから、自分の考えや思いに気付けたりもする。さとゆみさんがよくおっしゃる、物事を見る解像度を上げていくっていうことですよね。「なんかこれ美味しい。これ好き」「あ、そうなんだ」で終わらせず、どういうところが好きなのっていう話になると、「ここの重なってる部分がさ」とか、「外側の白い部分がさ」と、自分で好きな理由を探し始める。自分でもどうしてこれが好きなのかが分かりますよね。質問してもらうことで気づくことって、たくさんあります。だから、質問をしてもらえる自分でいなきゃいけないなって思います。やっぱりちょっと貫禄出てくると、なかなか人に言ってもらえなくなるじゃないですか。そして、相手がなんでそれを言ったのかなっていうのも、聞いてみると、その人のことがより分かる。知れば知るほど、相手に親しみを感じますよね。

さとゆみ) 私、質問ってギフトだと思ってるんですよね。相手に対するプレゼントだなっていつも思ってます。さっきもお話に出たけれど、今他人のことあんまり聞いちゃいけない空気ってありますよね。もちろん仕事相手だったら配慮しなきゃいけないこともたくさんあると思うんですけど、私はめちゃくちゃ聞きます。めちゃくちゃ聞く。たぶん、嫌がられてないと思うんだよね。

I) 嬉しいですよね、質問されると。興味を持ってもらえてるってことだし。

H) 良いですね。聞いてもらえるって貴重ですよね。

T) 上司になんでそうしたのって聞いてもらえるのはすごく嬉しいです。それで間違ってたら間違ってるって教えてほしいし、あーなるほどね、君はそう思ったのねって言ってくれる人の方がちょっと好きかな。

さとゆみ) 今までは、私の完コピができていない原稿にすっごい腹が立ったの。でも、なんでそうしたのって聞くと、あ、この人の考えてることすごい面白いって思うこともあって。でもそれが伝わってないから、じゃあ、もうちょっと工夫しようかって提案したり、その方法はこっちかもって話し合う方が楽しいなと。いろんな人にいろんなこと聞くと、みんなめちゃめちゃ面白いこと考えてる。世の中につまらない人間っていないんだなってすごい思っています。

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まだまだお話ししたいことはありましたが、残念ながらタイムアップ。充実の『ママキミ』読書会はここでお開きになりました。想定よりも話題は広く深くなり、学びが多く、とても楽しく、実りの多い会になりました。お越しくださったさとゆみさん、佐藤編集長、そして参加者の皆さん、ありがとうございました!


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