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No.125 『日本電産』 説明会で感じた永守会長の変化

日本電産の中間決算説明会の音声配信を聴きました。好決算は新聞報道の通りですが、最も印象に残ったのは永守会長の「声」であります。非常に穏やかでした。大声で「がなる」いつもの永守節はすっかり影を潜め、凪いだ瀬戸内海のように落ち着いたトーンはまるで人が変わったよう。「あー、これなら最後まで心地よく聴ける」。まさに安心安全の音声配信でした。

永守会長の変化の理由はどこにあるのでしょうか。もちろん、音声配信ということもあるでしょう。アナリストを前にするからこそ、永守会長はメラメラと燃えるのです。あるいは、コロナの影響がもたらす最悪期を脱した安堵もあるのかもしれません。業績見通しの上方修正は期初の時点よりも視界が開けてきた証左でしょう。

個人的に「これだ!」と思ったのが、関社長との良好な関係であります。説明会の冒頭、永守会長もみずから話していました。「ツートップ体制に移行して半年、関さんとのリズムがだいぶ合ってきた。非常に相性の良い関係が築けている」。

関社長と面識があるわけではないのですが、説明会での話ぶりを聴く限り、「要するにこういうこと」という物事の本質をとらえる能力に優れた方のように感じます。担当されているEVモータの動向に関する説明もクリアでわかりやすい。「アンタ、それで何が聞きたいんや。ゴチャゴチャ質問すな!」と、平素からアナリストを叱りつけている永守会長にとって、関社長は極めてストレスフリーなパートナーなのでしょう。

また、声のトーンも落ち着いていて実にいい。目を閉じると竹林の中で話を聞いているような静謐さを感じます。ちょっと古いですが石原裕次郎の声を彷彿とさせる(静謐さとは矛盾する例えでしょうか)。荒ぶる永守会長の心をマインドフルネスな状態に導く効果があるように思います。

実際、関社長には永守会長も敬意を感じているようです。「EVモータのオペレーションは関社長に安心して任せられるので、精密小型モータの成長に力を集中することができる」。スラムダンクに例えるならば、湘北高校で孤軍奮闘していた赤木剛憲が、花道や流川などの強力なメンバーをチームに迎えることで、センターとしてのみずからの才能を大きく開花させたのと似ているでしょうか(似ていないか)。車載用モータの説明を関社長が終えたあと、「当社のEVモータを採用している車種が広がっていることも補足したらどうですか」と、永守会長が敬語で話しかけたことにもやや驚きました。決算説明会の席上、グループ子会社の社長の説明が要領を得ないと、「もうええ。おれが代わりに話すわ!」とアナリストの前で一喝するかつての獅子のような面影はもうありません。

凪いだ海のような声とは裏腹に、日本電産の眼前には巨大な波が押し寄せています。想定されるEVモータの分水嶺は2025年。バッテリーのコストが下がる一方で、各国の排ガス規制が強化されることにより、電気自動車の市場が本格的な離陸期を迎える見通しです。EVモータの販売台数の計画は2025年200万台、2030年1,000万台。足元の受注台数は計画達成の確度が非常に高いことを示唆しています。電気自動車の成長性を早くから確信し、先行的に準備してきた経営の勝利にほかなりません。待っていたら波が来た、のではなく、みずから波を捕まえにいった。まさに「catch the waves」であります。

永守会長と関社長の蜜月がこれからも続きますように。


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