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No.17 『バルニバービ』 もはや外食企業ではない

外食企業には強烈な個性を持った経営者が少なくない。わたしが過去に対峙した人物で言えば、ワタミの渡邉美樹さん、グローバルダイニングの長谷川耕造さん、そしてオリジン東秀の安澤英雄(あんざわひでお)さんがベストスリーかもしれない。

なかでも安澤さんは強く印象に残っている。お目にかかったのは2000年初頭であった。京王線の仙川駅から歩いて数分の、甲州街道に面した店舗の二階に本社を置いていたことを覚えている。狭くて粗末な応接室で待ちに待たされた後、ノックもせずに安澤社長が部屋に入ってきたかと思うと、こちらの顔を見ようともせず、虚空の一点を見つめながら、オリジン東秀を立ち上げた経緯を一方的に話し始めた。ダイアローグではない。モノローグである。食に対する狂気なまでの情熱、立地の選定に対する動物的な嗅覚に圧倒されっぱなしの一時間だった。それから一年もしないうちに、安澤さんはガンで亡くなる。残された貴重な時間を新米アナリストに割いてくれたことを感謝した。

バルニバービが決算説明会を開いた。同社の佐藤裕久(さとうひろひさ)社長もまた個性的な人物だ。浅黒い精悍な顔立ちに、襟足まで伸びる白髪がよく似合う。イタリア製と思われる上等なスーツが大柄な体躯にフィットし、周囲を排するような強烈な存在感を放っていた。重厚な容姿とは裏腹に、プレゼンテーションの語り口は実に軽妙で、58歳の年齢にしてはきわめて若々しい。おしゃれを少し通り越して成り金臭さを感じないでもないが、食に対する熱い思い、仲間に対する暖かい眼差しについ惹きつけられた。

簡単に言えば、バルニバービは外食企業である。『GARB』や『GOOD MORNING CAFÉ』、『鹿屋アスリート食堂』や『菊水』など、数多くの多彩な業態を全国に展開しており、社名に聞き覚えはなくても、かれらが展開するカフェやレストランなら一度は利用した人も多いかもしれない。2019年7月期の業績は売上高115億円(前期比+3%)、営業利益5億円(同+20%)。過去5年で売上高は倍増している。

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確かに外食企業ではあるのだが、バルニバービはもっと大きなカテゴリーで捉えた方が良いのかもしれない。むしろ、デベロッパーの色彩が濃いと言える。商業施設や地方自治体などと連携し、出店する業態や立地を街づくりの視点から決めていく。バルニバービの店が進出することで、人の流れが変わり、街の価値が上がり、結果として同社の収益力が向上する。実際、1995年に第一号店を出店し、バルニバービが本社を置く大阪の南船場は、同社の貢献によって周辺施設の賃料が当時から6倍に上昇したらしい。今後はファンドとも手を組んで、デベロッパーとしてのキャラクターをさらに強め、収益の成長ペースを一段と加速させたい考えである。おそらく、外食業界におけるオリエンタルランドに佐藤社長はなりたいのだろう

経営者を育てることにも佐藤社長はエネルギーを注いでいる。マネジメントを志向する有望な多くの若手に、複数店舗をマネジメントする子会社の舵取りを大胆に任せ、その成長を我がことのように喜ぶ姿が印象的であった。「月次の損益が黒字に転じた子会社の社長に対し、つい我慢できなくて真夜中に喜びと労いの言葉を携帯で伝えたんです」。はた迷惑とも受け取れるエピソードから佐藤社長の熱い心が伝わってくる。

同じ外食企業の中ではゼンショーに佐藤社長が敬意を表していたのは意外であった。特に「ワンオペレーション」の仕組みはすごいと絶賛だ。究極に効率性を追求し価格の安さに挑戦するゼンショーの姿勢は、「食材原価と人件費は絶対に下げない」とする社長のポリシーとは必ずしも相容れないように思うのだが、食に対する狂気なまでのこだわりをゼンショーにも感じるのかもしれない。

「株を買うなら、バルニバービとゼンショーがオススメ」。佐藤社長の言葉に食指がつい伸びそうになった。




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